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dazedanon 2025-10-04 11:37:00 -05:00
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@ -0,0 +1,11 @@
\dlg("「ルザリオの迷宮」が使えるようになりました|これでルザリオに進撃できます!")
\dlg("ユニットは予備戦力を介して迷宮間を移動できます。上手く活用しましょう")
\dlg("「シュカの迷宮」が使えるようになりました|これでシュカに進撃できます!")
\dlg("「キロスの迷宮」が使えるようになりました|これでキロスに進撃できます!")
\dlg("金塊と罠の設計図を発見しました")
\dlg("金塊と罠の設計図を発見しました")

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@ -0,0 +1 @@
\sel("侵攻戦チュートリアル","防衛戦チュートリアル","ダンジョン構築画面チュートリアル","ユニット状態について","罠とミニマップアイコンについて","ヘルプを終了する")

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@ -0,0 +1,5 @@
\dlg("アグリが仲間になりました。")
\dlg("マーガレッタが仲間になりました。")
\dlg("ベアトリスが仲間になりました。")

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@ -0,0 +1 @@
\dlg("侵攻戦のチュートリアルを見ますか?||※ワールドマップのヘルプより後から見直せます")

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@ -0,0 +1,11 @@
\dlg("周回データを保存しますか?")
\dlg("周回データを上書きしますか?")
\dlg("周回データを保存しました。")
\dlg("周回データを保存しませんでした")
\dlg("周回データを保存しました。")
\dlg("周回データを保存しませんでした")

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@ -0,0 +1,13 @@
\dlg("10ステージの探索が完了しました")
\dlg("20ステージの探索が完了しました")
\dlg("30ステージの探索が完了しました")
\dlg("40ステージの探索が完了しました")
\dlg("50ステージの探索が完了しました")
\dlg("75ステージの探索が完了しました")
\dlg("100ステージの探索が完了しました")

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@ -0,0 +1,3 @@
\dlg("ダンジョン構築のチュートリアルを見ますか?||※ワールドマップのヘルプより後から見直せます")
\dlg("防衛戦のチュートリアルを見ますか?||※ワールドマップのヘルプより後から見直せます")

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@ -0,0 +1,11 @@
\dlg("クリア状況を引き継いで開始しますか?")
\dlg("  クリア状況を引き継がずに開始します。  ")
\dlg("    トゥルールートを開始しますか?   ")
\dlg("    トゥルールートを開始します。    ")
\dlg("     通常ルートを開始します。     ")
\dlg("オープニングをスキップしますか?")

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@ -0,0 +1,172 @@
\setgamedatatitle("イツキ_再会")
\text
迷宮にマガヒメのために用意された部屋を、
イツキが訪ねていた。
\endtext
\text("イツキ")
「すまない、マガヒメ殿。
 ……私は、約束を果たすことが
 できなかった」
\endtext
\text
開口一番、イツキは頭を深々と下げて
謝罪した。
\endtext
\text
やっぱりね、といった様子でため息を
吐きながら、マガヒメは苦笑混じりに口を
開く。
\endtext
\text("マガヒメ")
「ふふ、いいのよ。
 それに今となっては、イツキが約束を
 果たしてくれなくてむしろ良かったかもね」
\endtext
\text("イツキ")
「ですが、シュカもマガヒメ殿も、
 あの魔王のものに……」
\endtext
\text("マガヒメ")
「でも、あなたもカイムを認めたから
 部下になったんでしょ?」
\endtext
\text("イツキ")
「そ、それは……」
\endtext
\text
途端に顔を真っ赤に染めるイツキ。
\endtext
\text("マガヒメ")
「彼はスケベかもしれないけど、王としての
 器は私より上よ」
\endtext
\text("マガヒメ")
「統治能力も、うちの文官たちが束になって
 もリズベルには敵わないでしょうね」
\endtext
\text("マガヒメ")
「だからシュカの民にとっては……
 この結末がいちばん良かったんじゃないか、
 って、そう思うのよ」
\endtext
\text("イツキ")
「マガヒメ殿……」
\endtext
\text("マガヒメ")
「さ、湿っぽい話はここでおしまい。
 せっかく無事に再会できたんだから、
 もっと楽しい話をしましょ?」
\endtext
\text("マガヒメ")
「……で。イツキもカイムとエッチしたん
 でしょ? どんなことしたの?」
\endtext
\text("マガヒメ")
「……親友であるこの私にだったら、
 教えてくれるわよね?」
\endtext
\text
意地悪そうな笑みを浮かべながら尋ねる
マガヒメ。
\endtext
\text("イツキ")
「そ、それは……例え相手がマガヒメ殿でも、
 それだけは……っ!」
\endtext
\text
赤かった顔をさらに赤くしながら、
イツキは必死で抵抗する。
\endtext
\text("マガヒメ")
「何、私にも言えないっていうの?」
\endtext
\text("マガヒメ")
「ふーん……じゃ、カイムたちにイツキの
 あーんなことやこーんなこと、全部
 話しちゃおっかな~?」
\endtext
\text
目を細めながら、イツキをいじめる手を
緩めないマガヒメ。
\endtext
\text("イツキ")
「そ、それも困る……!」
\endtext
\text("カイム")
「イツキがしょげかえっていると聞いたが、
 どうやら大丈夫そうだな」
\endtext
\text
マガヒメの部屋の前を通りかかった
カイムとリズベル。
\endtext
\text
部屋の中からは、二人の楽しげな声が
かすかに聞こえてくる。
\endtext
\text("リズベル")
「ええ。
 あの二人は昔からの付き合いだったと
 聞いています」
\endtext
\text("リズベル")
「マガヒメさんは、イツキさんの性格も
 扱い方も、よくご存知のようで……
 本当によかったです」
\endtext
\text
イツキは思い込みの激しい性格で、
一度落ち込んでしまうとなかなか上がって
こないところがあった。
\endtext
\text
シュカが魔王軍の前に敗北し、かつその
魔王軍にイツキも参加していたことで
かなり落ち込んでいたのだ。
\endtext
\text("カイム")
「よし、では早速、マガヒメとイツキと
 3Pとしゃれこもうでは……」
\endtext
\text("リズベル")
「はいはい、カイム様にはこれから目を
 通していただきたい書類が、山のように
 ありますからね」
\endtext
\text
カイムの言葉を無視して、リズベルは
執務室までカイムを引きずっていくのだった。
\endtext

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@ -0,0 +1,66 @@
\setgamedatatitle("イツキ_退場")
\text
魔王軍がシュカを征服したとの報は、
瞬く間にニルト中を駆け巡った。
\endtext
\text
女王マガヒメは魔王カイムのものとなり、
魔王の下でシュカは新たな国になるのだと
いう。
\endtext
\text
……もっとも、シュカの民にしてみれば
それも大したことではなかった。
\endtext
\text
統治する者が入れ替わるのは、サンの時代
から日常茶飯事。
\endtext
\text
そんな中でも、民たちはたくましく
生きてきたのだ。
\endtext
\text
だが。
その一報に衝撃を受ける者もいた。
\endtext
\text
魔王軍と激しい戦いを繰り広げていた
剣士、イツキだ。
\endtext
\text
魔王カイム討伐の任をマガヒメから直々に
下されたイツキは、それをとある街角で
知った。
\endtext
\text("イツキ")
「なんということだ……私は、マガヒメ殿
 との約束を守ることができなかった……!」
\endtext
\text
無念の涙を浮かべ、口を硬く結ぶイツキ。
\endtext
\text("イツキ")
「友との約束ひとつ果たせずして、何が
 シュカ一の剣士だ……」
\endtext
\text
傷心のまま、人混みの中に姿を消すイツキ。
\endtext
\text
――そしてその後、ニルトでイツキの姿が
目撃されることはなかったという。
\endtext

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@ -0,0 +1,124 @@
\setgamedatatitle("イツキ_12")
\text("イツキ")
「…………」
\endtext
\text
迷宮の入り口に再び立ち、イツキはわずかに
肩を揺らした。
\endtext
\text("イツキ")
「二度と……後れは取らない」
\endtext
\text
そうつぶやき、『咎切』の柄に手を置く。
\endtext
\text
同時に、『咎切』がかすかに震えたような
気がした。
\endtext
\text
恐らく、持ち主であるイツキの気合いに
応じて『咎切』もまた昂ぶっているのだろう。
\endtext
\text("イツキ")
「魔王……カイム……」
\endtext
\text
その名を口にすると、わずかに心がざわめく。
\endtext
\text
犯され、処女を散らされたという屈辱と
同時に、自分を女として求められたという
複雑な思い。
\endtext
\text("イツキ")
「いい女……」
\endtext
\text
カイムは確かにそう言った。そして、
だからこそ自分が欲しいのだ、と。
\endtext
\text("イツキ")
「いけない」
\endtext
\text
イツキは、首を振って頭に浮かんだ雑念を
追い払った。
\endtext
\text
そして、今度こそは決着をつけるという
決意を胸に、迷宮へと足を踏み入れる。
\endtext
\text
………………
\endtext
\text
…………
\endtext
\text
……
\endtext
\text("アグリ")
「失礼するぜ、カイムの旦那!」
\endtext
\text("カイム")
「……どうした、そんなに泡を食って」
\endtext
\text("アグリ")
「のんびりしてる場合じゃないぜ。例の
 女剣士がまた来やがった」
\endtext
\text("カイム")
「ほう、飛んで火に入るなんとやら、だな」
\endtext
\text("リズベル")
「アグリの言うとおり、悠長なことを
 言ってる場合じゃありませんよ」
\endtext
\text("カイム")
「わかっている。対策は立てたのだろう?」
\endtext
\text("リズベル")
「ええ。もっとも効果的と思われる策を
 講じましたが、果たして役に立つか
 どうか……正直、自信がありません」
\endtext
\text("カイム")
「ふふっ、お前の知恵と、あの『咎切』とか
 いうカタナの魔力、どちらが優れているか
 見ものだな」
\endtext
\text("カイム")
(そうだ。そう来なくては面白くない)
\endtext
\text
心の中でそうつぶやきながら、カイムの
口元は、自然と緩んでいた。
\endtext

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@ -0,0 +1,220 @@
\setgamedatatitle("イツキ_16")
\text
執務室にいるのはカイムとリズベルに、
ハクシャの偵察に出ていた
マーガレッタとアグリ……。
\endtext
\text
そして、イツキだ。
\endtext
\text
彼らは、幻像石によって映し出された
映像を観ていた。
\endtext
\text("シュカ兵3")
「マガヒメ様ひとりの命で、
 魔王を討てるのなら安いものだ」
\endtext
\text("シュカ兵2")
「ここには簒奪者の味方はひとりもいない。
 魔王とともに死んでいただきます」
\endtext
\text("イツキ")
「…………」
\endtext
\text
起動している幻像石が映していたのは
ハクシャで起きた一連の出来事だ。
\endtext
\text
兵たちによるマガヒメへの叛意。
そして、ディアボリカへの暴虐。
\endtext
\text
それらは、イツキを引き込むためにカイムが
幻像石で隠し撮りしたものだった。
\endtext
\text("イツキ")
「……これは、事実なのか?」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「事実じゃよ。
 信じる信じないはお主の自由じゃがな」
\endtext
\text("イツキ")
「マガヒメ殿は、今どこに?
 ここに連れてきているのか?」
\endtext
\text("カイム")
「ツーシンの仲間に連れ去られた。
 だが、しばらくは無事だろう」
\endtext
\text("イツキ")
「そう、か……。
 ご無事なのか……よかった……」
\endtext
\text
彼女が無事と聞いて、イツキはほっとする。
\endtext
\text("リズベル")
「ですが、それも長続きしないでしょうね」
\endtext
\text("イツキ")
「っ……」
\endtext
\text("リズベル")
「あなただって、わかっているでしょう。
 敗者がどんな目に遭うのか」
\endtext
\text("イツキ")
「…………」
\endtext
\text("リズベル")
「……助けたくはありませんか?
 あなたの友人なのでしょう?」
\endtext
\text("イツキ")
「……いい、のか?」
\endtext
\text
マガヒメを助ける。
その言葉に、イツキは顔を上げた。
\endtext
\text("カイム")
「まあ、もとからマガヒメは俺のものに
 するつもりだったからな。
 いいも悪いもないのだ」
\endtext
\text("カイム")
「それに、だ。
 俺はお前を必要としている」
\endtext
\text("イツキ")
「私が、必要……」
\endtext
\text("カイム")
「うむ。俺の力には、なってくれんか」
\endtext
\text("イツキ")
「…………」
\endtext
\text
その言葉に、イツキはしばしの間考え込む。
\endtext
\text("イツキ")
(マガヒメ殿を守るためだ……。
 決して、カイム殿の言葉にほだされた
 わけではない……はず)
\endtext
\text("イツキ")
「……判った。マガヒメ殿のためだ。
 貴殿の力になろう」
\endtext
\text("カイム")
「む。俺のためにとは言ってくれんのか?」
\endtext
\text("イツキ")
「それは……カ、カイム殿の力になると
 言った。それでいいではないか……!
 だいたい、私は……その……」
\endtext
\text
言った側から、顔を真っ赤にしていくイツキ。
\endtext
\text
こういう時、言葉を重ねれば
その分墓穴を掘っていくものである。
\endtext
\text("カイム")
「ふふふ。そうだな。
 俺のためにも今後は頑張ってもらうぞ」
\endtext
\text("イツキ")
「……う、うむ。
 カイム殿の、ためにも……」
\endtext
\text
マガヒメを助けたい。
だが、同時にカイムの力にもなりたい。
\endtext
\text
そう自覚してしまうと、
カイムの言葉も否定できなくなってしまう。
\endtext
\text
控えめにこくんと頷くイツキに
カイムも満足げに口の端を吊り上げる。
\endtext
\text("リズベル")
「では、皆にも紹介しなければ
 いけませんね」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「うむ。しかし、敵にすると厄介じゃが、
 味方にするとこれほど頼もしい者はおらん。
 私も、少しはラクになるかの」
\endtext
\text("アグリ")
「よし、そうと決まりゃあ手合わせしようぜ!
 俺ぁ、あんたと一度戦りあって
 みたかったんだ!」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「なにをいう。
 そんなことより、歓迎会が先じゃ。
 のお、イツキ」
\endtext
\text("イツキ")
「あ……えっと……」
\endtext
\text
その前に、自身の性格を少しは
改善しなければ……と思うイツキだった。
\endtext
\dlg("イツキが仲間になりました。")

View file

@ -0,0 +1,167 @@
\setgamedatatitle("イツキ_16_10")
\text("カイム")
「どうあっても、俺の配下には
 ならんというのか?」
\endtext
\text
リズベルが見守る中、
彼女は申し訳なさそうに視線を伏せてしまう。
\endtext
\text("イツキ")
「……私には、無理だ。
 それだけは……マガヒメ殿に剣を向ける
 ことは絶対にしたくない」
\endtext
\text
頑として、イツキは首を縦には振らない。
その一点だけ言い続け、
カイムの申し出を断っていた。
\endtext
\text("カイム")
「……はあ。存外に頑固だな。
 シュカの兵は軍門に降ったというのに」
\endtext
\text("イツキ")
「…………」
\endtext
\text("カイム")
「どうしても駄目か?」
\endtext
\text("イツキ")
「……すまない」
\endtext
\text
さて、どうしたものか。
\endtext
\text
それだけ、マガヒメを大切に思っている
ということでもあるのだが……。
\endtext
\text("リズベル")
「シュカの占術師が、大厄がニルトを
 滅ぼすという未来を見たそうです」
\endtext
\text("イツキ")
「それは知っている」
\endtext
\text("リズベル")
「今、私達が追っている敵がそれに
 当たるかもしれないんです」
\endtext
\text("リズベル")
「本当に、シュカが滅びてしまうかも
 しれないんですよ? ……マガヒメさんを、
 守りたくないんですか?」
\endtext
\text("イツキ")
「……だが、魔王軍はそのためにシュカと、
 マガヒメ殿と戦うのだろう?」
\endtext
\text("カイム")
「マガヒメが健在である以上、
 そうなるだろう」
\endtext
\text("イツキ")
「マガヒメ殿は、私の大切な友人だ。
 結果として守ることになっても、
 裏切ることに変わりはない……」
\endtext
\text("カイム")
「…………」
\endtext
\text("イツキ")
「……だが、大厄が現れたときは貴殿の
 力になる。ここから逃げたりもしない。
 だから……」
\endtext
\text
――だから、それだけは許してほしい。
\endtext
\text
リズベルは、思わずため息をつきそうになる。
\endtext
\text
これだから、忠義に生きる剣士というのは
困る。もう少し融通を利かせてもいいのでは
ないか。
\endtext
\text
そう思う反面で、
だからこそ信用できるとも考える。
\endtext
\text
イツキは、一度忠誠を誓えば
絶対に裏切ったりはしないだろう。
\endtext
\text("カイム")
「……よし、わかった。
 ならそれでもいい」
\endtext
\text("イツキ")
「カイム殿……ありがとう」
\endtext
\text("リズベル")
「甘すぎです、カイム様」
\endtext
\text("カイム")
「問題はないだろう。
 シュカを落とし次第、俺の力になると
 言っているのだから」
\endtext
\text("リズベル")
「それは、まあ……」
\endtext
\text("カイム")
「その代わり、その時がきたら
 おおいに働いてもらうぞ?」
\endtext
\text
期待をこめた、カイムの言葉に
イツキは頷きを返す。
\endtext
\text
それは、一足早い忠誠の言葉だ。
\endtext
\text("イツキ")
「武士に二言はない。
 その時は、私と咎切は貴殿のための
 刀になろう」
\endtext
\text
そんなイツキに、カイムは満足げに
笑みを浮かべた。
\endtext

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View file

@ -0,0 +1,58 @@
\setgamedatatitle("イツキ_99")
\text("イツキ")
「ふぅ……今日はこれで終わろう」
\endtext
\text
イツキは素振りをやめて、
額にかいた汗を拭う。
\endtext
\text("カイム")
「ふむ、では汗を流しにいかんとな」
\endtext
\text
そういってカイムは背後から
イツキの腰を抱く。
\endtext
\text
そして、湯殿へ向かって歩き始める。
\endtext
\text("イツキ")
「ええ、カ、カイム殿、
 そんな急に!?」
\endtext
\text("カイム")
「俺と一緒に風呂に入るのは嫌か?」
\endtext
\text("イツキ")
「……いいえ、そんなことは」
\endtext
\text("カイム")
「くくく、そうか。では、たっぷり楽しむと
 しようではないか」
\endtext
\text("イツキ")
「はい……」
\endtext
\text
真っ赤な顔をしたイツキは、
カイムに連れられて湯殿へ向かう。
\endtext
\text
こうして、二人は甘い時間を過ごすのだった。
\endtext
\dlg("   イツキの攻撃力が1%上昇しました。  (最大20%)")
\dlg("イツキの攻撃力はこれ以上上昇できません。")

View file

@ -0,0 +1,963 @@
\setgamedatatitle("インフェルミオ_01")
\text
――迷宮の執務室。
\endtext
\text("リズベル")
「……以上です」
\endtext
\text
といって、報告書をテーブルに戻す
リズベル。
\endtext
\text("カイム")
「さて、どうしたものかな?」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「どうしたものかのう?」
\endtext
\text("ティーリア")
「……どうしたものでしょうね?」
\endtext
\text("エル")
「女王さまのお好きなようになさって
 ください。私はどこへでもついて
 いきますっ!」
\endtext
\text("マガヒメ")
「この国の王はティーリアではないのよ、
 エル?」
\endtext
\text("エル")
「え? だって女王さまは、私にとっては
 いつまでも女王さまですから……」
\endtext
\text("ティーリア")
「マガヒメさんのいう通りですよ、エル?
 ……それにしても、どうしたもので
 しょうね?」
\endtext
\text
魔王軍の主要メンバーが集まっての、
定例の会議の最中である。
\endtext
\text
そこにちょうど上がってきた、拡張工事の
兵からの報告で議題は棚上げ。会議は
にわかに煮詰まってしまっていた。
\endtext
\text
古代迷宮の未知の区画が発見された――
それ自体は、別にそれほど珍しい話ではない。
\endtext
\text
が、それが前線よりずっと後方の思わぬ場所
に見つかって、強力な結界が張られていて、
一般の兵では手出しができないとなると――
\endtext
\text("リズベル")
「……これは、ただごとではありません」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「じゃな。なにより場所がよくない。
 敵対する存在が湧き出してきたりすれば、
 えらいことになるであろう」
\endtext
\text("リズベル")
「その通りです。戦力の主体は前線に集結
 しています。後方に突然敵が湧けば、
 いいようにかきまわされてしまいます」
\endtext
\text("ベアトリス")
「後方で叛乱が起こるみたいなものか。
 せっかくの領土が、いっきに別の色に
 染まっちゃうかもね?」
\endtext
\text("リズベル")
「ごほん! そうならないために、
 どなたかに調査と抑えのため前線から
 下がってもらわないといけませんが……」
\endtext
\text
リズベルが見回すと、会議の席についた
面々が微妙な顔をする。
\endtext
\text
――誰だって、華やかな前線から
引き抜かれて、地味な裏方の任務に
回りたくはない。
\endtext
\text("マーガレッタ")
「……ふむ?」
\endtext
\text
マーガレッタがその気配を読んで、
それなら自分が……と言い出しかけている。
\endtext
\text
――とはいえリズベルとしては、最も信頼
できる戦力であるマーガレッタを前線から
割きたくはないのだった。
\endtext
\text("リズベル")
「カイムさま……」
\endtext
\text("カイム")
「うむ。……ここは仕方があるまい」
\endtext
\text
リズベルにうながされて、うなずくカイム。
\endtext
\text("カイム")
「現在の作戦は一時停止だ。まとまった
 戦力を後方に差し向け、この問題の
 解決をはかるとしよう」
\endtext
\text("リズベル")
「ですね。それが賢明だと思います」
\endtext
\text("アグリ")
「……ち! 結局、そうなるかよ。
 いいとこだったのにな」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「案外面白いかもしれぬぞ、アグリよ?
 ――古代テスタ文明の迷宮、しかも今日
 まで結界が生きているのじゃろう?」
\endtext
\text("マガヒメ")
「二千年以上、誰も踏み入ったことがない
 っていうことよね? なら貴重なアイテム
 や財宝が残されているかも」
\endtext
\text
普段は会議などでやる気は見せない
マガヒメが、面白いと思ったのか
眼を輝かせている。
\endtext
\text("アグリ")
「俺は勘弁だぜ、迷宮とかはよ……」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「頼むぞ? 今回も期待しておるぞ、
 切り込み隊長殿?」
\endtext
\text("グラス")
「……ゾンビとか、幽霊が出るかも」
\endtext
\text
グラスがいうと妙に怖い。……顔に縦線を
浮かべて引くアグリをみて、皆がどっと笑う。
\endtext
\text("カイム")
「……ほう? この報告書によれば、
 結界の奥からは奇妙な女の笑い声が
 聞こえてきたとあるな?」
\endtext
\text("アグリ")
「げ……! か、勘弁してくれよ、
 そういうのはマジで」
\endtext
\text("リズベル")
「カイムさま? まさか……」
\endtext
\text("カイム")
「うむ、俺がゆく。……女が絡むとあれば、
 この俺様が行かん手はあるまい」
\endtext
\text("アグリ")
「いやそこはビビるとこだろうよ、
 普通……」
\endtext
\text
不承不承、というアグリを含めて、
その日のうちに遠征隊のメンバーが
選抜された。
\endtext
\text
率いるのは当然カイム。……リズベルが
危険だと反対したのはいうまでもないが、
聞き入れるはずもない。
\endtext
\text
カイムのお付きとしてリズベルと
ベアトリス。戦闘の主力としてアグリと
マーガレッタ。
\endtext
\text
さらに、普段はこの種の探索には参加しない
グラスとティーリアが、強力な結界への対策
として、その魔力を買われて選ばれている。
\endtext
\text
……そしてなぜか、これも普段は面倒な
ことが嫌いな筈のマガヒメが、面白そうだと
思ったのか参加を申し出ていた。
\endtext
\text
残りの将は前線を支える為に居残りだ。
狭い迷宮での戦闘ということで、
兵は少数の強兵だけが選ばれている。
\endtext
\text
魔王軍の精鋭中の精鋭だけあって準備も
手早く終え、報告のあった迷宮へと
旅立つ――
\endtext
\text
――問題の迷宮。
\endtext
\text
手掘りの通路が、そこで古代文明の
装飾過剰で退廃的なそれへと変化していた。
\endtext
\text("エル")
「前から思ってたんですけど、昔の人って
 なにかヘンですよね? 落ち着きません
 よね、こんな場所に住んでたら」
\endtext
\text("アグリ")
「同感だ……つっかこの趣味の悪さは本当、
 なんとかして欲しいぜ。ただでさえ古くて
 気味が悪いってのによ」
\endtext
\text
暗い場所と怖いのが苦手なアグリは、
早くも及び腰だ。
\endtext
\text("マーガレッタ")
「だから女の後ろに隠れるなというに。
 まったく、お主が冒険者でなく傭兵を
 選んだ理由がわかろうというものじゃ」
\endtext
\text("アグリ")
「しょーがねーだろ、怖えもんは、
 やっぱ怖えんだよ……と、な、
 なんだ?」
\endtext
\text
澱んだはずの迷宮の空気が、
そこでふわり……と動いた気がした。
\endtext
\text("")
「……うふ……うふふふ……!」
\endtext
\text
青い顔をして、皆のことを振り返るアグリ。
\endtext
\text("アグリ")
「き、聞いたな? 聞こえたな?
 帰ろう、帰ろうぜ! もうやだぜ俺ぁ!」
\endtext
\text("グラス")
「アグリ、落ち着いて」
\endtext
\text("ティーリア")
「強い魔力を帯びた声でした。ですから、
 ここまで聴こえたのです。――この結界を
 つらぬいて」
\endtext
\text("カイム")
「いい女の声だったがな……と、
 お出ましだな、これが例の結界か」
\endtext
\text
通路の先に、強力な魔力の結界が張られて
いた。――空間が歪み、進もうとすると
川の流れに逆らうような抵抗を感じる。
\endtext
\text("カイム")
「……この距離でこれか!
 これはまた、強力だな……!
 一般の魔法兵では確かに手も足も出まい」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「何とかできるか、ティーリア殿?」
\endtext
\text("ティーリア")
「やってみましょう。ルクト=ルザリオの
 結界に似たところがあります。もちろん
 遥かに強力ですが――」
\endtext
\text("ティーリア")
「グラスさん、マガヒメさん、お手伝いを
 お願いします。全ての魔力を私に」
\endtext
\text("ベアトリス")
「私たちも手伝おうか……カイム、リズベル、
 やるわよ?」
\endtext
\text("リズベル")
「おまかせください」
\endtext
\text("カイム")
「ふむ、手を貸すぞ」
\endtext
\text("マガヒメ")
「やっちゃおっか……!」
\endtext
\text("グラス")
「うむ」
\endtext
\text
ティーリアとグラスとマガヒメ。
元は女王だった三人が、
その血に宿る魔力を解放させる。
\endtext
\text
カイム、リズベル、ベアトリスが
その反動を後ろで支え、強力な魔力の射出を
サポートする。
\endtext
\text("ティーリア")
「開けよ! 古なる魔力の扉よ、
 その鍵を我に――!」
\endtext
\text
光の――魔力の奔流の前に、
通路を覆っていた結界がみるみるうちに
霧散していく。
\endtext
\text("カイム")
「おお……やったな!」
\endtext
\text("ティーリア")
「いえ……はぁ、はぁ……
 か、完全ではありません……」
\endtext
\text("エル")
「大丈夫ですか、ティーリア様!」
\endtext
\text
魔力の放出で疲弊したティーリアの
身体を、エルが駆け寄って支える。
\endtext
\text("ティーリア")
「……どうやらこの周囲の迷宮自体が、
 結界を生み出す装置になっている
 ようです」
\endtext
\text("ティーリア")
「時間が経てば自然に結界は回復します。
 通れるのは、あと数刻のあいだ、
 というところでしょうか」
\endtext
\text("ベアトリス")
「そのあいだにお宝探しを終える必要が
 あるっていうわけか。……もう一度同じ
 ことをさせるのは無理そうね?」
\endtext
\text("ティーリア")
「はい……すみません」
\endtext
\text
ティーリアだけでなく、マガヒメ、
グラスも相当に魔力を消耗している様子だ。
\endtext
\text
――帰り道に結界が閉じてしまっていたら、
もう一度同じことをさせて切り開くのは
おそらく無理だろう。
\endtext
\text("")
「……うふふふふ!……」
\endtext
\text
そこでもう一度、迷宮の奥から、
あの女の笑い声が響く――
\endtext
\text("アグリ")
「お、おわ……!」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「誘っておるのか、それとも、
 笑っておるのか……カイム?」
\endtext
\text("カイム")
「うむ。……いくしかあるまい」
\endtext
\text
誘いに乗り、一行は人跡未踏の迷宮の
奥へと進んでいく――
\endtext
\text("エル")
「ヘンですね、おかしいですねこれ?」
\endtext
\text("リズベル")
「ええ。この方角にこれだけ進めば、
 とっくに外部の通路にぶつかっている
 はずです」
\endtext
\text("リズベル")
「この遺跡の範囲はわかっています。
 ここが、こんなに広いはずは
 ありません」
\endtext
\text
地図を手にして揉めているエルとリズベル。
\endtext
\text("ベアトリス")
「これは……この迷宮自体が魔力で
 形成された空間のようね。
 でもこの魔法、一体何かしら?」
\endtext
\text
迷宮の壁を見上げ、指で撫でながら
疑問を口にするベアトリス。
\endtext
\text("ティーリア")
「ええ、先ほどの結界はあきらかに、
 テスタ文明の魔術の系統に属するもの
 でしたが」
\endtext
\text("ティーリア")
「この空間を形成しているのは、それとは
 まったく異なる魔術体系によるものです。
 こんな魔法は私も見たことがありません」
\endtext
\text
ティーリアも不安げな様子をみせている。
\endtext
\text("アグリ")
「どうでもいいっていうか、どう考えても
 ヤバいぜこの場所は……とっとと
 帰りてえよ」
\endtext
\text("カイム")
「まだだ。まだ何も見つかっておらん」
\endtext
\text("カイム")
「財宝も……それに女もな」
\endtext
\text
先頭に立ち、カイムは迷宮の先を目指す――
\endtext
\text("")
「きたわね……ついに?」
\endtext
\text
出現は唐突だった。凄まじい魔力が
それまで何もなかった空間に突然あらわれ、
凝縮された一点に『それ』は存在していた。
\endtext
\text("アグリ")
「う、うわ、うわうわ!
 で、出やがった!」
\endtext
\text("エル")
「浮いてる! 浮いてますよカイムさま!
 ふわふわって!」
\endtext
\text("カイム")
「いいから落ち着け。……こういう存在を
 前にして、今さらビビったところで
 何もはじまらん」
\endtext
\text
魔力を使わない者にしても、百戦錬磨の
戦士であるのは変わらない――この存在の
力は感じ取っているだろう。
\endtext
\text
その気になれば一瞬で、それこそ指の
一振りで、カイムら全員を消し去る
ことができる。
\endtext
\text
……そういう存在を、今さら恐れてみても
始まらないというものだ。
\endtext
\text("")
「さーっすがぁ! 王様だけあるのね、
 度胸据わってる」
\endtext
\text("カイム")
「それが俺の仕事だからな。
 ……というか俺のことをよく知っている
 ようだな」
\endtext
\text("カイム")
「俺が、そのハドスの王にして魔王カイムだ。
 お前はいったい何者だ? ここは何だ?
 なぜここにいる?」
\endtext
\text("エル")
「か、カイムさま、あんまりエラそうには
 しないほうがいいですよ」
\endtext
\text
長いものには即座に巻かれようとするエルの
ことは無視して、カイムはその存在を
睨みつける。
\endtext
\text
あきらかに人間ではない。といってブライト
リーフやディアボリカとも違う亜人の女。
――少なくとも女の姿をした存在。
\endtext
\text
ここまで強力な魔力を持った存在となると、
肉体の形状などは既にたいした意味は
持たないだろう。
\endtext
\text
自分の最も好みの姿をとっている――
だから、すさまじく美しい。
そして魅力的だ。
\endtext
\text("インフェルミオ")
「そうね……私はインフェルミオ。
 インフェルミオと名乗るわ。
 ミオ、って呼んでくれていいわよ?」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「私の種族はナイトレイス――って
 いっても知らないわよね、誰も」
\endtext
\text("カイム")
「聞いたことはないな。……しかし
 お前のような者が、この世界に
 何人もいるとは思えん」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「ご名答。私はあなたたちディアボリカや、
 例のストラクタと同じ。別の世界から
 やってきた存在なの」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「ものすごーく遠い世界だから、
 今いるこの世界に居るのは私だけ」
\endtext
\text("カイム")
「そのことはわかるのだな?」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「もちろん。この貧弱な世界でなら、
 私にわからないことなんてない。
 なにひとつね?」
\endtext
\text
ふむ……と腕組みをするカイム。
\endtext
\text
ナイトレイス――と名乗ったこの
インフェルミオの居た世界では、
この魔力が標準なのだろう。
\endtext
\text
こんなものがひしめいている世界と
いうのが、どんなものかは想像の
しようもなかったが。
\endtext
\text("カイム")
「で、なぜお前はここにいる?
 そしてここに居続けているのだ?」
\endtext
\text("カイム")
「その言い様では、俺たちのことも趣味で
 覗いていたのだろう」
\endtext
\text("カイム")
「そのくらいしかやれる事のないザマに、
 どうして陥ったのだ?」
\endtext
\text
一瞬、インフェルミオの表情に、
愉しいとも憎いとも判別のできない
微妙な笑みがよぎる。
\endtext
\text("インフェルミオ")
「そう……あなたは面白いわ。
 あなたも、あなたちも、本当に面白い。
 ……この二千年でいちばん」
\endtext
\text("マガヒメ")
「二千年ですって?」
\endtext
\text("ティーリア")
「本当でしょう。あの封印はテスタ文明の
 もの……この存在を、あれは封じて
 いたのです」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「封じていたというか、遠ざけていたので
 あろうな。危険ゆえに、この世界の人間の
 側のほうを」
\endtext
\text
眼に笑みを浮かべたまま、それらには
相手をしないインフェルミオ。
\endtext
\text("インフェルミオ")
「カイムの質問に答えましょう。
 そう、私はここから動けないの」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「世界を渡る途中で、踏み石にしたこの
 ちっぽけな世界でトラブルにあった。
 座標を間違えてはまりこんでしまったの」
\endtext
\text("リズベル")
「踏み石、ですか……この世界が……」
\endtext
\text
唖然としているリズベル。……現実的な
性格のぶん、ここまでスケールのぶっとんだ
話にはついていけないらしい。
\endtext
\text("インフェルミオ")
「そう、私とこの世界の一部が重なって
 しまったの。……正確には重なる直前で
 ストップして、一歩も動いてないんだけど」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「足を動かせば二つの存在が重なり合って、
 この世界と、隣り合った幾つかの世界が
 爆発して吹き飛んじゃう状態」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「それで私が死ぬわけじゃないけど、
 あとあと面倒になるの。怒られちゃう」
\endtext
\text("リズベル")
「は、はあ……怒られるのは困りますね」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「困るのよ。だから今は、ちょっと力を
 溜めて、この世界をスキップする大技を
 準備している最中なの」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「それが終わるまでは動けない。カイムの
 ことを見守っていたのは、そのあいだの
 ちょっとした暇つぶし?」
\endtext
\text("ベアトリス")
「二千年を『ちょっと』といわれては、
 もう怒る気すらしないわね」
\endtext
\text
ため息で微笑むベアトリス。
\endtext
\text("インフェルミオ")
「で、見ているだけでも良かったのだけど。
 こうして来てくれたんだから、
 カイムと私とでゲームをしない?」
\endtext
\text("カイム")
「ほう? どんなゲームだ?」
\endtext
\text
いいながら、カイムは感じている。
\endtext
\text
この存在はカイムのことが気に入ったと
いうだけあって、確かにカイムの同類だった。
\endtext
\text
存在する次元と力は、あまりにもかけ離れて
いるとはいえ――
\endtext
\text
『愉しい』ことが好きで、生の目的を当然の
ようにそこに置いている。――その点では
共通している。
\endtext
\text
これまで、この世界で会った誰よりも
共通している……向こうも同じことを
感じているだろう。
\endtext
\text("インフェルミオ")
「そうね……ふふ! じゃあ、私の出した
 条件をクリアすれば、とっても素敵な
 ご褒美をあげる」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「そういうので、どう?」
\endtext
\text("カイム")
「その素敵なご褒美というのは、
 当然、アレなのであろうな?」
\endtext
\text
鼻の下を伸ばすカイム。
\endtext
\text
……こんな存在を相手にそれができるカイム
を、さすがに部下たちも驚きの目で見ている。
\endtext
\text("インフェルミオ")
「ええ、きっとあなたの想像通り。
 ……ううん、それ以上のご褒美をあげる」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「どう? チャレンジしてみる?」
\endtext
\text("カイム")
「おおう、当然だ! ご褒美の為ならな!」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「そういうと思ってた……くすくす!」
\endtext
\text
心からとわかる極上の笑みをみせる
インフェルミオ。
\endtext
\text
そのくすくすという笑いだけが響く中、
世界がぐにゃりと歪み、とろけて、
崩れ落ちていく――
\endtext
\text
気がつけば、全員が最初にティーリアたちの
魔力で突破した、あの結界の前に
立っていた。
\endtext
\text("エル")
「あ、あれ? あれあれ?
 戻っちゃってますよ、女王さま?」
\endtext
\text("マガヒメ")
「魔力が消耗してない……
 ちょっとびっくりね?」
\endtext
\text("ティーリア")
「ええ、驚きました……」
\endtext
\text
素直にうなずいてみせるティーリア。
\endtext
\text
全員が体験の記憶は維持している。
……記憶はそのままに、時間だけを
巻き戻して振り出しに戻したらしかった。
\endtext
\text("ベアトリス")
「空間だけじゃなくて、時間だって自由自在
 ってわけね。……二千年がちょっととか、
 この世界が踏み石とか?」
\endtext
\text
悪戯っぽく笑ってみせるベアトリス。
彼女には珍しく恐怖も感じているのだろう。
\endtext
\text("アグリ")
「どうかしてるぜ……そんなのとヤろうって
 盛り上がってるうちの大将もよ……」
\endtext
\text
ズボンの股間のあたりを高々と盛り上げた
まま、カイムは腕組みをして結界を睨んで
いる。
\endtext
\text("カイム")
「今は、もう一度この結界を開いた
 ところで意味はあるまい」
\endtext
\text("カイム")
「あのインフェルミオのいった『条件』
 とやらを満たしてまたくるとしよう。
 ――帰るぞ」
\endtext
\text("エル")
「……なんなんでしょうね、あの人の
 いってたその『条件』って?」
\endtext
\text("リズベル")
「どんな条件でもいいですから、もう帰って
 お布団に入っちゃいたいです……もう!」
\endtext
\text
本気で頭が痛そうな様子のリズベル。
\endtext
\text
一行は、そのまま前線へと帰還するの
だった――
\endtext

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@ -0,0 +1,141 @@
\setgamedatatitle("インフェルミオ_06")
\text
――どことも知れぬ時間、
空間にあるミオの部屋。
\endtext
\text("カイム")
「ふう……素晴らしかったな、
 例によって」
\endtext
\text
カイムはグラスに残った酒を一息に
飲み干すと、心の底からの満足の息を
ついていた。
\endtext
\text("インフェルミオ")
「ふふ! 気に入ってもらえたかしら、
 今日も?」
\endtext
\text
同じく酒を手に、悪戯っぽく微笑んで
みせるミオ。
\endtext
\text("カイム")
「ああ……セックスも、料理も酒も、
 この部屋の趣向も、なにもかもに満足だ」
\endtext
\text("カイム")
「――俺がこの言葉を使うことは滅多に
 ないのだ。知っていると思うが」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「似たもの同士ですものね?」
\endtext
\text("カイム")
「まったくだ。不思議なくらいにな」
\endtext
\text
この世界と己の生は、愉しむために
あるものと知る享楽主義者。
\endtext
\text
その点において、世界を制覇しつつある
魔王たるカイムに匹敵するのはこの女だけだ。
\endtext
\text
カイムは権力、インフェルミオは魔力と、
その実現手段は異なっているものの――
\endtext
\text("カイム")
「さて、何もかもが名残り惜しいが。
 いつまでもこうしているわけには
 いかんな」
\endtext
\text("カイム")
「というわけでだ、ミオ。例のもうひとつの
 褒美についてだが――」
\endtext
\text
ここでのひと時は愉しく、カイムは
充分満足している。
\endtext
\text
しかし外には護衛の兵も待たせており、
ここへくる為の『条件』を満たすために、
将と軍を動かしてもいる。
\endtext
\text("インフェルミオ")
「わかってるわ。ほら――!」
\endtext
\text
何もない中空から、小さな宝箱を取り出して
みせるミオ。
\endtext
\text
カイムはそれを見知っている。
迷宮で見つかる、最も高貴な宝の収められて
いる宝箱だ。
\endtext
\text("インフェルミオ")
「はいこれ。手ぶらで帰らせるわけには
 いかないものね」
\endtext
\text("カイム")
「おおう。すまんな」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「気にしないの。私を愉しませてくれた
 お礼だもの」
\endtext
\text("カイム")
「うむ。次も愉しい土産話をたっぷり
 もってくるとしよう」
\endtext
\text("インフェルミオ")
「期待しているわ、カイム♪
 がんばってね?」
\endtext
\text
ミオの微笑み。お馴染みの世界が揺らぐ
感覚があり、そしてカイムは現実へと
戻っていく――
\endtext
\dlg("     回復の薬Ⅲを入手しました。    ")
\dlg("     回復の薬Ⅳを入手しました。    ")
\dlg("    妖精の秘薬Ⅲを入手しました。    ")
\dlg("    妖精の秘薬Ⅳを入手しました。    ")
\dlg("     高揚の薬を入手しました。     ")
\dlg("     加速の薬を入手しました。     ")
\dlg("     心眼の薬を入手しました。     ")

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@ -0,0 +1,843 @@
\setgamedatatitle("エル_01")
\text("エル")
「ふん、ふん、ふふ~~~ん♪」
\endtext
\text
今日も軽い足取りで、地下迷宮の廊下を
歩いているエル。
\endtext
\text
暗くてジメジメしていて、松明の灯りが
不気味にゆらめく暗鬱な空間だが――
\endtext
\text
もう慣れてしまった。
\endtext
\text
住めば都。もともと楽天的な性格で、
落ち込んだり沈んだりといった暗い気分は
長続きしないタイプなのだ。
\endtext
\text
ルクト=ルザリオの王宮にいた頃、
女王ティーリアに言われたことがある。
\endtext
\text
『エルの歩き方は、いつでもスキップして
 いるみたいね』と。
\endtext
\text
『目障りですか?』と尋ねたら、
ティーリアは笑って首を横に振って答えた。
\endtext
\text
『逆よ、エルの姿をみていると、こっちまで
気分が明るくなってくるみたい』と。
\endtext
\text
ずっとそのままでいてね、といわれて、
頭を撫でられた。
\endtext
\text
子ども扱いされているような気も、
しないではなかったのだが――
\endtext
\text
すぐに思い直した。
自分が子供っぽいのは事実なのだし、
無理をしたって仕方ない。
\endtext
\text
女王さまが、そんな自分を気に入って
くれているなら、なおさらだ。
\endtext
\text("エル")
(それにわたし、今のこの身体が、
 けっこう気に入ってるんだよね)
\endtext
\text
年齢の割に幼く見えるのは、
ブライトリーフなのだから仕方ない。
\endtext
\text
お腹や手足は男の子のように堅く引き締まっ
ており、胸やお尻もふくらんできてはいる
ものの、歩いて揺れるほどではない。
\endtext
\text
敬愛する女王ティーリアのような、
豊満でたおやかな肉体に憧れは
あるものの――
\endtext
\text
森で活発に動きまわるのが好きなエルには、
ちょっと重そうで、動きづらそうにも
思えてしまう。
\endtext
\text("エル")
(あ、でも身長は、もうちょっと欲しい
 ような気もするけど……)
\endtext
\text
本来、種族としてのブライトリーフには
長身の者が多いのだが。
\endtext
\text
エルの家は、なぜか両親も兄弟も親戚も、
揃って背が低いのだった。
\endtext
\text
中でもエルの身長が一番低い。
\endtext
\text
先日、久しぶりに家に帰ってみたら、
一番下の弟にも追い抜かれてしまっていた。
\endtext
\text
せめて子供扱いされて、気軽に頭を
撫でられてしまわない程度には、
背丈が欲しいのだが――
\endtext
\text("エル")
(――でも、そうしたら今度は、
 森で枝に頭をぶつけるかも
 しれないもんね)
\endtext
\text
うん、と一人でうなずくエル。
\endtext
\text
つまり、これでいいのだ。
\endtext
\text
ふんふ~ん、という鼻歌を再開するエル。
\endtext
\text("スパッキオ")
「よお、ちびっこ。今日もご機嫌だな」
\endtext
\text("エル")
「スパッキオさん! ちびっこじゃなくて、
 ちゃんとエルって名前があるんですから!」
\endtext
\text("スパッキオ")
「はは……わかってるよ。
 声がでかいって。耳にキンキンくるぜ」
\endtext
\text("エル")
「あっ、ノロさんも、こんにちは!」
\endtext
\text("ノロ")
「………………」
\endtext
\text
無言のままゆっくりとうなずくノロ。
\endtext
\text("ブライトリーフ兵")
「お久しぶりです、フラフニス隊長」
\endtext
\text
二体の魔物の後ろには、背に弓をかついだ
数名のブライトリーフの兵士が
付き従っていた。
\endtext
\text("エル")
「わっ、みんな! ここにいたんだ。
 元気にやってた? ここの人たちには、
 よくしてもらってる?」
\endtext
\text("ブライトリーフ兵")
「ええ、そりゃあもう。
 今もこれから、先輩方のおごりで
 街に繰り出すところなんです」
\endtext
\text("スパッキオ")
「おいおい、俺はおごりだなんていった
 覚えはねえぞ? ……まあいいけどよ」
\endtext
\text("スパッキオ")
「と、こいつらは元はお前の部下だった
 のか。よく仕込まれてるぜ、
 なかなかのもんだ」
\endtext
\text("ブライトリーフ兵")
「厳しい隊長だったんですよ、
 こうみえても」
\endtext
\text("スパッキオ")
「へえ……まあ確かに、お前らの鍛えられ方
 をみる限りでは、そうだったんだろうな」
\endtext
\text
少し見直したような表情になって、
もう一度エルのことを見るスパッキオ。
\endtext
\text("スパッキオ")
「……ちびっこなのは、相変らずだけどな」
\endtext
\text("エル")
「もう! それは余分!」
\endtext
\text("エル")
「それよりこれから街で親睦会?
 それなら、わたしもついてっていい?」
\endtext
\text("ブライトリーフ兵")
「え……?」
\endtext
\text("スパッキオ")
「あ、いや、そいつは……」
\endtext
\text("ノロ")
「…………………」
\endtext
\text
なんとなく後ろめたそうな顔をして、
お互いに目配せをする男たち。
\endtext
\text("エル")
「えっ、なんなの?
 お酒飲みにいくんじゃないの?」
\endtext
\text("スパッキオ")
「いや……まあ、色々あらあな。
 ほら、酒場っていっても」
\endtext
\text("エル")
「え? ……あ、そっか。
 そういうお店にいくんだ」
\endtext
\text
性に関する経験はゼロのエルだが、
知識だけは一丁前にある。
\endtext
\text
長く宮廷にいたおかげで、特に聞き耳を
立てていなくても、性愛絡みの話は
自然と耳に入ってきたのだ。
\endtext
\text("エル")
「まったく。もう……!
 いいよ、楽しんでおいでよ」
\endtext
\text("ブライトリーフ兵")
「すいません、隊長……」
\endtext
\text("スパッキオ")
「別に謝ることはねえだろ……
 じゃあな、ちびっこ」
\endtext
\text("エル")
「エルだよ! ちゃんと名前呼んでよ、
 もう……!」
\endtext
\text("エル")
「まったく……もう……」
\endtext
\text
軽く怒ってみせつつも、実は内心で多少の
ショックはある。
\endtext
\text
先日まで、隊長と部下として親しく
付き合っていた仲間たち。
\endtext
\text
――それがやっぱり『男』で、
性欲を持っていて、そういう方面のお店へも
行くのだということ。
\endtext
\text
ふと、そこでエルは気がついた。
\endtext
\text
今、自分が立っている場所。
迷宮の通路が、左右へと分かれる位置。
\endtext
\text
――右へ行くと、魔王カイムの居る
玉座の間がある。
\endtext
\text("エル")
「も、もう……! あいつらが、
 変なこというから……お、
 思い出しちゃったじゃない」
\endtext
\text
部下たちもうまくやっており、
女王ティーリアも、肩の重荷が取れて
逆にホッとしているように見える。
\endtext
\text
そんな中で……今のエルにとって、
一番の悩み。気になること。
\endtext
\text
あの日、エルはティーリアの為に、
魔王カイムと取引をした。
\endtext
\text
宰相ルドールに囚われた、女王ティーリア。
そのティーリアを助け出してくれるなら――
\endtext
\text
わたしの処女をあげます、と。
\endtext
\text
想い出して、思わず顔を赤くするエル。
\endtext
\text
あの時は、夢中だったのだ。
\endtext
\text
一度こうと決めたら、頑としてどこまでも
突き進んでしまう――そういう部分が、
昔から自分にはある。
\endtext
\text
だからあの時は、本当にその覚悟を
していたし――
\endtext
\text
カイムの側でも、エルのそんな懸命さと
けなげさに、興味を抱いてくれた様子だった。
\endtext
\text
が、無事にティーリアが助け出されて、
興奮が冷めてしまうと……
怖くなってしまった。
\endtext
\text
性行為どころか、恋愛すらまだ自分には
早いと思っていたエルである。
\endtext
\text
実際、まだ自分の身体は子供だ。
\endtext
\text
カイムのたくましい体格と、
ティーリアのことを犯した、巨大な――
それのことを考えると。
\endtext
\text
それを使って、自分がされることを考えると。
怖くて、脚が震えてしまう。
\endtext
\text
最初の頃は、だからなるべくカイムの前に
出るのを避け、カイムと二人きりになること
が無いように逃げ回っていた。
\endtext
\text
いつまでもそれで通用する筈がない、
と思ってはいたのだが。
\endtext
\text
意外にも、カイムは、あんな取引のあった
ことは忘れてしまったかのようで――
\endtext
\text
今日まで、夜に呼び出されることもなければ、
それを催促されることもなかった。
\endtext
\text
それでもエルの側では、毎晩、今夜こそは
ベッドに呼ばれるのかも知れない――と
びくびくしていたし。
\endtext
\text
そこで自分がされることを想像して、
頬を赤くして――もんもんとして、
夜を過ごしていた。
\endtext
\text("エル")
「……………………」
\endtext
\text("エル")
「こんなことが毎晩続いてたら、
 わたし、おかしくなっちゃうよ」
\endtext
\text
カイムは、女王ティーリアを既に
自分のものにしている。
\endtext
\text
子供っぽい自分なんかより、
ティーリアの方が女としてはるかに魅力が
あることくらい、エルにもわかっている。
\endtext
\text("エル")
「わたしには……もう興味が
 なくなっちゃったのかな?」
\endtext
\text
……それならそれで、自分の純潔は守られる
のだから、かまわないのだけれど。
\endtext
\text
やるならやる、やらないならやらないで、
そろそろはっきりして欲しい、とも思う。
\endtext
\text("エル")
「よし……直接きいてみる!」
\endtext
\text
むん、と小さな身体に力を込めると、
エルはカイムの居る、玉座の間へと
足を進めていく。
\endtext
\text("カイム")
「おう、誰かと思ったらエルか。
 どうだ、少しは背が大きくなったか?」
\endtext
\text("エル")
「もう! カイム様までそれですか!
 ……ブライトリーフなんですから、
 そうすぐには育たないですよ」
\endtext
\text("カイム")
「ふはははは! ……冗談だ」
\endtext
\text("カイム")
「いや実際、そう悲観することもないぞ?」
\endtext
\text("カイム")
「出回っているエロい幻像石のジャンルを
 見る限り、この世にはお前のような
 女を好む男がかなりの率で存在する」
\endtext
\text("エル")
「え? 私みたいっていうと……」
\endtext
\text("カイム")
「子供だ、子供。そのない胸、薄い尻、
 色気のない体つき! 見る者が見れば、
 お前は宝石のように魅力的だ」
\endtext
\text("エル")
「な、なんだか……褒められているような、
 馬鹿にされているような」
\endtext
\text("カイム")
「そう己を悲観するなということだ。
 ふははは!」
\endtext
\text("エル")
「あは、は……」
\endtext
\text
相変らず、この魔王さまのことは
よくわからない。
\endtext
\text
駄目な人なのか、それとも常識を外れた
とんでもない大物なのか――
\endtext
\text
立場の違う偉い人とも、平気で会話ができて
しまうのは、いわばエルの特技だ。
\endtext
\text
この性格のおかげで、田舎育ちのエルは
ティーリアの良き話し相手となり――
\endtext
\text
その信頼を得て、親衛隊長の地位に
つくこともできた。
\endtext
\text
そのエルから見ても、カイムの気さくさと
己の飾らなさは、ちょっと度を外れている。
\endtext
\text
エロ話全開。欲望を隠す気はカケラもない。
\endtext
\text
……部下の誰とでもこの調子で
付き合っているのに、その誰もがカイムの
ことを、ボスとして一目置いている。
\endtext
\text
だからこそ、この迷宮は見た目よりも、
こうしてずっと居心地がよくて――
\endtext
\text
その気分を作り出しているカイムは、
たしかに魔王軍の王なのだった。
\endtext
\text
……たぶん。
\endtext
\text("エル")
「え、えっと……その、私みたいな女の子が、
 一部のマニアックな層に人気があるって
 いうのはわかりましたけど」
\endtext
\text("カイム")
「ん、なんだ?」
\endtext
\text("エル")
「あ、いえ、その……カイム様は、
 どうなんでしょうか?」
\endtext
\text("カイム")
「俺か? ふむ……難しい質問だな」
\endtext
\text
むん……と渋い表情で、
考え込んでみせるカイム。
\endtext
\text("カイム")
「いわせてもらうなら、俺は既に、
 年齢の上下などという単純な分類は
 卒業している」
\endtext
\text("エル")
「は、はぁ……?」
\endtext
\text("カイム")
「シチュエーションだな。
 わかるか? つまり男と女の
 その時置かれている立場、関係性だ」
\endtext
\text("エル")
「え、え……えっ???」
\endtext
\text("カイム")
「具体的には、そうだな……
 と、誰かきたようだ」
\endtext
\text("アグリ")
「よお! カイムの旦那!
 旦那の興味のありそうなモノをみつけた
 から、持ってきたんだが……」
\endtext
\text("カイム")
「アグリか。
 ん? それは――」
\endtext
\text
カイムが玉座からぐっと身を乗り出す。
\endtext
\text("アグリ")
「俺の部下がケチな密輸業者の荷を
 押さえてな。食料や軍需物資は、
 リズベルの姉御が持っていったが――」
\endtext
\text
アグリというディアボリカの士官が
持ってきたのは、一握りの幻像石だった。
\endtext
\text("アグリ")
「わざわざ密輸するくらいだ。
 俺は興味ないが、きっと価値モノに違い
 ないと踏んだんだが」
\endtext
\text("カイム")
「どれどれ……『くりいむエリクサー』?
 『ブライトリーフこのか110歳』?」
\endtext
\text("アグリ")
「価値モノか?」
\endtext
\text("カイム")
「ふ……! この俺様の好みとは、
 少々異なっているのが惜しいが」
\endtext
\text("カイム")
「どれもこれも、単純に持っているだけで
 手が後ろに回る逸品ばかりだ」
\endtext
\text("アグリ")
「はは! そいつはよかったぜ。
 この先も同じようなのを見つけたら
 持って来るように部下にいっとくからよ」
\endtext
\text("カイム")
「おう、頼むぞ! ……ふふ、
 まさか、いまどきこれが手に入る
 とはな……」
\endtext
\text("アグリ")
「じゃあな」
\endtext
\text("カイム")
「ククク……! どれから見るべきか?
 これか? それとも、こっちからか?」
\endtext
\text("エル")
「あ、あの、カイム様?
 それで、わたしと以前にした
 約束は――」
\endtext
\text("カイム")
「ん? エルか、まだいたのか。
 見ての通り、今日はもう忙しい。
 話があるなら明日聞いてやる」
\endtext
\text("カイム")
「ふふ……! よし、これが一番目、
 そしてこれが二番目。途中で暴発して
 しまわぬよう気をつけねばな……」
\endtext
\text("エル")
「――また来ます」
\endtext
\text
うなだれつつ頭を下げて、
エルは玉座の間を後にしたのだった。
\endtext
\text("リズベル")
「なるほど……話はわかりました」
\endtext
\text("リズベル")
「私はてっきり、あなたは繰り返し
 カイム様にヤられてしまっているものと」
\endtext
\text("エル")
「え、ええっ?
 ま、まだですよそんなの……
 わたし、まだ子供だし……」
\endtext
\text("リズベル")
「相手が子供だろうと老婆だろうと、
 ひるむような方とは思えませんが」
\endtext
\text("エル")
「う……そ、そうですよね……」
\endtext
\text
迷宮の執務室。玉座の間を追い出されて
しまったエルは、そこにいたリズベルに
相談を持ちかけてみた。
\endtext
\text("リズベル")
「まあ、確かに変ですね。カイム様のこと
 ですから、エッチの約束だけは忘れる
 はずが無いんですけど」
\endtext
\text("エル")
「やっぱり……ティーリア様が、
 一緒にここに来たせいかも、って……」
\endtext
\text("リズベル")
「ああ、それはあるかも知れませんね。
 大抵の殿方は、胸も尻も大きい肉感的な
 女性を好むものですから」
\endtext
\text("エル")
「……………………」
\endtext
\text
思わず黙り込んでしまうエル。
\endtext
\text
しかしそこでふと、目の前にいるリズベルの
身体に注意を向けていた。
\endtext
\text("エル")
(大きくない……背だって低いし、
 胸だってお尻だって、わたしよりちょっと
 大きいくらいだし)
\endtext
\text("リズベル")
「どうしました? そんなにじろじろみて」
\endtext
\text("エル")
「あっ! い、いえ……その」
\endtext
\text("エル")
「……リズベルさんは、その、
 カイムさまとの経験は?」
\endtext
\text
ストレートすぎるエルの質問に、
驚いて……思わず顔を赤らめるリズベル。
\endtext
\text
それから――こくり、とうなずく。
\endtext
\text("エル")
(そうなんだ……わたしと同じくらい小さい
 リズベルさんとエッチができるなら……)
\endtext
\text("エル")
(原因は、わたしの身体が小さい
 せいだけじゃないのかな……?)
\endtext
\text("エル")
「あ、あの、その……
 あ、ありがとうございました!」
\endtext
\text
お辞儀をして、エルはリズベルのいる
執務室を後にした。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,388 @@
\setgamedatatitle("エル_02")
\text("エル")
「ティーリア様、いらっしゃいますか?」
\endtext
\text
エルは迷宮の奥、個室の並んでいる
一角にいた。
\endtext
\text
かつての主人の居る部屋の前に立ち、
ドアをノックする。
\endtext
\text("ティーリア")
「エル? どうぞ、入って」
\endtext
\text("エル")
「あ、はい……失礼します、
 ティーリア様」
\endtext
\text
ティーリアに与えられている寝室。
\endtext
\text
さすがに元は女王だっただけあり、
調度の類も美しく、品のよいものだ。
\endtext
\text
それに、どことなく落ち着く……
部屋の持ち主の心優しさと、
女らしさを自然と感じさせる。
\endtext
\text("エル")
(う……カイムさまでなくても、
 わたしの部屋なんかより、こっちを
 訪ねたくなるのはわかる気がする)
\endtext
\text
子供っぽく散らかった自分の部屋を
思いだして、思わずため息をつくエル。
\endtext
\text("ティーリア")
「どうしたのエル? 浮かない顔で
 ため息なんてついたりして」
\endtext
\text("エル")
「あ、いえ……なんでもないんです、
 けど……」
\endtext
\text
目の前のティーリアの姿に、
思わず見とれてしまうエル。
\endtext
\text
昔から、きれいな人ではあったけれど――
\endtext
\text("ティーリア")
「……? 私の顔に、
 何かついているかしら?」
\endtext
\text("エル")
「あ、いえ……きれいだなと……
 すごく……」
\endtext
\text("ティーリア")
「あら? 最近はエルも、
 お世辞をいうことを覚えたのね」
\endtext
\text("エル")
「い、いえ! お世辞なんかじゃなくて。
 きれいです、本当に……」
\endtext
\text
ルクト=ルザリオの王宮で、長い間『女王』
としての務めを果たしていたティーリア。
\endtext
\text
あの頃のティーリアには、その立場から
くる責任が重くのしかかっていた。
\endtext
\text
ティーリアには明らかに重すぎたその重圧を、
少しでも軽くしてさしあげようと、エルも
奮闘していたのだが――
\endtext
\text
いつも、そのことでは力不足を実感していた。
\endtext
\text
『王』としての立場をカイムに明け渡した
ことで、ティーリアはようやくリラックス
できたのだろう。
\endtext
\text
表情が穏やかになり、疲れが抜けたせいか
肌や髪にも艶が増して、何歳も若返った
ようにみえる。
\endtext
\text
そして、もうひとつ――
カイムに抱かれ、『女』にされたことも、
その美しさの理由にあるのだろう。
\endtext
\text
愛されている、という女性としての
悦びが、もともと美しいティーリアを
内側からも輝かせている感じだ。
\endtext
\text("エル")
(う……そうね……ティーリア様が
 いるなら、わたしのことなんか忘れて
 当然っていうのはわかる気がする……)
\endtext
\text("ティーリア")
「どうしたのエル、今日は本当に、
 さっきからため息をついてばかり」
\endtext
\text("エル")
「あ、はい。実はですね……」
\endtext
\text
完敗を認めたことで、
素直になれたのだろうか。
\endtext
\text
エルは、カイムと交わした
例の『契約』のこと――
\endtext
\text
ティーリアを助け出す代償に、
自分の処女を差し出すと約束したこと。
\endtext
\text
こうして無事ティーリアが助け出された後も、
カイムが一向にその約束を果たすよう要求
してこないこと。
\endtext
\text
――その理由は、たぶんカイムが、
ティーリアを得て満足してしまっている
からであろうことまで。
\endtext
\text
全部、白状してしまっていた。
\endtext
\text("ティーリア")
「なるほど。それでさっきから、
 何度もため息をついていたのね」
\endtext
\text("エル")
「はいぃ……」
\endtext
\text
ふふっ、と小さく微笑んでみせる
ティーリア。
\endtext
\text("ティーリア")
「でも、私はそれならそれでいいと思うわ。
 私自身は、こうして魔王のものになった
 ことに後悔はないけれど――」
\endtext
\text("ティーリア")
「エルには、できればもっと普通の、
 地味でも真面目な若者と結ばれて
 欲しいと思うの」
\endtext
\text("エル")
「……またお見合いですか?」
\endtext
\text
王宮に勤めていた当時、
何度かティーリアから見合い話を
もちかけられたことがある。
\endtext
\text
『私にはまだ早いですから』といって、
毎回逃げ回ってきたのだが――
\endtext
\text
ゆっくりと首を横に振るティーリア。
\endtext
\text("ティーリア")
「私には、もうそれをする力もないわ。
 本当に……普通の若者を、紹介して
 あげられればいいのだけれど」
\endtext
\text("エル")
「ティーリア様……」
\endtext
\text("ティーリア")
「ともかく、カイム様が約束のことを
 忘れているのなら、無理に思い出させる
 ことはないと思うの」
\endtext
\text("ティーリア")
「私は、もう構わないのだけれど……
 せめてエルには、望まない初体験は
 して欲しくないの」
\endtext
\text("エル")
「はい……ティーリア様」
\endtext
\text
ティーリアに対し、エルは素直に
頷いてみせたのだが――
\endtext
\text
内心でひそかに、かすかに疑問に
思ってもいた。
\endtext
\text("エル")
(わたし……本当に、それを自分からは
 望んでいないのかな?)
\endtext
\text
ティーリアに知られるわけにはいかない。
彼女は、エルの子供っぽい明るさを
ずっと愛してくれていた。
\endtext
\text
あなたは変わらないでね――と、
いつか言われたこともある。
\endtext
\text
それでも――エルはティーリアに、
ひとつだけ、どうしても尋ねておきたい
ことがあった。
\endtext
\text("エル")
「あ、あの! ティーリア様……その、
 怒らないで聞いて欲しいんですけど」
\endtext
\text("ティーリア")
「なあに、エル?」
\endtext
\text("エル")
「あ、いえ、その……え、エッチって、
 どんな感じだったでしょうかっ!
 そ、その、男の人との……」
\endtext
\text("エル")
「あっ! す、すみませんすみません
 すみませんっ! じょ、女王さまに、
 わたし失礼なことを……」
\endtext
\text
一瞬、あっけにとられた顔をした
ティーリアだが……。
\endtext
\text
ふふっ、と微笑んで、その質問を
許してくれていた。
\endtext
\text("ティーリア")
「頭を上げて、エル。
 ……私はもう、女王ではないわ。
 あなたと同じ、ひとりの女」
\endtext
\text("エル")
「ティーリア、さま……」
\endtext
\text("ティーリア")
「そうね……初めては痛いらしいけれど、
 私はそこまで痛くなかったわ」
\endtext
\text("ティーリア")
「でも、容赦はしてくれなかったから、
 苦しかったわ」
\endtext
\text("エル")
「うっ……ティーリア様、かわいそう」
\endtext
\text("ティーリア")
「ふふっ。でもね、それは最初だけ」
\endtext
\text("エル")
「え? ……どういうことでしょうか」
\endtext
\text("ティーリア")
「そのうちにね、そんなことどうでも
 よくなっちゃったのよ」
\endtext
\text("ティーリア")
「男の人のたくましい体を感じて、
 求められているのが幸せで……」
\endtext
\text("ティーリア")
「精を受け止めたときには、この世の
 本当の幸せを知った気分」
\endtext
\text("ティーリア")
「そして……もっと続けて
 欲しい、と思ったわ」
\endtext
\text("エル")
「ティーリア様……」
\endtext
\text("ティーリア")
「どう? これで参考になったかしら?」
\endtext
\text("エル")
「えっ? あっ、は、はいっ!
 その……ありがとうございましたっっ!」
\endtext
\text
熱くなって、真っ赤になった頬の色を
見られてしまうのが恥ずかしくて――
\endtext
\text
エルは慌てて頭を下げて、
ティーリアの部屋を後にしたのだった。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,644 @@
\setgamedatatitle("エル_03")
\text("エル")
「あっ、そこ、道があるみたいに見える
 けど草の根っこですから気をつけて
 ください」
\endtext
\text("アグリ")
「お、おう!」
\endtext
\text("エル")
「次の村までもうちょっとですから、
 頑張って」
\endtext
\text
森の中の急な斜面をひょいひょいと
駆け上がって、エルは後に続いている
アグリたちを振り返る。
\endtext
\text("アグリ")
「おう……しかしきっついな。
 俺はともかく、部下たちはもう
 限界みてーだな」
\endtext
\text("エル")
「休憩にしますか?」
\endtext
\text("アグリ")
「だな。村の連中に、あんまりへばった
 姿はみせたくねー」
\endtext
\text
背後の部隊を振り返り、休憩だと叫ぶアグリ。
助かったぁ、という声があちこちであがり、
兵士たちが森の中にへたりこむ。
\endtext
\text("エル")
「あ、この木……ちょっと待っていて
 ください」
\endtext
\text("アグリ")
「なんだ? お、おい!」
\endtext
\text
大きな木の表面に這ったツタに手をかけて、
スルスルと樹冠まで登っていくエル。
\endtext
\text("アグリ")
「あ、あぶねーぞ! 戻って来いエル!」
\endtext
\text("エル")
「大丈夫ですよー! 子供の頃から、
 このあたりの森は遊び場でしたから……
 ほらあった」
\endtext
\text
危ないですよ、と声をかけてから、
見つけた木の実をポイポイと下へ投げ下ろす
エル。
\endtext
\text
人数分だけ木の実を投げ落としたところで、
逆さになってざあっ、と木の表面を滑って
降りてきていた。
\endtext
\text("エル")
「よっ、と。その実、半分に割ってみて
 ください。中に甘い汁が詰まってて、
 疲れがとれますよ」
\endtext
\text("アグリ")
「おう、そいつはありがてぇ……と、
 さすがだな、ブライトリーフ」
\endtext
\text("エル")
「えっ? あはは……それほどでも」
\endtext
\text("アグリ")
「謙遜すんなよ。道案内だけじゃなくて、
 その弓で食料まで獲ってもらってるしな」
\endtext
\text("アグリ")
「村での徴発は許されてねえ。
 お前さんがいなきゃ、
 この三倍の荷物を背負う羽目になってた」
\endtext
\text("アグリ")
「感謝するぜ……この任務にお前さんを
 つけてくれた、リズベルの姉御にもな」
\endtext
\text
ここは、ルザリオの『アルダ大森林』。
\endtext
\text
今回、エルはこの大森林の中に点在する、
ブライトリーフの村をパトロールして回る
アグリの隊に同行している。
\endtext
\text
道案内兼、隊の食料の調達役。
それに村人との交渉役だ。
\endtext
\text
ブライトリーフたちの多くは、
森の中で外界と切り離されて暮らしている。
\endtext
\text
ルクト=ルザリオでの出来事など知らないし、
当然、政権がカイムの手に移ったことも
伝わっていない。
\endtext
\text
これまで同様、ハドスの政権も村の自治には
干渉しないこと。同時に腐敗の追放によって、
税を軽減できることなど……
\endtext
\text
村々に説明して回るのが、今回のエルたちの
任務なのだった。
\endtext
\text
――自分も半分に割った果実にかぶりつき
ながら、エルはふと気がついた。
\endtext
\text("エル")
(そっか……よく考えたら、この隊で女って、
 わたし一人だけなんだよね)
\endtext
\text
アグリの率いる荒くれ者の兵士が十数人。
全員が男で、ここしばらくは森の中で
女抜きの生活を送っている。
\endtext
\text("エル")
(男の人って、しばらく女の人とそういう
 コトしないと、たまってきて我慢できなく
 なるって聞いたことあるけど……)
\endtext
\text
以前には、そんなことは気にしたことも
なかった――ルザリオで衛兵隊長をしていた
頃も、部下は全員男だった。
\endtext
\text
それが今は気になってしまうのは、
やっぱり、カイムとの約束のことで――
\endtext
\text
自分を、『女』として意識しはじめた
からだろうか。
\endtext
\text("エル")
(ということは……ひょっとしたら、
 今ってチャンスなのかも知れないよね)
\endtext
\text
さすがにエル自身も、
自分にティーリアほどには女の魅力が
ないことを自覚している。
\endtext
\text("エル")
(だけど……お腹がぺこぺこになってる
 時なら、ワンコだってどんなまずいエサ
 でもがっつくもん)
\endtext
\text
木の下の影で、だれた顔をして休息をとって
いる兵士たち。
\endtext
\text
その何人かは、「女を抱きてーなあ」と
内心で考えているのだろう。
\endtext
\text("エル")
(ちょっとだけ……ためしてみようかな?)
\endtext
\text
悪戯心がわきあがってくるエル。
\endtext
\text
――男の集団と生活していて、
自分の中でも性の本能が息づいてきている
ことに、エルは気がついていない。
\endtext
\text("エル")
「……よいしょっと」
\endtext
\text("アグリ")
「ん? なんだ?」
\endtext
\text
一人で休憩しているアグリをみつけると、
その正面にエルは座りこむ。
\endtext
\text("エル")
「いやー、なんだか汗かいちゃった。
 木に登ったら、上のほうがなんか
 暑くって」
\endtext
\text
この位置に座ったのには、一応計算がある。
\endtext
\text
ゆっくりとだが風が吹いていて、
この場所は、ちょうどアグリの座っている
位置の風上に位置している。
\endtext
\text
耳から得た知識にすぎないが――女の汗の
匂いを嗅ぐと、男は興奮してたまらなく
なるという。
\endtext
\text
本当なら、あの程度の木登りで
汗をかくようなエルではないのだが――
\endtext
\text
これから生まれて初めて男を誘惑する
のだと思うと、自然と肌が熱っぽくなり、
汗ばんでくるのを感じる。
\endtext
\text
――その汗は、自分でも女のフェロモンを
たっぷりと含んでいるのがわかる。
\endtext
\text
木にもたれて休んでいたアグリが、
そこで流れてきた匂いに気づいたらしい。
\endtext
\text
鼻をひくひくっと動かし、
眉をしかめて、何だか複雑な表情をする。
\endtext
\text("エル")
(気づいた……! よーし、
 ここは恥ずかしいけど……)
\endtext
\text("エル")
「あー、暑い暑い。
 ちょっとここあけちゃお」
\endtext
\text
胸元を開いて、中にパタパタと風を入れる。
\endtext
\text
ふわっ、と汗の匂いが、
さらに風の中に放たれたのがわかる。
\endtext
\text("エル")
(ついでに、こっちも……!)
\endtext
\text
体育座りをするようにして、
両方のヒザをお腹に引きつける。
\endtext
\text
動きやすいように上着の丈は短くて、
下半身はスパッツだけの姿だから――
\endtext
\text
薄い布地ごしに、下半身の形がはっきりと
アグリには見えてしまっているはずだ。
\endtext
\text("エル")
(これで……どうかな?)
\endtext
\text
期待をこめて、エルはチラチラとアグリの
様子をうかがう。
\endtext
\text("アグリ")
「……………………」
\endtext
\text
退屈そうな顔をして、アグリはそんなエルの
様子を眺めていたが……。
\endtext
\text("アグリ")
「……………ふあっ」
\endtext
\text
あくびを一つして、そのまま木にもたれ
かかって眼を閉じてしまった。
\endtext
\text("エル")
「あれ? ちょ、ちょっと、アグリさん……!
 今の、なんとも思いませんでした?」
\endtext
\text
面倒くさそうに、アグリが閉じていた眼を
もう一度開く。
\endtext
\text("アグリ")
「……なんともって、なんだ?」
\endtext
\text("エル")
「たとえばこう、胸がドキドキわくわく
 したりとか、わたしのこと魅力的だーっ、
 って感激したりとか」
\endtext
\text("アグリ")
「……もしかしてとは思ったが。
 お前、俺のこと誘惑してたのか?」
\endtext
\text
こくこく、と頷いてみせるエル。
\endtext
\text("アグリ")
「……お前、俺のこと好きなのか?」
\endtext
\text
ふるふる、と首を横に振ってみせるエル。
\endtext
\text
それはない。今のところ、将来的にも、
たぶん全くない。
\endtext
\text("アグリ")
「ならよかった。俺も、女には興味のねえ
 タチなんだよ。……期待に応えられなくて
 悪いな」
\endtext
\text("エル")
「ええと。女には興味がないっていうと……」
\endtext
\text
頭の中で、耳から仕入れた性知識を
検索するエル。
\endtext
\text("エル")
「ええっ! アグリさん、ということは、
 男の人が好きな男の人なんですか!」
\endtext
\text("アグリ")
「ぶっっ! ば、馬鹿やろう!
 声がでけえよ! それに、違うっつの!」
\endtext
\text
エルのあげた大きな声に、
部下たちが驚いて二人のことを見ている。
\endtext
\text("アグリ")
「ったく……そりゃまあな、
 俺だって男だ。性欲がないわけじゃあ
 ないさ」
\endtext
\text("アグリ")
「だけど、俺がこの魔王軍で、
 かたっぱしから女に手を出したり
 したら、どうなると思う?」
\endtext
\text("エル")
「それは……カイムさまと取り合いに
 なりますよね」
\endtext
\text("アグリ")
「そういうこった。何もかも失っちまう。
 俺はあのカイムと、この魔王軍の
 ことが気に入ってんだよ」
\endtext
\text("アグリ")
「あいつに従ってりゃ、強敵相手に剣を
 振るう場面にはことかかねーし……」
\endtext
\text("アグリ")
「それになんかこう、ワクワクするような
 ことをやらかしそうじゃねーか?」
\endtext
\text("エル")
「そうですね。なんだか……
 わたしもそう思います」
\endtext
\text("アグリ")
「だろ? 逆に俺にとって、女のことは
 正直それほどでもねえ」
\endtext
\text("アグリ")
「面倒くせえし、だからって殴るとすぐに
 泣きやがるし。正直いって苦手だ」
\endtext
\text("アグリ")
「長いことヤってなきゃ溜まってもくるが、
 まあそんなもんは小便と同じだな」
\endtext
\text("アグリ")
「商売女を相手にしてたまに吐き出して
 おけば、俺にはそれで充分さ」
\endtext
\text("アグリ")
「……ま、優先順位の問題ってとこだな。
 納得したか?」
\endtext
\text("エル")
「はい……!」
\endtext
\text
うなずいてみせるエル。
\endtext
\text("エル")
「と、ちょうどいい機会なんで、
 男の人に意見を聞いておきたいっていうか、
 相談しときたいことがあるんですけど」
\endtext
\text("アグリ")
「お、おう……わかる範囲でな。
 あんまり経験とかねえからよ」
\endtext
\text("エル")
「あ、はい。実は――」
\endtext
\text
先日からの悩みのことを、
アグリに打ち明けるエル。
\endtext
\text
ティーリアの救出と引き換えに、
自分の処女を差し出す約束をしたこと。
\endtext
\text
にかもかかわらず、カイムはその約束を
忘れてしまったようで、いまだに相手をして
もらっていないこと。
\endtext
\text
……カイムに、女として見てもらえている
気がしないこと。
\endtext
\text
その原因は、カイムがティーリアを
手に入れたことにもあるのでは
ないかということ――
\endtext
\text("アグリ")
「んー、そりゃまあ、なあ……
 あの女王様は、俺から見たって
 色っぽいからなあ」
\endtext
\text("アグリ")
「まあ、勝ち目はねえやな。
 公平にみたら、どうみたって」
\endtext
\text("エル")
「ぷうう……わかってるんですけど、
 自分でもそのことは……」
\endtext
\text("アグリ")
「んー、そうだな。
 ……と、ひとつあるな、ヒントに
 なりそうなのが」
\endtext
\text("エル")
「えっ? なんですかっ!」
\endtext
\text("アグリ")
「いや、あれだ……あいつ、エロい
 幻像石のコレクションをしてるだろ」
\endtext
\text("エル")
「ああ、このあいだの……」
\endtext
\text("アグリ")
「どんなのを集めてるか見てみれば、
 カイムの趣味がわかるんじゃねーかな。
 服装とか、シチュエーションとか」
\endtext
\text("エル")
「シチュエーション……そういえば
 いってました。確か大事なのは
 シチュエーションなんだって」
\endtext
\text("アグリ")
「それだ。ばっちりのシチュエーション
 を演出してやれば、カイムの興味を
 引くことができるんじゃねーかな?」
\endtext
\text("エル")
「なるほど……そうですね!
 やってみます! ありがとうございます、
 アグリさん!」
\endtext
\text("アグリ")
「おうよ。助けてもらってる礼だ。
 ……と、そろそろ出発するとするか」
\endtext
\text("アグリ")
「いくぞ、野郎ども。さあ気合入れろ!」
\endtext
\text
アグリの掛け声に、休んでいた兵士たちが
やれやれという感じで腰をあげる。
\endtext
\text("エル")
「シチュエーション……シチュエーション」
\endtext
\text("アグリ")
「おいおい、道案内のほうもしっかり
 頼むぜ?」
\endtext
\text("エル")
「は、はい!」
\endtext
\text("エル")
(シチュエーション、かあ。
 うん、それならいけるかも!)
\endtext
\text("エル")
(――わたし、こうみえてもハンター
 なんですよ? 待っててくださいね、
 カイムさま)
\endtext
\text
アグリの言葉に光明を見出した
気分のエル。
\endtext
\text
森を歩きつつ、計画に瞳を輝かせる
のだった。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,316 @@
\setgamedatatitle("エル_04")
\text("エル")
「カイムさま、いま、いいですか?」
\endtext
\text("カイム")
「エルか。どうした、俺はこれから
 忙しいのだが」
\endtext
\text("エル")
「あっ、すみません。
 ……何か用事でも?」
\endtext
\text("カイム")
「おおう。重要な用事だ。
 アグリの奴が、またしても裏モノの
 幻像石を大量に入手してきたんでな」
\endtext
\text("カイム")
「整理がてら鑑賞会だ。
 ククク……腕が鳴るぞ。
 特にこの右腕が」
\endtext
\text("エル")
(……? なんで幻像石をみるのに
 腕が鳴るんだろう?)
\endtext
\text("エル")
(と、でもチャンスだよね、これ……!)
\endtext
\text("エル")
「あ、あの! カイムさま!」
\endtext
\text("カイム")
「ん? なんだ?」
\endtext
\text("エル")
「い、いえ……その幻像石なんですけど、
 実はわたしも、以前から
 興味を持っていまして」
\endtext
\text("カイム")
「ほぅ? 初耳だな。
 俺の集めているのはエロい幻像石
 ばかりだぞ?」
\endtext
\text("エル")
「は、はい。わたし、以前は王宮に勤めて
 いましたから。そういう石のあることは、
 人に聞かされていまして」
\endtext
\text("エル")
「幻像石は、もともと偉い学者先生の
 講義や、有名な役者の舞台――」
\endtext
\text("エル")
「式典だとか、遠い地方の珍しい風景
 なんかを記録するために、
 考え出されたものですけど」
\endtext
\text("エル")
「でも、本当に価値のあるのは、
 その……エッチな映像の入った幻像石
 なんだ、って」
\endtext
\text("カイム")
「ほう? ……続けてみろ」
\endtext
\text("エル")
「は、はい。その……そういうエッチな
 幻像石って、もともと高値で取引される
 ものですから」
\endtext
\text("エル")
「映像のほうも、お金のかかった凝った
 作りのものが多くて。芸術的価値も高いの
 だとか……」
\endtext
\text("エル")
「ニルトの生み出した文化の極みだよ、
 ってその方はおっしゃっていました」
\endtext
\text("カイム")
「ふむ……悪くない。が、八十点だな」
\endtext
\text("エル")
「う……、なんかダメでしたか?」
\endtext
\text("カイム")
「まあな……芸術性も、文学性もいいだろう。
 豪華なのも、あっと驚くような展開も
 またよい」
\endtext
\text("カイム")
「だが何より、幻像石はエロくなければ
 ならん。そしてエロさとは……」
\endtext
\text("カイム")
「俺の寝室へ来い、エル。
 朝までたっぷりとそれを教えてやる」
\endtext
\text("エル")
「は、は、はいいっ!」
\endtext
\text
カイムに腕を引かれて、
エルは魔王の寝室へと連れられていく。
\endtext
\text
……………………
\endtext
\text
…………
\endtext
\text
……
\endtext
\text("カイム")
「ふうっ! ……よかった。
 どうだ、素晴らしかっただろう、
 エル」
\endtext
\text("エル")
「は、は、はい……カイムさま……」
\endtext
\text("カイム")
「だがまだまだ、夜は始まったばかりだ。
 ――続けていくぞ、エル」
\endtext
\text("エル")
「ええっ!? 
 ……も、もう無理です。
 限界です、わたし、もう……」
\endtext
\text("カイム")
「なにをいう?
 貴様には朝までたっぷり教えてやると
 約束しただろうが?」
\endtext
\text("エル")
「で、でも……あっっ!」
\endtext
\text("カイム")
「さあ、次の幻像石はこれだ。
 『くりいむエリクサーPART3』!」
\endtext
\text("カイム")
「……数多くの悪いお友達をあんな趣味や
 こんな趣味に引っぱりこんだ、エロ幻像石
 黎明期の名作だ」
\endtext
\text("カイム")
「斯くいう俺も、噂やものの本でしか存在を
 知らなかったのだがな。アグリがこいつを
 見つけてきた時には興奮したものだ」
\endtext
\text("カイム")
「もちろん、今も興奮しているぞ?
 さあ……顕れ出でよ!」
\endtext
\text
カイムが幻像石に魔力を送り込むと――
呼応するように、石に内部から光が通い、
輝きを放つ。
\endtext
\text
そして突然、弾けるようにして、
宙に半透明の――そしてリアルそのものの、
動く映像を描き出していた。
\endtext
\text
内容は――これまでにさんざん見せられて
きたものと同じ。
\endtext
\text
半裸に剥かれ、あられもない格好で
拘束されて、それでも気丈にキッ……と
こちらを睨みつけている女騎士。
\endtext
\text
それが悪役に容赦なくいたぶられ、
陵辱されてしまう。
\endtext
\text("カイム")
「ふっ……! どうだ?
 ジャンルの開拓者にしてこの完成度」
\endtext
\text("カイム")
「現在生み出されている作品のどれだけが、
 始祖たるこの作品を凌いでいると
 いうのか……!」
\endtext
\text("エル")
「はっ、はぁ………」
\endtext
\text
そう力説されたところで、この手の幻像石を
一晩中ぶっ続けで見せられて、もはや
区別すらつかなくなっているエルである。
\endtext
\text
最初はそのあまりのどぎつさに、
どきまぎもしたものの――
\endtext
\text
もう麻痺してしまって、
猫やワンコの交尾程度にしか感じない。
\endtext
\text
――ひたすら眠い。
\endtext
\text
とはいえ……カイムのいう
『シチュエーション』の意味というのは、
どうやら理解できていた。
\endtext
\text
つまりこれだ。
囚われの女騎士。
\endtext
\text
戦う女の子のヒロインを捕まえて、
あんなことやこんなことをする話。
\endtext
\text
そればっかり……というか、
むしろそれしかない。
\endtext
\text
よくもこれだけ、似たような内容の作品を
量産したものだとエルが呆れるほど――
\endtext
\text("カイム")
「ふう……素晴らしかったではないか。
 さて、過去の名作の次には、口直しに
 現代の最新作を……」
\endtext
\text("エル")
「ま、まだ見るんですかぁ……?」
\endtext
\text("カイム")
「朝まで離さぬといったであろう!
 さあ、次はこれだ!
 『悪魔にオン!』」
\endtext
\text("エル")
「あうぅぅぅ………」
\endtext
\text
いつまで続くのか見当もつかない荒行に、
情けない声をあげつつも――
\endtext
\text
これは使える、と内心で思うエルだった。
\endtext

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@ -0,0 +1,49 @@
\setgamedatatitle("エル_99")
\text("エル")
「カイム様、遊びに来ましたよ♪」
\endtext
\text
エルは満面の笑みを浮かべながら、
部屋に入ってきた。
\endtext
\text("カイム")
「ちょうどいいところにきたな、エル。
 今から、先日入手したばかりの幻像石を
 見るところだ」
\endtext
\text("エル")
「むぅ、幻像石もいいんですけど、
 せっかくですし……もっといいこと、
 しませんか?」
\endtext
\text
不満げな表情をしたエルは、
カイムに抱きついた。
\endtext
\text
エルに抱きつかれたカイムはニヤリと笑い、
幻像石を箱の中に戻す。
\endtext
\text("カイム")
「そうか。
 では、俺を楽しませてみせろ」
\endtext
\text("エル")
「はい、任せてください♪」
\endtext
\text
こうして、二人の夜は更けていくのだった。
\endtext
\dlg("   エルの攻撃力が1%上昇しました。   (最大20%)")
\dlg("エルの攻撃力はこれ以上上昇できません。")

View file

@ -0,0 +1,663 @@
\setgamedatatitle("オルフィス_01")
\text("オルフィス")
「すぅ……ッ!」
\endtext
\text
弓を引き絞り、息を吸って止める。
\endtext
\text("オルフィス")
「…………!」
\endtext
\text
止めた息はそのまま。私は、弓につがえた矢を
一気に解き放った。
\endtext
\text
そして、放たれた矢は、寸分の狂いもなく、
目標に命中した。
\endtext
\text("オルフィス")
「ちっ! なんでくたばらないんだい!?」
\endtext
\text
脇腹から心臓に向けて矢が貫通したはずだ。
だが、目標――最近、この森を抜ける街道で
人を襲う狼――はわずかにひるんだだけだ。
\endtext
\text("オルフィス")
「毛皮のせいで止まりやがったのかい? 
 まったく、面倒だ……ねっ!」
\endtext
\text
弓を投げ捨て、剣を鞘走らせる。
\endtext
\text
そのでかい狼はこちらを振り返り、
牙を剥いてみせた。
\endtext
\text("オルフィス")
「悪いね。恨みはないが狩らせてもらうよ。
 あいにくとこれも仕事でね」
\endtext
\text
対峙してみると、改めて狼の大きさに驚く。
\endtext
\text
確かに、こんなのに襲われては軽装の
旅人なんてひとたまりもないだろう。
\endtext
\text("オルフィス")
「ッ!!」
\endtext
\text
一気に踏み込み、狼の頭めがけて
得物を振り下ろす。
\endtext
\text
だが、その狼は、巨体に似つかわしくない
素早い動きでそれをかわした。
\endtext
\text("オルフィス")
「ちいいっ!」
\endtext
\text
まあ、それも仕方ない事だろう。
\endtext
\text
この程度で討ち取れるような獲物だったら、
私にお鉢が回ってきたりはしない。
\endtext
\text
もっと、駆け出しの冒険者でも狩れるはずだ。
\endtext
\text
私の喉元めがけて食らいついてくる獣の顎。
\endtext
\text
それを剣で押し返して距離を取る。
\endtext
\text("オルフィス")
(参ったな……)
\endtext
\text
私は、心の中でつぶやいていた。
\endtext
\text
冒険者ギルドのギルドマスターは、
ごく当たり前の討伐任務であるかのような
口ぶりだった。
\endtext
\text
私も、説明を聞いてそのつもりでいた。
\endtext
\text
しかし、隠密状態からの不意打ちで放った
矢が効かない相手とは……。
\endtext
\text
おまけに、想像していたよりもずっとでかく、
その上機敏だ。
\endtext
\text
どう攻めたものか……。
\endtext
\text
そんなことを考えている間にも、狼は
じりじりと距離を詰めてくる。
\endtext
\text("オルフィス")
(もう一度……こちらの喉元を狙ってきた
 時が最後のチャンスかね)
\endtext
\text
相手は、この辺りの森を知り尽くした獣。
\endtext
\text
下手に深手を負わせてうっそうとした
木々の中に逃げ込まれでしたら、
追いつけなくなる。
\endtext
\text
向こうに、まだこちらを襲う体力と気力が
残っている間に勝負を決めなければ。
\endtext
\text("オルフィス")
(来る……ッ!)
\endtext
\text
狼がその身体をたわめ、地を蹴った。
\endtext
\text
そして、私を押し倒し喉笛を噛みちぎる
べく、その顎を大きく開く。
\endtext
\text("オルフィス")
「そいつを待ってたよ!」
\endtext
\text
こちらに向かって大きく開かれた口。
\endtext
\text
そこに、私は躊躇なく剣の切っ先を
突き入れていた。
\endtext
\text
飛びかかってくる狼のスピードと体重。
\endtext
\text
そして、私の突き。
\endtext
\text
その二つの相乗効果で、剣は獣の内臓にまで
容易く達する。
\endtext
\text("オルフィス")
「ッ!? ぐうっ!?」
\endtext
\text
予想外だったのは、狼の重さだった。
\endtext
\text
そのあおりを食らって、私は背中から
地面に叩きつけられた。
\endtext
\text("オルフィス")
「くたばれぇぇぇーっ!」
\endtext
\text
口の中に剣を深々と突き刺されても、
そいつはまだこちらを殺る気だった。
\endtext
\text
ぶんぶんと首を振り回し、口から内臓に
向けて突き刺さった剣を抜こうと必死だ。
\endtext
\text("オルフィス")
「冗談じゃない……ゾンビでもないって
 のに……!」
\endtext
\text
私は、とっさにその胸に突き刺さっていた
矢をつかむと、それを全力で押し込んだ。
\endtext
\text
ブツッ、と肉が裂ける感触と共に、矢が
深々と突き刺さる。
\endtext
\text
ビクン、ビクン。
\endtext
\text
二度ほど大きく身体を震わせると、さしもの
野獣も、それきり動かなくなった。
\endtext
\text("オルフィス")
「く……はっ、はっ、はぁーっ!」
\endtext
\text
次第に体温を失っていく狼の身体を、自分の
上からはね飛ばす。
\endtext
\text("オルフィス")
「ったく……なんてバケモノだい……」
\endtext
\text
荒い呼吸を繰り返しながら死体を見ると、
その脚は、まだぴくぴくと蠢いていた。
\endtext
\text("オルフィス")
「はぁっ、とにかく依頼は果たせたね」
\endtext
\text
まさか、こんなに手こずるとは
思わなかった。
\endtext
\text
大きくため息を吐いて、身体を起こす。
\endtext
\text
死体の口から剣を抜くのは一苦労だった。
\endtext
\text
刃から血を拭って、鞘に収めると、私は
改めて死んだ狼の身体を検分してみた。
\endtext
\text("オルフィス")
「それにしても、立派な毛皮だね」
\endtext
\text
これだけの大物、しかも結構歳経た狼の
毛皮となれば、高値で売れるだろう。
\endtext
\text("オルフィス")
「ふふふ……これも臨時収入ってヤツだね」
\endtext
\text
ギルドマスターからの説明では、こいつを
倒した証を見つけなきゃ依頼金は
支払われないらしい。
\endtext
\text
そのため、どのみちここで解体しなきゃ
ならないわけだが……。
\endtext
\text("オルフィス")
(上手く皮を剥げれば、いいボーナスに
 なりそうだね)
\endtext
\text
この毛皮を持ち帰って街の皮革屋に卸せば、
それなりの値がつくだろう。
\endtext
\text
私は、ハンティングナイフを取り出すと、
狼の解体に取りかかった。
\endtext
\text
………………
\endtext
\text
…………
\endtext
\text
……
\endtext
\text("オルフィス")
「ふふん」
\endtext
\text
苦労して持ち帰った狼の毛皮は、それなりの
値段で売れた。
\endtext
\text
これは、ギルドの依頼とは別口なので、
売り上げはまるまる私の懐に入る。
\endtext
\text
まあ、苦労に見合うか……と言われると、
ちょっと考えてしまうが。
\endtext
\text
それでも、これくらいの役得がなければ、
冒険者稼業などやっていられない。
\endtext
\text
潤った懐に、思わずほくほく顔になりながら、
ギルドに足を踏み入れる。
\endtext
\text
と、そこで私はたたらを踏んだ。
\endtext
\text("オルフィス")
「あ? なんだい、こりゃ…?」
\endtext
\text
いつもなら、閑散としている冒険者ギルド。
\endtext
\text
その室内には、慌ただしい空気と共に、
多数の冒険者が詰めかけていた。
\endtext
\text
ほとんど、荒くれ者みたいな連中をかき分け、
受付へと向かう。
\endtext
\text
そこには、依頼をよこしたギルドマスターが
涼しい顔でたたずんでいた。
\endtext
\text("ギルドマスター")
「おう、オルフィス、戻ったか」
\endtext
\text("オルフィス")
「ああ、なんとか無事にね。はい、これ」
\endtext
\text
私はうなずいて、彼の前のカウンターに
金の指輪を置いた。
\endtext
\text("ギルドマスター")
「ふむ……ああ、こいつで
 間違いないようだな」
\endtext
\text
今回の依頼は、森を抜ける街道で人を襲う
狼を討伐することだった。
\endtext
\text
そこにはもう一つの依頼が含まれていた。
\endtext
\text
以前、そこで襲われて命を落とした
若いご婦人が身につけていた指輪を
持ち帰ること。
\endtext
\text
それが二つ目の依頼だった。
\endtext
\text
今回この狼に懸賞金を掛けたのは、
その亡くなったご婦人の、年老いた
親御さんなんだとか。
\endtext
\text
遺体の戻らなかった娘のために、狼を討ち、
なおかつ、せめて遺品だけは取り戻して
欲しいとのことだった。
\endtext
\text("ギルドマスター")
「こいつをどうやって見つけたかは、
 聞かない方がいいんだろうな」
\endtext
\text("オルフィス")
「そうだね」
\endtext
\text
私は、胸の悪くなるような狼の解体作業を
思い出し、思わず渋面になる。
\endtext
\text
腹を開け、臓物を開いて指輪をさがす。
\endtext
\text
悪臭を思い出して思わず吐きそうになり、
咳払いをしてなんとかこらえる。
\endtext
\text
それでも、この指輪がどうしてあの狼の
胃袋に入ったのかは、
あまり想像したくなかった。
\endtext
\text("ギルドマスター")
「よし、それじゃ、これが約束の報酬だ」
\endtext
\text
指輪の内側に掘られたご婦人の名前を
検分していたギルドマスターがうなずく。
\endtext
\text
そして彼は、カウンターの上に革袋に
入った金貨を置いた。
\endtext
\text("オルフィス")
「毎度あり……ん?」
\endtext
\text
持ち上げてみると、その革袋はひどく
軽かった。
\endtext
\text
思わず、ギルドマスターの方を見やる。
\endtext
\text
彼は、勘弁してくれと言わんばかりに、
両手を掲げてみせた。
\endtext
\text("ギルドマスター")
「俺がネコババしたわけじゃないぞ。
 国の上層部からのお達しだよ」
\endtext
\text("オルフィス")
「どういうことさ」
\endtext
\text("ギルドマスター")
「なんでも、軍備増強のためだとかで、
 急な徴税をしやがったんだ」
\endtext
\text("オルフィス")
「はぁ? なんでまたそんなことを?
 戦でもおっ始めるつもりなのかい?」
\endtext
\text("ギルドマスター")
「そのことなんだがな……実は、新しい
 依頼が舞い込んできてる」
\endtext
\text
そんなことを言うと、ギルドマスターは、
珍しく深刻そうな表情を浮かべた。
\endtext
\text("オルフィス")
「どんな?」
\endtext
\text("ギルドマスター")
「なんでも、魔王軍を名乗る連中が、
 叛乱を企ててるらしい」
\endtext
\text("ギルドマスター")
「さっきの徴税の話も、その叛乱への対策の
 ためらしいんだな、これが」
\endtext
\text("オルフィス")
「魔王軍、ねぇ?」
\endtext
\text
どんな連中か……までは、想像もつかない。
\endtext
\text
だが、叛乱を企ててるとなれば、それなりに
軍備を整えているのだろう。
\endtext
\text
お上が押っ取り刀で税金を集め、軍備を増強
しようというのも、楽観視はできないって事
の証なのかも知れない。
\endtext
\text("オルフィス")
「なんとなく読めてきたよ。
 その魔王軍とやらの、親玉の首を
 とってこいってんだろ?」
\endtext
\text("ギルドマスター")
「ご名答。魔王を名乗る輩の首に、
 バカ高い賞金が掛かってる」
\endtext
\text("オルフィス")
「なるほど、ねぇ……」
\endtext
\text
私は、ちらりと背後を振り返り、室内に
詰めかけている同業者達を見やった。
\endtext
\text
誰も彼もが、その魔王の首とやらに掛かった
賞金目当てなのだろう。
\endtext
\text("ギルドマスター")
「どうする? 受けるかい?」
\endtext
\text("オルフィス")
「いや、やめとくよ」
\endtext
\text("ギルドマスター")
「どうした?
 随分と諦めがいいじゃねえか」
\endtext
\text
驚いたように目を見開くギルドマスターに、
私は鼻を鳴らした。
\endtext
\text("オルフィス")
「生憎と、私はまだまだ死ねない身なんでね。
 ハイリターンとはいえ、リスクを
 冒すわけにはいかないんだよ」
\endtext
\text("ギルドマスター")
「ああ……そういや、そうだったか」
\endtext
\text
そう、私も冒険者として、高額の賞金は
喉から手が出るほど欲しい。
\endtext
\text
でも、死んじまったらなんにもならない。
\endtext
\text
そんなことよりも、確実な依頼を
積み重ねていく堅実さが必要だった。
\endtext
\text("ギルドマスター")
「わかった。それじゃアンタはこの話には
 乗らないってことでいいんだな」
\endtext
\text("オルフィス")
「ああ、構わないよ。で、それ以外に
 依頼はあるのかい?」
\endtext
\text("ギルドマスター")
「いや、今んところはねぇな。
 また新しい依頼が来たら、
 知らせをやるよ」
\endtext
\text("オルフィス")
「ん。それじゃあね。お疲れさん」
\endtext
\text("ギルドマスター")
「ああ、気をつけてな」
\endtext
\text
私は、にこりと笑みを浮かべる
ギルドマスターに手を振り、
その場を後にした。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,431 @@
\setgamedatatitle("オルフィス_02")
\text("オルフィス")
「高い!」
\endtext
\text("店主")
「ひっ!?」
\endtext
\text("オルフィス")
「いくらなんでも高すぎるっ!」
\endtext
\text("店主")
「か、勘弁してくださいよぉ……こちらも
 商売なんですよ」
\endtext
\text
私が思わず声を荒げると、禿頭で
ひょろりとした長身の店主は、
びくっとその身をすくませた。
\endtext
\text("オルフィス")
「おかしいでしょ! ついこの前まで、
 ひとつ銀貨5枚だったじゃない!」
\endtext
\text("オルフィス")
「それがなんで、急に金貨1枚に
 値上がりしてんのさ!?」
\endtext
\text("店主")
「で、ですから、急な徴税の影響で、
 ここのところ急激に物の値段が
 上がってるんですって!」
\endtext
\text
店主の顔には、明らかに迷惑そうな表情が
浮かんでいる。
\endtext
\text("オルフィス")
「ぐ……っ、まったく、仕方ないね」
\endtext
\text
私は、渋々ながら店主の前に金貨を置いた。
そして、代わりに干し肉を手に取る。
\endtext
\text("店主")
「ま、毎度ありぃ」
\endtext
\text("オルフィス")
「はぁぁぁ……」
\endtext
\text
食料品の出店を離れてしばらく
歩いたところで、私は石のベンチに
腰を下ろした。
\endtext
\text
そこはちょうど木陰になっており、
さわやかな風が吹き抜けていく。
\endtext
\text
熱くなった頭を冷やすにはもってこいだった。
\endtext
\text("オルフィス")
「なんてざまだい……」
\endtext
\text
背負い袋の中に干し肉を詰め込みながら、
思わず愚痴る。
\endtext
\text
さっきの店主が言うとおり、ここのところ、
急な徴税の影響で給料は下がり、逆に物価は
高騰している。
\endtext
\text
それもこれも、お上が軍備増強とやらに
躍起になっているせいだ。
\endtext
\text
ちなみに、金貨一枚は、銀貨十枚の
価値がある。
\endtext
\text
つまり、この干し肉は、ここ何日かで
二倍ほど値上がりしたことになる。
\endtext
\text("オルフィス")
「軍備なんて、それこそ普段から備えておく
 ものだろうにさ、まったく……」
\endtext
\text
恐らく、庶民から巻き上げた税金は貴族達の
贅沢な暮らしへと消えていったのだろう。
\endtext
\text
彼らが消費すれば、世の中のお金が大きく
動くので、それはそれで結構なことだ。
\endtext
\text
だが、そのせいでいざというときに庶民に
負担を強いるようでは本末転倒も
いいところだ。
\endtext
\text("オルフィス")
(それにしても、こんな物価上昇じゃ、
 不満を抱くのは私だけじゃないだろうね)
\endtext
\text
実際、あの食料品店の親父も
弱っているようだった。
\endtext
\text
こうして、日用品の出店が並ぶ一角を
眺めても、普段より人通りが少ない。
\endtext
\text
みんな、懐具合が厳しくて、出費を
控えたいのだ。
\endtext
\text("オルフィス")
(これじゃ、魔王軍とやらに
 攻め滅ぼされる前に、
 中から崩壊しそうだね)
\endtext
\text
狙ってやってるのかどうかは知らないが、
魔王軍は既に街を囲むことなく、こちらに
籠城戦を強いているようなものだ。
\endtext
\text
援軍のアテのない籠城戦は勝てないものと
相場が決まっている。
\endtext
\text("オルフィス")
(はぁ……こりゃたまったもんじゃないね)
\endtext
\text
この前の、狼を討つ依頼。あれで手にした
報奨金は、物価の値上がりのおかげで
あっという間に半分が吹っ飛んだ。
\endtext
\text
新しい依頼をこなしたいところだが、
こちらには無茶ができないという理由もある。
\endtext
\text
それでも、なんとかしないことには、
このままじゃじり貧だ。
\endtext
\text("オルフィス")
「さって……買う物買ったし、戻るかね」
\endtext
\text
私は背負い袋を背負い直すと、
その場を後にした。
\endtext
\text
………………
\endtext
\text
…………
\endtext
\text
……
\endtext
\text("オルフィス")
「ただいま」
\endtext
\text("")
「ママー!」
\endtext
\text("オルフィス")
「ただいま、マルト。いい子にしてたかい?」
\endtext
\text("マルト")
「うんっ、いいこにしてたよー! えへー!」
\endtext
\text
この子は、私の息子のマルト。
今は亡き夫との間にできた子供だ。
\endtext
\text
私が、冒険者なんて因果な稼業に
手を出したのも、この子を
食わせていくためだった。
\endtext
\text("マルト")
「あ、にもつ!」
\endtext
\text("オルフィス")
「重いよ? 持てるかな?」
\endtext
\text("マルト")
「だいじょぶ! おとこのこだから!」
\endtext
\text
そう言って、こちらに手をさしのべる
マルトに、用心しながら背負い袋を手渡す。
\endtext
\text
一瞬、ぐらりと身体が傾いだが、マルトは
顔を真っ赤にして持ちこたえると、それを
よちよちと運んでいく。
\endtext
\text("オルフィス")
「ありがとね、マルト」
\endtext
\text("マルト")
「おとこのこだから!
 ママをまもんなきゃいけないんだよ!」
\endtext
\text
ふぅふぅ言いながらも、マルトは
元気いっぱいにそう答えた。
\endtext
\text("オルフィス")
「あ、そこいらに置いといてくれていいよ。
 後はママがやるからね」
\endtext
\text("マルト")
「わかった! うん……しょ!」
\endtext
\text
私にそう言われ、マルトは背負い袋を
かまどのそばに置いた。
\endtext
\text("マルト")
「ほかには? ほかには、
 ママをてつだうこと、ある?」
\endtext
\text("オルフィス")
「いや、ないね……あっちで、ご本でも
 読んでらっしゃいな」
\endtext
\text("マルト")
「うん!」
\endtext
\text
私がそう言うと、マルトはとことこと
書棚に歩み寄った。
\endtext
\text
そして、お気に入りの童話の本を取り出し、
椅子に腰を下ろして読み始める。
\endtext
\text("オルフィス")
「ふふふ」
\endtext
\text
その様子を眺めながら、買ってきた物を
整理する。
\endtext
\text
私達がいるここは、いわゆる木賃宿という
ヤツだ。
\endtext
\text
冒険者や行商人向けの長期滞在前提の宿で、
安価な宿代兼薪代を支払う。
\endtext
\text
その代わり、食事や部屋の掃除は自分で
やらなきゃならない。
\endtext
\text
私が市場に出て買い物をしていたのも、
自分で炊事をする必要性があったからだ。
\endtext
\text("オルフィス")
(子供がいるのに、持ち家の一つも
 持てないなんて、因果な商売だよ、
 まったく)
\endtext
\text
荷物を整理しながら、そんなことを
自嘲気味に考える。
\endtext
\text
冒険者だった夫が生きていた頃は、私達にも
家があり、私は主婦をしていた。
\endtext
\text
でもある日、夫が帰らぬ人となり、
収入を絶たれた私は、乳飲み子だった
マルトを抱えて家を売るハメになった。
\endtext
\text
それから様々な仕事を点々として……気が
ついたら夫と同じ冒険者になっていた。
\endtext
\text
今の世の中、女でも男と同等に稼げると
言ったら、身売りか冒険者くらいしか
ないからね。
\endtext
\text("オルフィス")
(とは言っても、直に路銀も底をつく。
 なにか、適当な依頼はないもんかね)
\endtext
\text("オルフィス")
(やっぱり、例のアレしかないか)
\endtext
\text
この前のギルドマスターの言葉が
脳裏をよぎる。
\endtext
\text
魔王軍。その親玉の首にかけられた
莫大な賞金。
\endtext
\text
そいつさえ手に入れば、こんな木賃宿なんて
おん出て、新しい家を買うこともできる。
\endtext
\text
上手く行けば、一生働かずに食っていける
だろう。
\endtext
\text("オルフィス")
(そうなれば、いつも寂しい思いをさせてる
 マルトともゆっくり過ごせるように
 なるかね)
\endtext
\text
荷物の整理を終えて、ふと振り返ると、
マルトは椅子に座って絵本を手にしたまま
眠り込んでいた。
\endtext
\text("オルフィス")
「ほらほら、そんなところで寝てると風邪を
 引くよ」
\endtext
\text
マルトを抱き上げてベッドへと運ぶ。
\endtext
\text("オルフィス")
(この子の将来のためにも、あの依頼、
 受けるしかないかね)
\endtext
\text
私は、マルトをベッドに横たえ、その寝顔を
見つめながら、危ない橋を渡ることを
決意した。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,528 @@
\setgamedatatitle("オルフィス_03")
\text("オルフィス")
「はあぁぁ……まったく……」
\endtext
\text
冒険者ギルドに、魔王討伐に参加すると
告げると迷宮の場所はすぐに
教えてもらえた。
\endtext
\text
ただし、いきなり飛び込んでいくのは、
それこそ駆け出しのやること。
\endtext
\text
まずは、じっくりと周囲で情報収集だ。
\endtext
\text
そう考えて迷宮の入り口近くにある
酒場にやってきたのだが……。
\endtext
\text("オルフィス")
(結局、ろくな情報は得られなかったね)
\endtext
\text
酒場の外、そして中。そこいらでくだを
巻いてる冒険者連中に話を聞いてみても、
地下迷宮の詳細は杳として知れない。
\endtext
\text
なぜかと言えば、生きて戻ってくる者が
ほとんどいないからだ。
\endtext
\text
重傷を負っても、生還できればめっけもの。
\endtext
\text
死体になっても帰還できればいい方で、
下手をすると、そのまま行方不明なんて線も
あるらしい。
\endtext
\text("オルフィス")
(ま、中にはごろつき未満のはみ出し者
 みたいな連中もいるからね)
\endtext
\text
どうやら、一部には莫大な借金を抱え、
冒険者になるふりだけして、そのまま
夜逃げする連中もいるらしい。
\endtext
\text
そうすれば、しつこい借金取りから
逃げ切れるからだ。
\endtext
\text("オルフィス")
(銭ゲバどもも、さすがに地下迷宮までは
 追っていかないだろうから、
 上手いと言えば上手いかね)
\endtext
\text
ともかく、あちこち歩き回って疲れた。
\endtext
\text
今日はこれくらいにして情報収集はまた
明日にしよう。
\endtext
\text("オルフィス")
「マスター、エール一つ。
 それとローストチキンと、サラダ」
\endtext
\text("マスター")
「…………」
\endtext
\text
カウンター席に腰を下ろして酒場の主人に
そう伝える。
\endtext
\text
口ひげを蓄えた彼は、生来から無口なのか
小さくうなずいただけだった。
\endtext
\text
注文した品が届くまでに、店内をぐるりと
見渡す。
\endtext
\text
いかつい身体つきの連中が何人もいるが、
あれは多分戦闘のための身体じゃない。
\endtext
\text
鉱山や石切場で働いてた連中だろう。
\endtext
\text("オルフィス")
(なるほど、魔王の首を取って、
 一攫千金ってことかい。そう上手く
 いくもんかねぇ?)
\endtext
\text("マスター")
「お待たせ。先払いで頼む」
\endtext
\text("オルフィス")
「へいへい」
\endtext
\text
どうやら、食い逃げが多いのか、
品物を受け取る前に金を
払わなきゃならないようだ。
\endtext
\text("マスター")
「ごゆっくり」
\endtext
\text
銀貨を受け取ると、マスターはカウンターに
エールのグラスと焼いたチキンの載った皿、
そしてサラダボウルを置いた。
\endtext
\text
さすがに冒険者が出入りする店だけあって、
量だけはしっかりあるらしい。
\endtext
\text("オルフィス")
(味も……まあ悪くないかね)
\endtext
\text
いわゆる、そこそこの味と言うヤツだ。
当たりでも外れでもない。
\endtext
\text
ま、量が多いからこの方がいいのかも
知れない。
\endtext
\text("オルフィス")
「はぁ……それにしても、こんなことで
 魔王討伐なんてできるのかねぇ」
\endtext
\text
チキンとサラダをエールで流し込むと、
一気に疲れが押し寄せてきた。
\endtext
\text
思わず、口をついて愚痴もこぼれよう
というものだ。
\endtext
\text("")
「隣、いいかな」
\endtext
\text("オルフィス")
「うん?」
\endtext
\text
そんな声に顔を上げると、ディアボリカの
男がこちらを見つめていた。
\endtext
\text("オルフィス")
「ああ、構わないよ。座んなよ」
\endtext
\text("")
「では、お言葉に甘えて遠慮なく。ああ、
 マスター、俺にもエールと適当になにか。
 それと彼女にも一杯おかわりを」
\endtext
\text("オルフィス")
「ちょいと。私は物乞いじゃないんだよ。
 見ず知らずの男におごられるほど、
 落ちぶれちゃいないよ」
\endtext
\text("")
「一人酒はわびしくてな。つきあってくれ。
 それでチャラだ」
\endtext
\text
そう言うと、その若いのはニッと口元を
ほころばせた。
\endtext
\text("オルフィス")
「わかったよ」
\endtext
\text("")
「結構……ところで、その格好からすると
 冒険者なのか?」
\endtext
\text("オルフィス")
「ああ、まあそうだね」
\endtext
\text("")
「さっき魔王がどうこう言っていたが、
 やはり討伐を?」
\endtext
\text
若いのは、そう言ってちらりと背後の
店内を振り返る。
\endtext
\text("オルフィス")
「そういうこと。でも、迷宮の情報が
 なかなか集まらなくてね」
\endtext
\text("")
「ふぅん……冒険者というのは、もっとこう、
 脇目もふらずに突っ込んでいくような
 ものかと思っていたがな」
\endtext
\text("オルフィス")
「ああ、まあ確かにそういうのもいるこたぁ
 いるね」
\endtext
\text("オルフィス")
「でもね、死にたくなきゃ臆病過ぎるくらい
 に慎重に情報を集めてからじゃないとね」
\endtext
\text
私の言葉に、ディアボリカは意外そうな
表情になった。
\endtext
\text("オルフィス")
「意外かい? まあそうかもね。
 でも、こう見えても、息子がいるんでね。
 うかつに死ねないのさ」
\endtext
\text("")
「ほう、子供がいたのか……こんないい女を
 射止めるとは、旦那もなかなかやるじゃ
 ないか」
\endtext
\text
納得がいった様子で、ディアボリカはうなずく。
\endtext
\text("オルフィス")
「ええ、いい男だったわよ。まあ、
 あんた程度にはね」
\endtext
\text("")
「それは……そうか、その……すまない」
\endtext
\text
だったという言葉の意味をくみ取ったらしく、
若いのは済まなそうに目を伏せる。
\endtext
\text("オルフィス")
「別に、今更気にもしちゃいないよ。
 顔を上げなよ」
\endtext
\text("")
「せっかくの寝取りシチュエーションなのに
 惜しいことを。いや、未亡人なら
 それはそれで……」
\endtext
\text
私がそう言っても、若いのはぶつぶつと
なにかをつぶやき続けている。
\endtext
\text("オルフィス")
「どうしたんだい、あんた? 具合でも
 悪いのかい?」
\endtext
\text("")
「いや、なんでもない」
\endtext
\text("マスター")
「おまたせ。先払いだ」
\endtext
\text
そんなやりとりをしていると、先ほどと
同じようにマスターがやってきた。
\endtext
\text
ディアボリカから代金を受け取ると、
カウンターの上にエールを並べ、つまみの
載った皿を置く。
\endtext
\text("")
「それじゃ、情報収集が上手く行くことを
 祈って乾杯しようじゃないか」
\endtext
\text("オルフィス")
「おっ、いいこと言ってくれるじゃない。
 それじゃ、乾――」
\endtext
\text("")
「見つけた!
 こんなところにいたんですね!」
\endtext
\text
いきなり入り口のドアが乱暴に開けられる。
\endtext
\text
そこには、隣の男よりも更に若い
ディアボリカの娘が憤懣やるかたない様子で
仁王立ちしていた。
\endtext
\text("")
「おお、もう見つかったか」
\endtext
\text("")
「今度という今度は逃がしませんよ! さ、
 来てください!」
\endtext
\text
そして、その若い娘はつかつかとこちらに
歩み寄ると、隣の男の襟首をつかんで店から
引きずり出そうとする。
\endtext
\text("")
「ま、待て待て! 今、こちらの女性と
 乾杯をだな――」
\endtext
\text("")
「うちのがご迷惑をおかけしました。
 さっ、行きますよ!」
\endtext
\text("")
「あっ、お、おいおい!」
\endtext
\text
若い男が慌ててエールのグラスを
カウンターに置くのと同時に、娘は男を
スツールから引きずり下ろした。
\endtext
\text
そして、そのままずんずんと進んで
店を出て行く。
\endtext
\text("")
「よかったらそのエールとつまみは
 始末してくれ。手はつけてないからな」
\endtext
\text
男の声が、ドア越しに小さくなっていく。
\endtext
\text
私も店の客も、その光景をぽかんと
見つめていた。
\endtext
\text("マスター")
「どうするね、これ」
\endtext
\text
その声に振り返ると、マスターが男の
残していったグラスと皿を前にこちらを
見つめていた。
\endtext
\text
ディアボリカの若いのに出されたのは、
私が頼んだのと同じグリルチキンと、多分
川魚のフライと思われるものだ。
\endtext
\text("オルフィス")
「……つまみって、持ち帰りできるかい?」
\endtext
\text("マスター")
「構わないよ。包んでやる」
\endtext
\text("オルフィス")
「じゃ、頼むよ。エールは私が飲む」
\endtext
\text
私が、カウンターに残っていた二杯の
エールを片付ける間に、マスターが
つまみを紙に包む。
\endtext
\text("マスター")
「お待たせ」
\endtext
\text("オルフィス")
「騒がせちゃって悪かったね」
\endtext
\text("マスター")
「騒いだのはあんたじゃないだろう。主に
 あのディアボリカの娘だ」
\endtext
\text("オルフィス")
「ま、そうだね」
\endtext
\text("マスター")
「用があればまた来い」
\endtext
\text
マスターはそっけなくそれだけ言うと、
自分の仕事に戻った。
\endtext
\text
こんな無愛想でよく店が続くなと思うが、
案外、こういうところは控えめなマスターの
方がいいのかも知れない。
\endtext
\text("オルフィス")
「ごちそうさん」
\endtext
\text("マスター")
「ああ」
\endtext
\text
グラス磨きに余念のないマスターに
そう声をかけて店を出る。
\endtext
\text
店を出ると、すっかり日が落ちていた。
\endtext
\text("オルフィス")
(そういや、魔王って確かディアボリカって
 話だったけど……まさか、ね)
\endtext
\text
それこそ魔王なら、地下迷宮の豪華な玉座で
若い娘を侍らせてよろしくやっていること
だろう。
\endtext
\text
わざわざ地上に出てきて、冒険者の酒場に
顔を出すなんてバカげてる。
\endtext
\text("オルフィス")
(おっと、さっさと帰らないとね。つまみは
 今夜のおかずにして節約だよ)
\endtext
\text
――宿でマルトが待ってる。
\endtext
\text
私は、頭に浮かんだおかしな考えに
苦笑を浮かべ、その場を後にした。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,73 @@
\setgamedatatitle("オルフィス_04")
\text("オルフィス")
(嫌な感じがするねぇ)
\endtext
\text
迷宮内の情報をそれなりに集めた私は、
ついに足を踏み入れることにした。
\endtext
\text
しかし、入り口に立った途端、ぴりぴりと
嫌な空気が肌を撫でていく。
\endtext
\text("オルフィス")
(こいつぁ、とびっきりヤバい迷宮だね)
\endtext
\text
今まで、討伐や探索でこういった洞窟や
地下迷宮に潜ったのは一度や二度じゃない。
\endtext
\text
修羅場も、数え切れないほどくぐってきた。
\endtext
\text
そして、そうやって生き残ってきた
冒険者としての本能が、ここはマズいと
警鐘を鳴らしていた。
\endtext
\text("オルフィス")
「ふふっ、でもね。だからって
 諦めるわけにはいかないんだよ」
\endtext
\text
自分にそう言い聞かせ、
深呼吸してリラックス。
\endtext
\text
ざわついていた心が、すうっと静まっていく。
\endtext
\text("オルフィス")
(いけるね。確かに私はビビッてる。
 でもそれを自覚できてるし、
 コントロールもできてる)
\endtext
\text
心を落ち着かせると、肌を撫でる嫌な空気も
感じられなくなった。
\endtext
\text
ま、だからと言って気を抜くつもりは
ないけどね。
\endtext
\text("オルフィス")
「さて、さっさと終わらせて帰りますか」
\endtext
\text
私は、もう一度自分にそう言い聞かせると、
迷宮の入り口へ歩を進めた。
\endtext

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View file

@ -0,0 +1,47 @@
\setgamedatatitle("オルフィス_99")
\text("オルフィス")
「お邪魔するよ」
\endtext
\text
部屋に入ってきたオルフィスを、
カイムは出迎えた。
\endtext
\text("カイム")
「おお、待っていたぞ。
 で、お前の息子はどうしてるんだ?」
\endtext
\text("オルフィス")
「アグリに面倒見てもらってるよ。
 昼まで預かってくれるってさ」
\endtext
\text
それを聞いたカイムは満面の笑みで、
オルフィスを抱く。
\endtext
\text
そして、熱烈な口付けを交わす。
\endtext
\text("カイム")
「くくく、
 これで遠慮なく朝までヤれるな」
\endtext
\text("オルフィス")
「ちょっと……明日も非番じゃないんだから、
 ほどほどにしておくれよ?」
\endtext
\text
こうして、二人の夜は更けていくのだった。
\endtext
\dlg("  オルフィスの攻撃力が1%上昇しました。 (最大20%)")
\dlg("オルフィスの攻撃力はこれ以上上昇できません。")

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View file

@ -0,0 +1,308 @@
\setgamedatatitle("グラス_02")
\text("カイム")
「入るぞ」
\endtext
\text
カイムはノックもせず、
部屋に足を踏み入れる。
\endtext
\text
そこはグラスが療養に使っている部屋で、
定期的にティーリアが訪れては、
魔法でグラスの治療を施していた。
\endtext
\text("リズベル")
「ノックぐらいしたらどうですか。
 グラスさんは女性で、
 しかも病人なんですよ?」
\endtext
\text
カイムの後に続いて、
リズベルが部屋に入る。
\endtext
\text
彼女はベッドに横たわるグラスに
小さく頭を下げた。
\endtext
\text("リズベル")
「申し訳ありません、グラスさん。
 起こしてしまいましたか?」
\endtext
\text("グラス")
「いや、先ほどまでティーリアの診察を
 受けていた。
 足音も聞こえていたゆえ、気にするな」
\endtext
\text("カイム")
「ん? ティーリアは何をしに
 ここに来ているのだ?」
\endtext
\text("リズベル")
「ですから……はぁ、
 治療だって言っているじゃないですか」
\endtext
\text("グラス")
「今の私は、
 魔力の器が欠けているのだという」
\endtext
\text
リズベルの言葉を引き継ぎ、
グラスが説明を続ける。
\endtext
\text("グラス")
「ウィンガ様の膨大な魔力を無理やり
 押し込められたせいらしい」
\endtext
\text("グラス")
「その器を、ティーリアに治して
 もらっているところだ」
\endtext
\text("カイム")
「なるほど、病は気からというしな」
\endtext
\text("リズベル")
「若干違う気も致しますが、
 今はどうでもいいです」
\endtext
\text("リズベル")
「それより、具合はいかがですか。
 着替えと……
 簡単ですが料理を持ってまいりました」
\endtext
\text("グラス")
「それはかたじけない。
 ティーリアのおかげで、具合はだいぶ良い。
 だが完治するにはしばらくかかるそうだ」
\endtext
\text
そう口にするグラスの顔は、
迷宮に運ばれてきたころに比べると
はるかに血色がよくなっている。
\endtext
\text
しかしまだ自分では起き上がることも
できないらしく、こうしてリズベルが
定期的に介護をしに来ている。
\endtext
\text("グラス")
「貴殿も忙しかろうに、わざわざすまぬ。
 礼を言うぞ」
\endtext
\text("リズベル")
「そんな……
 礼を言われるほどのことはしていません」
\endtext
\text("リズベル")
「今はそんなことを気にせず、
 治療に専念してくださいね」
\endtext
\text
甲斐甲斐しくグラスの世話を焼く
リズベルを見ながら、カイムは手持無沙汰
なのか、室内を見回している。
\endtext
\text
そんなカイムにも、グラスは声をかけた。
\endtext
\text("グラス")
「カイムも、ありがとう。
 心配してきてくれたのか」
\endtext
\text("カイム")
「ああ、リズベルがちょうど見舞いに行くと
 言うのでな。ついてきた。
 何か不自由なことはないか?」
\endtext
\text("グラス")
「いや、こうして世話をしてもらっている。
 これ以上望むものはない」
\endtext
\text("カイム")
「そうか」
\endtext
\text("グラス")
「ギュンターから、話は全て聞いた」
\endtext
\text
グラスはホッとひとつ息をつく。
\endtext
\text("グラス")
「我が国……いや、今はもう貴殿の国だな。
 民達に随分と良くしてくれていると聞いた」
\endtext
\text("グラス")
「深く感謝している。
 力のない私には、
 きっとなしえなかったことであろう」
\endtext
\text
グラスはそう言うと、深々と頭を下げた。
\endtext
\text("カイム")
「なに、王が自国の民を大切にするのは
 当然のことだ」
\endtext
\text("グラス")
「当然……。そうだな、至極当然のことだ。
 だがその当然が、ひどく難しいこともある。
 力なくしては、できないことだ」
\endtext
\text("グラス")
「だから、貴殿には本当に感謝している。
 私を……そしてキロスを救ってくれて、
 ありがとう」
\endtext
\text("リズベル")
「あまりこの人の言葉を
 真に受けないでください」
\endtext
\text("グラス")
「ぬ?」
\endtext
\text("リズベル")
「カイム様は女のことしか考えてない
 お方ですからね。信じるとバカを見ますよ」
\endtext
\text("カイム")
「なにを言う。俺は常にニルトの行く末を
 案じているぞ」
\endtext
\text("リズベル")
「ニルトに住む女を、でしょう?
 さて、私は仕事が残っておりますので
 これにて失礼いたします」
\endtext
\text
リズベルは一礼すると、踵を返した。
\endtext
\text
そして流し目でカイムを見る。
\endtext
\text("リズベル")
「カイム様、これから軍議ですからね。
 絶対に逃げないでくださいよ」
\endtext
\text("カイム")
「分かっている。
 それではまた来るぞ、グラス」
\endtext
\text("グラス")
「――カイム」
\endtext
\text
リズベルとともに部屋を出ようとする
カイムの背中に、グラスが声をかけた。
\endtext
\text("カイム")
「ん? どうした?」
\endtext
\text
振り返ったカイムを見つめ、
グラスはしばらく口を閉ざしていた。
\endtext
\text
視線をさまよわせ、
言葉を探しているようにも見える。
\endtext
\text
やがて見つかったのか、
グラスはカイムを見上げながら、口を開いた。
\endtext
\text("グラス")
「約束通り私は……カイムのものだ。
 私にできることがあるならば、
 何でも言ってほしい」
\endtext
\text("カイム")
「ふっ……殊勝な心がけだな。
 だが今その気遣いは無用だ」
\endtext
\text("カイム")
「俺に抱かれる日を夢見て、
 早く元気になれ」
\endtext
\text
カイムはそう言って、部屋を出ていく。
\endtext
\text("リズベル")
「なんてひどい捨て台詞ですか。
 ああいうのは今後無視してくださって
 結構ですからね、グラスさん」
\endtext
\text("リズベル")
「でないと今度は
 胃に穴が開いちゃいますから」
\endtext
\text
リズベルはため息をひとつ吐くと、
カイムの後を追って部屋を出た。
\endtext
\text("グラス")
「抱かれる、日を……か。
 本当に、おかしな男だ」
\endtext
\text
ひとりになったグラスは、
ポツリとそうつぶやいた。
\endtext

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@ -0,0 +1,532 @@
\setgamedatatitle("グラス_04")
\text
小腹を空かせたカイムが
酒場へと足を踏み入れると、
グラスの姿を見つけた。
\endtext
\text
グラスの両隣りには、
エルとマーガレッタがいる。
\endtext
\text("カイム")
「変わった組み合わせだな」
\endtext
\text
カイムはそうつぶやき、
グラスがいるテーブルへと近づく。
\endtext
\text("マーガレッタ")
「おぉ、引きこもりが部屋から出てくるとは
 珍しい」
\endtext
\text("エル")
「もうコレクションの手入れは
 終わったんですか?」
\endtext
\text("カイム")
「いや、まだだ。少々腹が減ってな。
 何かを口にしようとやってきたんだが……
 グラス、もう出歩いていいのか?」
\endtext
\text("グラス")
「……今朝ティーリアが
 もう大丈夫だと言っていた」
\endtext
\text("グラス")
「だから朝からエルに迷宮内を
 案内してもらっている。
 いまは小休止中だ」
\endtext
\text
グラスは酒ではなく、
ミルクを飲みながらそう言った。
\endtext
\text("エル")
「そうなんですよ。
 で、途中でマーガレッタさんに会って、
 そのままご一緒しているというわけです」
\endtext
\text("カイム")
「暇なのか、マーガレッタ?」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「今宵の相手は無理じゃぞ?
 体調が芳しくないため休暇をもらっている
 最中なのじゃ」
\endtext
\text("エル")
「あれ、そうだったんですか?
 それならそうと言ってくだされば……」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「いや、別に熱があるとかいう
 訳ではないのじゃ。ほれ、あれじゃ……。
 わかるじゃろ?」
\endtext
\text("カイム")
「なんだ、生理か」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「……お主はいつも直球じゃな。
 まぁ、つまりはそういう訳じゃ」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「今回は重くてのぉ。
 じゃが、お主らと共に過ごせて
 だいぶ気が紛れた。感謝するぞ」
\endtext
\text("カイム")
「俺は生理中でも構わんぞ。
 むしろ興奮する」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「お主は少し黙っておれ」
\endtext
\text
マーガレッタは沈痛な表情を浮かべて
天井を見上げた。
\endtext
\text("グラス")
「エル……少し聞きたいことがあるのだが」
\endtext
\text("エル")
「はいはい、なんですか?」
\endtext
\text
エルもグラスと同様、
ミルクを飲みながら耳を寄せた。
\endtext
\text("グラス")
「生理とは、なんだ?」
\endtext
\text("エル")
「ぶはっ……」
\endtext
\text
エルの口から、ミルクが噴出した。
\endtext
\text("マーガレッタ")
「……あ~、えっと……じゃな……」
\endtext
\text
どう説明したものかと迷い、
視線を泳がせるエルとマーガレッタ。
\endtext
\text
好奇心旺盛なグラスは
今か今かと答えを待っている。
\endtext
\text("カイム")
「説明しよう。
 生理とはマ●コが子を孕みやすく……」
\endtext
\text("エル")
「あー、あーっ!!
 私が、私があとで教えますからっ!!」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「カイム、お主は口出し無用じゃ。
 グラスの教育によくない。
 というかはよう向こうに行け。しっしっ」
\endtext
\text("カイム")
「ほう? 先ほどから主人に対して
 ずいぶんな態度だなマーガレッタ?」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「うっ……」
\endtext
\text("カイム")
「なんなら、この場でオナニーさせた上で
 犯してやってもいいんだぞ?」
\endtext
\text("カイム")
「どちらが主人で、どちらが犬か、
 その身体にたっぷりと教え込んでやろう」
\endtext
\text("グラス")
「オナニー? オナニーとはなんだ?」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「き、聞くな、忘れるのじゃっ!!」
\endtext
\text
マーガレッタは顔を真っ赤にして
両手を左右に振った。
\endtext
\text("マーガレッタ")
「カ、カイム、すまん。
 頼むからグラスの前では……」
\endtext
\text("カイム")
「クックックッ、まぁよかろう。
 その代わり、今度の調教は……
 ハードになるぞ。覚えておけ」
\endtext
\text
カイムはマーガレッタの顎を
指でクイッと持ち上げた。
\endtext
\text
そして猛禽を思わせる目で、
マーガレッタの瞳を覗き込む。
\endtext
\text("マーガレッタ")
「わ、わかった……」
\endtext
\text
顔を赤くしたままのマーガレッタが、
先ほどまでとは打って変わって
大人しく頷く。
\endtext
\text("カイム")
「ところで三人で何の話をしていたのだ?
 共通の話題などあまりなさそうだが」
\endtext
\text
カイムはマーガレッタの隣に腰かけ、
テーブルに並んだ料理に
勝手に手を付け始めた。
\endtext
\text("マーガレッタ")
「あっ、カイム……今は……」
\endtext
\text
そしてちゃっかりとマーガレッタの尻に
手を回し、撫でまわすのも忘れていない。
\endtext
\text("エル")
「私たち、グラスさんがカイム様の夜伽を
 仰せつかったって聞いて、
 それについて聞いてたんですよ」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「さっそくグラスに手をかけるとは、
 ほんに……お主は鬼畜じゃのぉ」
\endtext
\text
尻を揉みしだかれながら、せめてもの
抵抗にとマーガレッタはそう言った。
\endtext
\text("カイム")
「やれやれ、教育に悪いと言いながら
 おまえ達も同じようなことをしているでは
 ないか」
\endtext
\text("エル")
「えへ。でもやっぱり気になりますからねぇ。
 同じ女として」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「そ、そうじゃ。
 これは単なる情報交換じゃからな。
 下心からのものでは決してない」
\endtext
\text("カイム")
「グラス、あまり男女の仲のことを
 口外するものではないぞ」
\endtext
\text("グラス")
「……そうなのか。今後は気を付ける」
\endtext
\text
グラスはコクッと頷くが、
そんな彼女の肩をエルがポンポンっと叩いた。
\endtext
\text("エル")
「ちょっとちょっと、
 グラスさんてば素直すぎますよ」
\endtext
\text("エル")
「カイム様の言葉、
 あんまり真に受けない方がいいですよ?」
\endtext
\text("グラス")
「ふむ。リズベルにも同じようなことを
 言われたことがある」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「であろう? こやつはおなごとセックス
 することしか頭にない奴じゃからな」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「ほれ、見てみい。飯を食う間も、
 私の尻から手を離さん」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「まこと、あきれる程の色欲の持ち主じゃ」
\endtext
\text("グラス")
「ん……リズベルも、そう言っていた。
 本当にそうなのか、カイム?」
\endtext
\text("カイム")
「ああ、その通りだ」
\endtext
\text
カイムは肉を食べる手を止め、
マーガレッタが飲んでいた酒で
口の中のものを胃に流し込む。
\endtext
\text("カイム")
「俺はいい女を抱ければそれでいい。
 このようになっ!!!」
\endtext
\text
カイムはそういうと立ち上がり、
マーガレッタ、エル、そしてグラスを
抱きかかえた。
\endtext
\text("マーガレッタ")
「きゃあっ!」
\endtext
\text("エル")
「ちょ、ちょっとカイム様っ!?
 ってマーガレッタさん
 今すごい可愛い声出しませんでした?」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「う、うるさいぞっ! 黙っておれっ!」
\endtext
\text("グラス")
「わっ……わっ……高い……」
\endtext
\text
小さな身体の三人は一抱えにされ、
声を上げて驚く。
\endtext
\text
しかしグラスだけは、
しばらくするとクスッと笑い始めた。
\endtext
\text("グラス")
「ふふっ……あははっ……これ、すごい」
\endtext
\text("カイム")
「……ん?」
\endtext
\text("エル")
「おぉ、グラスさんが笑ってる」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「今日初めて笑ったな……。
 もしや笑い方を知らんのではと思ったが」
\endtext
\text
グラスが迷宮に来てからというもの、
彼女が笑顔を浮かべた事は、
ただの一度もなかった。
\endtext
\text
そんな彼女が、いま鈴を転がしたような
可愛らしい声で笑っている。
\endtext
\text("エル")
「グラスさん、
 そんなにおかしかったですか、私たち?」
\endtext
\text
エルが不思議そうな顔をしてそう訊ねると、
グラスは視線を落とし、はにかむ。
\endtext
\text("グラス")
「あ……皆が、楽しそうなので……」
\endtext
\text("グラス")
「それに、こうして同じ年頃の子たちと
 しゃべることも、食事することも、
 いままで……できなかったから……」
\endtext
\text("グラス")
「だから、楽しい」
\endtext
\text("グラス")
「そうか、カイム……。
 私は今、楽しいのだな」
\endtext
\text("グラス")
「楽しいと自然に笑いが
 出てくるものなのだな。
 初めて知った、こんな感覚……」
\endtext
\text("カイム")
「……そうか」
\endtext
\text
しみじみとつぶやくグラスに、
カイムは神妙な顔で頷く。
\endtext
\text
エルもマーガレッタも、
かつてのグラスの環境を知っている。
\endtext
\text
知っているからこそ、グラスが先ほど発した
言葉がどれほどの意味を持っているかを、
瞬時に理解する。
\endtext
\text("エル")
「グラスさんっ!
 これからたくさんたくさん、
 楽しい思い出を作りましょうねっ!!」
\endtext
\text
エルがグラスの手を掴むと、
マーガレッタもそれに続いた。
\endtext
\text("マーガレッタ")
「うむ。人には皆幸せになる権利がある」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「これまで苦労ばかりしてきたお主には、
 誰よりも幸せになる権利がある」
\endtext
\text
ふたりの少女が、ひとりの少女を励ます。
\endtext
\text
その見目麗しい光景に
カイムは目を細めて頷く。
\endtext
\text("カイム")
「そうだな。ではこれから俺の部屋で
 4Pとしゃれこもうではないか」
\endtext
\text("エル")
「……ないです」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「この流れでそれはないな」
\endtext
\text
乙女が友情をはぐくむ中、
割り込んだカイムに向けられた視線は
冷ややかだった。
\endtext
\text("グラス")
「4P? 4Pとはなんだ?」
\endtext
\text("カイム")
「説明しよう。4Pとは……」
\endtext
\text("エル")
「しなくていいっ!!」
\endtext
\text("マーガレッタ")
「しなくてよいっ!!」
\endtext
\text
時間的ににぎわい始めた酒場にて。
\endtext
\text
エルとマーガレッタの怒声が、響き渡った。
\endtext

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View file

@ -0,0 +1,437 @@
\setgamedatatitle("グラス_08")
\text
夜、客も少なくなった酒場で、
カイムはひとり幻像石を磨いていた。
\endtext
\text
僅かな光に透かして見る石は神秘的なまでに
美しく、それを見つめるカイムの心は、
凪の様に穏やかになる。
\endtext
\text
そこに、ひとりの男が近づいてくる。
\endtext
\text("ギュンター")
「ご一緒しても、よろしいかな?」
\endtext
\text("カイム")
「あいにく、男と酒を飲む趣味はない」
\endtext
\text("ギュンター")
「ほう? これを見ても?」
\endtext
\text
ギュンターはそういうと、
手にした酒瓶をカイムに差し出した。
\endtext
\text("カイム")
「ん? ギュンター、これはまさか……」
\endtext
\text
カイムの目が、見開かれた。
\endtext
\text
幻像石を箱に収め、酒瓶を手にする。
\endtext
\text("カイム")
「これはアドナイで少量のみ生産されて
 いるという幻の酒……」
\endtext
\text("カイム")
「俺もその噂を聞いて、
 あの街では散々歩き回ったのだが……
 結局手には入らなかった」
\endtext
\text("ギュンター")
「その酒は私の知り合いの老人が
 作っているのだが、一人で作っている為に、
 どうしても出回る量が少ない」
\endtext
\text("カイム")
「それゆえの、幻……か」
\endtext
\text("ギュンター")
「偏屈な老人でね、
 たまに気が向いたらこうして譲ってくれる」
\endtext
\text
ギュンターは酒瓶を受け取ると、
杯に注いでカイムへと差し出した。
\endtext
\text("カイム")
「ふむ。遠慮なくいただこう」
\endtext
\text
カイムはそういうと、
目を閉じ、酒を口に含む。
\endtext
\text
そしてたっぷりと時間をかけて舌で吟味し、
嚥下する。
\endtext
\text("カイム")
「……うまい」
\endtext
\text
ギュンターも同じく杯を空にし、
大きく息をついていた。
\endtext
\text("ギュンター")
「あぁ、うまい。
 私はあの爺さんの酒が大好きでね」
\endtext
\text
ギュンターはもう一度、
カイムの杯に酒を注ぐ。
\endtext
\text
カイムは今度はゆっくりと、
ひと口ずつ酒を味わう。
\endtext
\text("カイム")
「次に手に入った時は、また声をかけてくれ。
 男と飲む趣味はないが、
 この酒ならいくらでも付き合うぞ」
\endtext
\text("ギュンター")
「ははっ、そういうところが
 貴方の美点なのだろうな」
\endtext
\text("カイム")
「美点? 何の話だ?」
\endtext
\text("ギュンター")
「だってそうだろう。気に入った酒があって、
 それを作れる老人がいる」
\endtext
\text("ギュンター")
「ならばその爺さんを捕えて
 自分のためだけに酒を造らせれば
 いつでも飲める……が、貴方はそうしない」
\endtext
\text("ギュンター")
「その力を、持っていながら」
\endtext
\text
ギュンターは杯に口をつけながら、
カイムを見た。
\endtext
\text("ギュンター")
「欲しいならば、なぜそうしない?」
\endtext
\text
その瞳は、長年かけて研ぎ澄まされた
深く、重く、鋭い槍のような光を帯びている。
\endtext
\text
カイムはその視線をしばらく浴びた後、
杯を空けた。
\endtext
\text("カイム")
「この酒の味は、無理やり作らせたところで
 再現はできまい?」
\endtext
\text("カイム")
「それに、幻は、幻でいいのだ。
 手に入れにくいということも酒の付加価値」
\endtext
\text("カイム")
「それを台無しにしかねない真似なんぞは、
 無粋の極みというものだ」
\endtext
\text("ギュンター")
「ははっ、本当に不思議な人だな、貴方は」
\endtext
\text
ギュンターの視線が和らぐ。
\endtext
\text("カイム")
「この俺を試したか」
\endtext
\text("ギュンター")
「恐れながら」
\endtext
\text("カイム")
「その目に適わん答えをしていたなら、
 どうした」
\endtext
\text("ギュンター")
「切っていた」
\endtext
\text("カイム")
「なるほどな。
 まぁ、おまえにやすやすと切られる様な
 俺ではないが……」
\endtext
\text
カイムは杯を置き、
ギュンターをまっすぐに見る。
\endtext
\text("カイム")
「そろそろ本題に入れ。
 酒を飲んで眠くなってきた」
\endtext
\text
ギュンターも酒を空にすると、
姿勢をただしカイムに頭を下げた。
\endtext
\text("ギュンター")
「礼を、言いに来たのだ。ありがとう」
\endtext
\text("カイム")
「……礼? 何のことだ?
 俺はおまえに何もしておらんぞ」
\endtext
\text("ギュンター")
「私の事ではない、グラス様のことだ」
\endtext
\text
ギュンターは顔を上げ、続けた。
\endtext
\text("ギュンター")
「この国の象徴でありながら、
 同時にウィンガに捧げられる巫女として
 グラス様は生きてきた」
\endtext
\text("ギュンター")
「いや、
 生かされてきたと言った方が正しいな」
\endtext
\text
ギュンターは自嘲的にそう言い直した。
\endtext
\text("ギュンター")
「自由はおろか、
 自分というものがそもそもなかった」
\endtext
\text("ギュンター")
「そんなグラス様が――
 先日、私に笑顔をお見せになった」
\endtext
\text("ギュンター")
「グラス様のその笑顔を見て、
 私は……どこか救われた気持ちになった」
\endtext
\text("ギュンター")
「グラス様に剣を捧げながら、
 私は私の立場に縛られ、何もできなかった」
\endtext
\text("ギュンター")
「グラス様が置かれている状況、
 立場から……救うことができなかった」
\endtext
\text
ギュンターは一気にそこまで口にすると、
固く握りしめていた拳を解いた。
\endtext
\text("ギュンター")
「だが、そんなグラス様の状況を、
 貴方が変えてくれた」
\endtext
\text("ギュンター")
「貴方が、グラス様を救ってくれた。
 だから……一言礼を言いたかった」
\endtext
\text("カイム")
「なるほどな。俺の半分も生きていない
 若造だけに、考え方が青臭いな」
\endtext
\text("カイム")
「俺はグラスを自分の女にしたかっただけだ。
 抱く為に邪魔なものを取り払った、
 それだけのこと」
\endtext
\text("カイム")
「お前も知っているだろう?
 俺がグラスに何をしているか」
\endtext
\text("カイム")
「決して礼を言われるような類のことは
 しておらん」
\endtext
\text("ギュンター")
「くくくっ、はははははははっ!!」
\endtext
\text
ギュンターは突然、笑いだす。
\endtext
\text
静かな酒場には不似合いな、
大きな笑い声だった。
\endtext
\text("カイム")
「耳が痛い。
 笑うならもう少し小さく笑え」
\endtext
\text("ギュンター")
「いやはや、失礼。
 あまりに嬉しかったもので、
 つい笑いが出てしまった」
\endtext
\text("カイム")
「嬉しい? お前は自分の娘を
 魔王に奪われて悔しくはないのか」
\endtext
\text("ギュンター")
「……娘……か。
 そうだな、ではこう返そう」
\endtext
\text("ギュンター")
「自分が認める男に娘が嫁ぐ。
 親として、これほど嬉しい事があろうか?」
\endtext
\text("カイム")
「……ふん、気持ち悪いな」
\endtext
\text("ギュンター")
「なんとでもいうがいい。
 自分がどう思おうと、
 貴方はそれだけのことをしたのだ」
\endtext
\text("カイム")
「話はそれで終わりか。では俺は帰るぞ。
 感謝したければ、その分剣を振れ。
 それがグラスのためにもなる」
\endtext
\text("ギュンター")
「ああ、そうさせてもらう」
\endtext
\text
カイムは幻像石の入った小箱を
ギュンターに押し付け、立ち上がる。
\endtext
\text("カイム")
「酒の礼だ。それはおまえにやろう。
 剣を振るしか能のないおまえでも、
 それを扱う魔力くらいはあるだろう?」
\endtext
\text
カイムはそう言って、立ち去った。
\endtext
\text("ギュンター")
「はて……これは、幻像石?」
\endtext
\text
小箱を開けたギュンターは、
中に入っていた幻像石を手に取った。
\endtext
\text
そして力を込め、幻像石を光らせる。
\endtext
\text
するとグラスの顔が、浮かび上がった。
\endtext
\text("ギュンター")
「お、おぉ……グラス、様……」
\endtext
\text
冷たい玉座に就いていた頃のグラスではない。
\endtext
\text
年相応の笑顔を浮かべた、
今のグラスの姿が収められていた。
\endtext
\text
ギュンターは幻像石を握りしめ、
テーブルに足を乗せると
酒瓶に直接口をつけ、ゴクゴクと飲んだ。
\endtext
\text
その目には、涙が光っている。
\endtext
\text
使命と立場、
そして誓いに苦しんできた男が、
歓喜の涙を流す光景が、そこにあった。
\endtext

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View file

@ -0,0 +1,50 @@
\setgamedatatitle("グラス_99")
\text("グラス")
「入るぞ」
\endtext
\text
カイムが眠りにつこうとしているところに、
グラスがやってきた。
\endtext
\text("カイム")
「おお、グラスではないか。
 こんな時間に何の用だ?」
\endtext
\text("グラス")
「……今日はお前と寝たいのだが、
 ダメだろうか?」
\endtext
\text
もじもじしながら、
グラスはカイムに尋ねる。
\endtext
\text("カイム")
「ああ、もちろん構わないぞ。
 だが、すぐには寝られるとは思うなよ?」
\endtext
\text("グラス")
「ん、構わない。
 カイムなら、きっとそう言うだろうと
 思っていた」
\endtext
\text
頬を染めて微笑むグラス。
どうやら彼女の方も、それを期待していた
ようだ。
\endtext
\text
こうして、二人の夜は更けていくのだった。
\endtext
\dlg("   グラスの攻撃力が1%上昇しました。  (最大20%)")
\dlg("グラスの攻撃力はこれ以上上昇できません。")

View file

@ -0,0 +1,473 @@
\setgamedatatitle("グリエッタ_01")
\text("男性A")
「魔術師様だっ!!
 魔術師様がお帰りになったぞっ!!」
\endtext
\text
ニルト地方のブラムから少し南に離れた、
辺境の町。
\endtext
\text
いつもは閑散とし、活気のない街ではあるが、
今日のこの日は、違っていた。
\endtext
\text
家々から人が飛び出し、門をくぐって
町へと入るひとりの女性を取り囲む。
\endtext
\text("男性B")
「おぉっ、本当に魔術師様だっ!!」
\endtext
\text("女性A")
「おかえりなさいませ、魔術師様っ!!」
\endtext
\text("女性B")
「町長っ、早くっ、魔術師様がお帰りにっ!」
\endtext
\text("町長")
「はぁ、はぁっ……おおっ、グリエッタ様。
 よくぞ戻ってきて下さいました」
\endtext
\text
町を治めている初老の男性が、
女性に向かって深々と頭を垂れた。
\endtext
\text
すると住人に囲まれた女性……
グリエッタと呼ばれた少女はサラサラの
長い髪をひとすくいし、典雅に微笑む。
\endtext
\text("グリエッタ")
「出迎え、ご苦労ですわ」
\endtext
\text
風のように涼しい声音。
\endtext
\text
女性ですら思わず聞きほれてしまうほどの、
そんな美声。
\endtext
\text
美しいのは声だけにとどまらず、
その見目もこの世ならざるほどに華麗だった。
\endtext
\text
ふくよかな胸、すらりと伸びた長い足。
\endtext
\text
くびれた腰に人目を引く大きな尻。
\endtext
\text
瞳はマラカイトのように色鮮やかで、
その存在自体がひとつの芸術作品のような、
そんな雰囲気を醸し出している。
\endtext
\text
年の頃は20……
それを若干下回るくらいだろうか。
\endtext
\text
しかしそうは思えない貫録と風格が、
少女には備わっていた。
\endtext
\text("町長")
「そ、それで……首尾の方は……。
 奴ら……盗賊団は……」
\endtext
\text
住人達の期待に満ちたまなざしが、
魔術師の少女に集まる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「もちろん、ひとり残らず消し炭に
 しておいて差し上げましたわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「野盗に堕ちた人間なんて、
 生かしておく道理はございませんものね」
\endtext
\text("町長")
「お、おおっ……
 ありがとうございますっ!!」
\endtext
\text("グリエッタ")
「これであなた方を苦しめる者は
 いなくなりましたわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「これから後は、国のため、街のため、
 家族のため、存分に働きなさい」
\endtext
\text("町長")
「は、はいっ!
 本当にありがとうございますっ!!」
\endtext
\text("男性A")
「ありがとうございましたっ!」
\endtext
\text("女性A")
「ありがとうございます、魔術師様っ!」
\endtext
\text("グリエッタ")
「フフッ、それでは私はこれで。
 ごきげんよう」
\endtext
\text
そう言って、手をヒラヒラと振って
その場を立ち去ろうとするグリエッタ。
\endtext
\text("町長")
「お、お待ちをグリエッタ様っ!
 まだお礼をお渡ししておりませんっ!」
\endtext
\text
町長は硬貨がずっしりと入った袋を
グリエッタに手渡そうとする。
\endtext
\text
しかしグリエッタはそれを受け取らない。
\endtext
\text("グリエッタ")
「あら、そんなお約束しましたっけ?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「私は野盗を退治してほしい、
 としか聞いていませんわ」
\endtext
\text("町長")
「い、いえ……ですが、退治して頂いたのに、
 お礼もなしというのは……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「この私に、あなた方から
 お金を受け取れと?
 それはできない相談ですわね」
\endtext
\text("町長")
「は……はぁ? で、ですが……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「勘違いなさらないで頂きたいのですけれど、
 この私をそこらの傭兵と一緒に
 してもらっては困りますわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「私は由緒正しいオーリック家の女。
 グリエッタ=オーリック」
\endtext
\text("グリエッタ")
「貴族たる者、弱いものに手を差し伸べる
 のは当然のことですわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「そしてそこに対価を求めるなど、
 決してありえません。
 さぁ、その袋をおしまいなさい」
\endtext
\text
決して張り上げているのではない。
\endtext
\text
けれどグリエッタの声は、
魔法がかかっているかのように
その場に響く。
\endtext
\text("町長")
「は、ははぁっ、
 も、申し訳ございませんでしたっ!!」
\endtext
\text
町長はあわてて硬貨の入った袋を懐に戻し、
頭を下げる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「ふむ、それでよろしくってよ。
 そのお金はあなた方が汗を流して貯めた
 お金なのでしょう?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「ならば、あなた方自身のために
 お使いなさい」
\endtext
\text("グリエッタ")
「野党退治など、本来あなた方の守護者で
 ある貴族が率先して行うべきこと」
\endtext
\text("グリエッタ")
「まったく、
 ここの領主は何をやっているのかしら」
\endtext
\text
グリエッタは同じ貴族として、
民を守ろうとしない領主に憤りを覚えていた。
\endtext
\text("町長")
「い、いえおそれながら……。
 領主様は私たちをとても
 大切にしてくださっています」
\endtext
\text("町長")
「ですが、いまは状況が状況なだけに……。
 領内すべてに手が回らないといった
 ご様子でして……」
\endtext
\text("男性A")
「そ、そうなんです。
 盗賊団がこの町の近くに現れるように
 なったのも……最近のことで……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「その状況……
 というのはいったい何のことかしら?
 よかったら詳しく聞かせてくださる?」
\endtext
\text("町長")
「は、はい……グリエッタ様は
 今現在ニルト地方で起きている
 騒乱のことをご存知でしょうか?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「えぇ、もちろん。ディアボリカが
 魔王軍を立ち上げて戦争を起こしたとか」
\endtext
\text("町長")
「はい。自分を魔王と称する
 カイムという男がニルト地方で
 暴れまわっているらしく……」
\endtext
\text("町長")
「それでニルト地方に近いここは、
 その火の粉が降ってこないように、
 守備隊を国境沿いに回している状況でして」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……なるほど、
 その分内側が手薄になっているってわけね」
\endtext
\text("町長")
「はい……」
\endtext
\text("男性B")
「あれ、俺は魔王って女だって聞いたけどな。
 確か、リズ……なんとかっていう」
\endtext
\text("女性A")
「私も魔王は女だって聞いたわ。
 名前は確かリズベルじゃなかった?
 あれ? リザベルだったかしら」
\endtext
\text
女性が口にした名前に、
グリエッタが小首をかしげる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「リズベル? もしかしてその女も
 ディアボリカなのかしら?」
\endtext
\text("女性A")
「え……あ、はい。私はそう聞いてます。
 でも噂なので、どこまで本当かは……」
\endtext
\text("男性A")
「魔王なのに女って、無理がねぇか?」
\endtext
\text("男性B")
「でも宿に泊まった商人が言ってたんだぜ?
 俺もそう思ったから聞き返したけど、
 確かに女だって」
\endtext
\text("グリエッタ")
「女……ディアボリカ……リズベル……。
 まさか、いえ、そんなはずは……でも……」
\endtext
\text
グリエッタは眉をひそめ、思案顔を浮かべた。
\endtext
\text("町長")
「あの、いかがなさいました?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「いえ、なんでもないわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
(リズベル……。
 魔法学院時代に主席の座を争った、
 私の……ライバル)
\endtext
\text
グリエッタ自身、ディアボリカという種族に
対して、あまりいい感情は持っていない。
\endtext
\text
しかしリズベルだけは例外だった。
\endtext
\text
冷静で理論的に物事を考えられるリズベルを、
グリエッタは良きライバルと認めていた。
\endtext
\text("グリエッタ")
(なのに……魔王軍なんていう
 世を乱す組織に彼女が?)
\endtext
\text("グリエッタ")
(いいえ、分からないわ。
 ただ名前が同じだけかもしれないし……)
\endtext
\text
グリエッタは顔を上げ、町長に訊ねる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「ニルトに行きたいのだけれど、
 馬車は出ているかしら?」
\endtext
\text("町長")
「に、ニルトにですかっ!?
 いえ流石に今むこうは戦争中ですから、
 乗合馬車はすべて……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「何とかならないかしら?
 少し調べたいことがあるの」
\endtext
\text("町長")
「ん~。それでしたら、
 北にボレロという国境沿いの町が
 あるんですが……」
\endtext
\text("町長")
「そこからニルトにいく商隊が組織する
 護衛馬車が定期的に出ていると聞きます」
\endtext
\text("町長")
「そこの町長とは個人的に面識があります
 ので、彼に頼めば乗せてもらえるかも
 しれません」
\endtext
\text("グリエッタ")
「それは助かるわ、お願いできるかしら?」
\endtext
\text("町長")
「は、はいっ!
 それでは手紙を書いてまいりますので、
 少々お待ちをっ!」
\endtext
\text("女性A")
「あの、私の家は宿屋なのですが、
 宜しければいらっしゃいませんか」
\endtext
\text("女性A")
「貴族の方のお口に合うかどうか
 わかりませんが、
 お料理も出させていただきます」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あら、ちょうどお腹が減っていたの。
 少し休みたくもあるし、ぜひお願いするわ」
\endtext
\text("女性A")
「は、はいっ♪
 それではこちらにどうぞっ!」
\endtext
\text("グリエッタ")
(本当にあのリズベルさんが
 魔王軍にいるのか、
 ぜひともこの目で確かめないと……)
\endtext
\text
グリエッタは女性に案内され、
宿屋へと向かいながら、北の空を見上げた。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,315 @@
\setgamedatatitle("グリエッタ_02")
\text
机の上に並べられた書類の数々。
\endtext
\text
それらは、ニルト地方各地に散らばっている
調査員から送られてくる、報告書だった。
\endtext
\text("リズベル")
「……」
\endtext
\text
リズベルはこうして各地の様子を
できるだけ掌握するよう努めていた。
\endtext
\text("リズベル")
「ん?」
\endtext
\text
報告書のほとんどは各地の平穏を伝える
内容であった。
\endtext
\text
しかしその中に1枚だけ、リズベルの柳眉を
しかめさせる報告書があった。
\endtext
\text("リズベル")
「……グリエッタ……まさか?」
\endtext
\text("カイム")
「入るぞ、リズベル」
\endtext
\text
扉がガチャリと開き、
返事を待つことなくカイムが入ってくる。
\endtext
\text
いつもであればカイムの無作法をとがめる
リズベルであったが、今の彼女は報告書に
目を落としたまま、微動だにしない。
\endtext
\text("カイム")
「なにを小難しい顔をしているのだ?
 生理か?」
\endtext
\text("リズベル")
「……私、カイム様のそういう無神経な
 ところは嫌いです」
\endtext
\text("カイム")
「はっはっはっ、そう怒るな。
 笑わせてやろうと思っただけではないか」
\endtext
\text("リズベル")
「そのジョークのセンスのなさも嫌いです」
\endtext
\text
リズベルは、深々と溜め息をつく。
\endtext
\text("カイム")
「それで? どうしたのだ?
 おまえが溜め息をつくなど珍しい」
\endtext
\text("リズベル")
「別に、なんでもないです」
\endtext
\text
リズベルはそう言うと、
その報告書を脇に置いて仕事に戻ろうとする。
\endtext
\text
しかしそれを、カイムが邪魔をした。
\endtext
\text("カイム")
「何でもなくはないだろう。
 おまえがそういう顔をするときは
 たいてい一大事が起きた時だ」
\endtext
\text("リズベル")
「そうですか。よくお分かりで」
\endtext
\text("カイム")
「他ならぬおまえのことだからな。
 俺はいつも、おまえを見ているぞ」
\endtext
\text("リズベル")
「……そういうセリフ、
 カイム様には似合いませんよ」
\endtext
\text("リズベル")
「あと、キモいです」
\endtext
\text("カイム")
「似合わなかろうがキモかろうが構わん。
 さぁ言え。そこに何が書いてある?」
\endtext
\text
開き直ったカイムにそう命令され、
リズベルは若干頬を赤らめながら
報告書を手渡した。
\endtext
\text("カイム")
「ふむ? なんだこのリストは?」
\endtext
\text("リズベル")
「迷宮に侵入する可能性のある者達を
 定期的に部下たちに報告させているんです」
\endtext
\text("リズベル")
「そこに、
 グリエッタという名前がありますよね」
\endtext
\text("カイム")
「うむ、グリエッタ=オーリック。
 女性、ラムシとかいう国の貴族だそうだな。
 ほう、まだ若いのに魔術師か」
\endtext
\text("カイム")
「……それで? これがどうした?」
\endtext
\text("リズベル")
「彼女は私が魔法学院で勉強をしていた時の、
 同期生です」
\endtext
\text("カイム")
「ほう、友達か?」
\endtext
\text("リズベル")
「というより、ライバル……でしょうか。
 私もそれなりの成績を修めていたので、
 目をつけられたのだと思います」
\endtext
\text("カイム")
「ふむ……。それで、そのライバルが
 迷宮にやってくるかもしれない、と」
\endtext
\text("リズベル")
「国境沿いの町ボレロで、ハドス行きの
 護衛馬車を手配していると書かれています」
\endtext
\text("リズベル")
「この時期に彼女がハドスに入る理由は、
 それ以外考えられません」
\endtext
\text("リズベル")
「正義感の強い彼女のことですから、
 まず間違いなくやってくるでしょうね」
\endtext
\text("カイム")
「クックックッ。確かに俺たち魔王軍は
 現支配者である貴族にとっては悪だな」
\endtext
\text("カイム")
「己の利益を守るため、俺たちを悪と断じて
 正義を振るうか。実に滑稽だ」
\endtext
\text
カイムは嘲笑を浮かべる。
\endtext
\text
しかしリズベルは、首を横に振った。
\endtext
\text("リズベル")
「いえ、彼女は正しく『貴族』です。
 貴族の権利と義務とを履行する意志と力を
 持つ人です」
\endtext
\text("リズベル")
「そして彼女はバカではありません」
\endtext
\text("カイム")
「……おまえが他人を擁護するとは、
 珍しいな」
\endtext
\text("カイム")
「ではその正しい貴族が、何のために
 他国の戦に首を突っ込んでくるのだ?」
\endtext
\text("リズベル")
「確かめに来るのだと思います」
\endtext
\text("カイム")
「確かめる? いったい何をだ?」
\endtext
\text
カイムの問いに、
リズベルは視線を落とし、つぶやく。
\endtext
\text("リズベル")
「私の、真意を」
\endtext
\text("カイム")
「……」
\endtext
\text
理想のためとはいえ、かつての学友と
戦わなければならないリズベルを、
カイムはしばらくの間見つめていた。
\endtext
\text("カイム")
「強いのか?」
\endtext
\text("リズベル")
「はい。私などより、はるかに」
\endtext
\text("カイム")
「そうか。ならば生け捕りだな」
\endtext
\text("リズベル")
「生け捕り? 何のために……」
\endtext
\text("カイム")
「もちろん決まっている。
 そいつを味方に引き入れるためだ」
\endtext
\text("カイム")
「我が軍には魔術師は少ない。
 味方に引き入れることができれば、
 大きな戦力となるだろう」
\endtext
\text("リズベル")
「それは不可能だと思います。
 彼女はプライドが高いですから、
 私たちの仲間になんて……」
\endtext
\text
カイムの提案に対し、
リズベルは悲観的だった。
\endtext
\text
そして……
\endtext
\text("リズベル")
「それにカイム様。
 もっともらしい事をおっしゃってますけど、
 本音は彼女を抱きたいからでしょう?」
\endtext
\text
……と、冷ややかな視線を向けた。
\endtext
\text("カイム")
「はっはっはっ、
 いい女ならもちろん抱くに決まっている」
\endtext
\text
カイムはリズベルの批難のまなざしにも
全く動じることなく、
平然とそう答えるのだった。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,276 @@
\setgamedatatitle("グリエッタ_03")
\text
国境沿いの町ボレロに着いたグリエッタは、
ニルト地方の情報を求めて酒場へ足を運んだ。
\endtext
\text
そしてその酒場の店主から、
魔王軍を指揮しているのはリズベルという
ディアボリカの少女であるとの情報を得る。
\endtext
\text("グリエッタ")
「なるほど、では軍を動かしているのは、
 実質的にはその少女ということですわね」
\endtext
\text("店主")
「あぁ、ちょいと信じられねぇが、
 ここにはハドスで商売してる商人や
 護衛の傭兵たちがたくさん出入りしてる」
\endtext
\text("店主")
「そいつらが言ってんだから、
 確かなんだろうぜ」
\endtext
\text
グリエッタはカウンターの席に座り、
先ほどから水を飲んでいる。
\endtext
\text
しかし周りは店主の言うとおり
仕事を終えた商人や傭兵ばかり。
\endtext
\text
グリエッタの存在は、
明らかに浮いてしまっている。
\endtext
\text
しかも少女は超がつくほどの美人であり、
何十もの視線が彼女をとらえて離さない。
\endtext
\text
そんな中にあって、グリエッタは涼しい顔で
水をひとくち口に含んだ。
\endtext
\text("グリエッタ")
(やはり話を聞く限りでは、リズベルさんで
 ある可能性が高いですわね)
\endtext
\text("グリエッタ")
(あの人は、学生時代もどこか、
 私達とは違う所がありましたわ)
\endtext
\text("グリエッタ")
(私達魔術師を志す者の多くは、
 魔術への探究心、功名心を
 大なり小なりもっているもの)
\endtext
\text("グリエッタ")
(なのにあの人は、あの人の目は、
 もっと遠く……いえ、もっと違う何かを、
 映していたような気がする)
\endtext
\text
グリエッタの頭の中に、
当時の記憶が呼び起される。
\endtext
\text
魔術の実践と研鑽に明け暮れる
グリエッタ達を尻目に、リズベルはひとり、
よく本を読んでいた。
\endtext
\text
しかもそれは魔術に関するものでなく、
治世といった政治に関するものであることが
多かった。
\endtext
\text
そしてそれでいて、
魔法の理論を学ぶ座学では
誰よりも良い成績を修めていた。
\endtext
\text
グリエッタはそれを、
仲間の輪の中から見ていた。
\endtext
\text
その瞳には彼女に対する尊敬、
そして嫉妬のようなものも、混じっていた。
\endtext
\text("グリエッタ")
(この私に嫉妬を覚えさせた人なんて、
 後にも先にもあなただけですわ、
 リズベルさん……)
\endtext
\text("グリエッタ")
(そんな優秀なあなたが、
 なぜ魔王軍などに……?)
\endtext
\text("グリエッタ")
(戦争を引き起こし、混乱を呼ぶことが
 あなたの望みだったというの?)
\endtext
\text
グリエッタはグラスに注がれた水に映る
自分の顔を見ながら、
ここにいないかつての学友に問いかける。
\endtext
\text
しかし答えは、帰ってこない。
\endtext
\text
故にグリエッタは、
その答えを聞きにニルトに向かうのだ。
\endtext
\text("店主")
「ところで、
 あんた見たところ魔術師か何かみてぇだが、
 そんなこと聞いてどうする気だい?」
\endtext
\text("店主")
「もし戦に参加して魔王軍と
 戦おうってんなら、絶対によした方がいい」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あら、それはなぜかしら?」
\endtext
\text
グリエッタは顔を上げ、訊ねる。
\endtext
\text("店主")
「噂にはもう一つあってな。魔王軍を
 指揮してるのは確かにリズベルって女だが、
 リーダーはカイムって男だ」
\endtext
\text("店主")
「そいつは無類の女好きだそうだ。
 敵だろうが味方だろうが、いい女となれば
 見境なく襲い掛かってくるらしい」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あら、それは怖いわね」
\endtext
\text("店主")
「だったら少しは怖そうにしろよ。
 まぁ、それだけ自分の腕に
 自信があるんだろうが……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「私は自分の実力を、
 決して過信していませんわよ」
\endtext
\text("グリエッタ")
(負ければ、そのカイムとかいう魔王に
 犯されるか、あるいはそれ以前に
 魔物たちの慰み者にされる……)
\endtext
\text("グリエッタ")
「ただそれでも、行かなくてはなりませんの」
\endtext
\text
グリエッタはグラスを一気にあおり、
空にする。
\endtext
\text("騎士")
「お話し中失礼いたします。
 グリエッタ=オーリック様で
 いらっしゃいますでしょうか」
\endtext
\text
酒場には不似合いな豪奢な鎧を身に着けた
騎士が三人、グリエッタに声をかけてくる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「えぇ、そうよ。支度ができたのかしら?」
\endtext
\text("騎士")
「は。ハドスへの護衛馬車、
 まもなく出発いたします」
\endtext
\text("騎士")
「主の命により、我ら3名、
 道中の護衛に当たらせていただきます」
\endtext
\text("グリエッタ")
「ご厚意感謝するわ。
 オーリック家は受けた恩には必ず報いる。
 あなたの主に、後でお伝え頂けるかしら?」
\endtext
\text("騎士")
「は、かしこまりました」
\endtext
\text("グリエッタ")
「お水と情報ありがとう。
 御代はこれでいい?」
\endtext
\text
グリエッタはカウンターに銀貨を数枚置いた。
\endtext
\text("店主")
「グリエッタ=オーリック……。
 ラムシの、名門貴族の御令嬢……?」
\endtext
\text("店主")
「そ、そんな高貴な身分の方が、
 どうしてハドスなんかに……」
\endtext
\text
青ざめた店主の震える声に、
グリエッタは世間話でもするかのように、
軽く答える。
\endtext
\text("グリエッタ")
「かつてのクラスメイトに、
 会いに行きますの」
\endtext
\text
グリエッタは柔和にそう微笑み、
出口へと歩いていく。
\endtext
\text
騎士を従えて歩くその姿は、
まさに貴族の名にふさわしい気高さを
備えていた。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,188 @@
\setgamedatatitle("グリエッタ_04")
\text("グリエッタ")
「ここがそう、ですわね……」
\endtext
\text
迷宮の入口に立ち、グリエッタがつぶやいた。
\endtext
\text
幾多の冒険者、傭兵、騎士を呑み込んできた、
魔窟。
\endtext
\text
その中に、
グリエッタが足を踏み入れようとしている。
\endtext
\text("グリエッタ")
(……この先に、リズベルさんが……)
\endtext
\text
グリエッタの脳裏に、かつてのクラスメイト
であり、良きライバルでもあったリズベルの
顔が思い浮かぶ。
\endtext
\text("グリエッタ")
「リズベルさん……。
 私には、あなたの考えがわかりませんわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「ですが、だからといって道を踏み外した
 あなたを放っておくわけにもいきませんの」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あなたが道を違えたならば、
 それを正して差し上げる……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「それが、同じ学び舎で育った私の、
 務めでしょうから」
\endtext
\text
グリエッタは強い決意を胸に秘め、
迷宮へと歩を進めるのだった。
\endtext
\text("カイム")
「クックックッ、ついに来たかグリエッタ」
\endtext
\text
カイムが部下からの報告を受け、
低く笑った。
\endtext
\text("カイム")
「飛んで火にいるなんとやら。
 返り討ちにしてくれようぞ」
\endtext
\text("リズベル")
「カイム様、食べながらしゃべらないで
 ください、お行儀が悪いです」
\endtext
\text("カイム")
「あ、うむ。すまん」
\endtext
\text
カイムは分厚いハムを挟んだパンを
むしゃむしゃとかじる。
\endtext
\text
隣でモグモグと口を膨らませているカイムを
見ながら、リズベルは表情を曇らせる。
\endtext
\text("リズベル")
「考えてみましたが、
 グリエッタさんは魔術の探求と習熟に
 すべてをささげるような、そんな方です」
\endtext
\text("リズベル")
「そして同時に彼女は貴族であり、
 とても正義感の強い方」
\endtext
\text("リズベル")
「きっと彼女は……
 私に対して怒りを覚えているのでしょう」
\endtext
\text("カイム")
「……怒り?」
\endtext
\text("リズベル")
「はい。
 私のことが、許せないのだと思います」
\endtext
\text("リズベル")
「私がしていることは、
 侵略以外の何物でもありませんから」
\endtext
\text("カイム")
「……なるほどな」
\endtext
\text
カイムは口の中のものを飲み物で胃に落とし、
フウッと息をつく。
\endtext
\text("リズベル")
「ですからここは、私が出ます。
 彼女に私の考え、目的を話して、
 引いてもらえるように……」
\endtext
\text("カイム")
「果たしてそれで、そいつは納得するのか?」
\endtext
\text
カイムの問いに、リズベルは沈黙した。
\endtext
\text
そしてしばらくして、首を横に振る。
\endtext
\text("リズベル")
「……分かりません、ですがこのままでは
 軍にも被害が……」
\endtext
\text("カイム")
「何かを得ようとするならば、
 そこに犠牲はつきものだ」
\endtext
\text
リズベルの言葉を遮り、カイムは続ける。
\endtext
\text("カイム")
「話を聞く限り、その女は筋が通ったこと
 ならば受け止める度量があるのだろう」
\endtext
\text("カイム")
「そいつに話を聞かせたいならば、
 まずは正々堂々と挑戦を受けて立ち、
 実力で打ち破った後にするべきだ」
\endtext
\text
カイムは立ち上がる。
\endtext
\text("カイム")
「というわけで、行くぞリズベル。
 久しぶりの友人との再会だ。
 派手に歓迎してやろうではないか」
\endtext
\text("リズベル")
「は、はい……」
\endtext
\text
リズベルは渋々ではあるが、
カイムの言葉に納得し、ついていくのだった。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,746 @@
\setgamedatatitle("グリエッタ_05")
\text
敗者がたどる末路は、死か服従か、
大体において、そのふたつである。
\endtext
\text
戦いに負けたグリエッタも例外ではなく、
縄で縛られ、身動きを封じられたうえで
カイムのもとへと連行された。
\endtext
\text("グリエッタ")
「くぅっ!」
\endtext
\text
グリエッタは背中を押され、
床へと転がされた。
\endtext
\text
自分で起き上がろうにも、腕の自由を
奪われていてはそれもままならない。
\endtext
\text("カイム")
「よく来たな、グリエッタ=オーリック」
\endtext
\text
カイムは玉座に深々と腰かけ、
床に転がっているグリエッタを見下ろす。
\endtext
\text("グリエッタ")
「あなたが……魔王ですわね?」
\endtext
\text("カイム")
「いかにも、この俺が魔王カイム。
 おまえを打ち負かした魔王軍のリーダーだ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「魔王は捕虜の扱い方を知らないのかしら。
 流石は蛮族ですわね」
\endtext
\text("グリエッタ")
「私をこんなところに連れてきて
 いかがなさるおつもりかしら」
\endtext
\text("カイム")
「クックックッ。なかなか威勢のいい女だ。
 リズベルが言っていた通りだな」
\endtext
\text("グリエッタ")
「リズベルッ!?
 やはりここにいるんですのねっ!」
\endtext
\text
グリエッタは玉座の間を見回す。
\endtext
\text("カイム")
「あぁ、いるぞ。間もなくここに来るはずだ。
 そのためにおまえをここに連れてきたのだ」
\endtext
\text
カイムがそういうと、
奥の通路からリズベルがやってくる。
\endtext
\text("リズベル")
「戦闘の後処理が終わりました。
 お待たせしてしまいましたか?」
\endtext
\text("カイム")
「いやなに、そう待ってはいない」
\endtext
\text("グリエッタ")
「リズベルさんっ!!」
\endtext
\text
玉座の間に、グリエッタの叫びが響き渡る。
\endtext
\text
リズベルは名を呼ばれ、
涼しい顔をして振り返った。
\endtext
\text("リズベル")
「お久しぶりですね、グリエッタさん。
 こんな場所まで、
 どういったご用件でしょうか」
\endtext
\text
眼鏡をクイッと押し上げ、冷ややかに尋ねた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「そんなこと、決まっているでしょうっ!!
 あなたを正しに来たのですわっ!!」
\endtext
\text("リズベル")
「正す?
 私の何を、正すとおっしゃるのでしょうか」
\endtext
\text("グリエッタ")
「すべてを、ですわっ!!
 魔王軍に加担し、世を乱さんとする
 あなたを見て見ぬふりはできませんわっ!」
\endtext
\text("リズベル")
「世を乱す……ですか。
 たしかに、貴族のあなたからしてみれば、
 私たち魔王軍は異端なのでしょうね」
\endtext
\text("グリエッタ")
「そんなこと、決まって……?
 なにをおっしゃてますの?」
\endtext
\text
リズベルはグリエッタへと、歩み寄る。
\endtext
\text("グリエッタ")
「あ、あなたはいったい、
 何を考えていますの?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あなたが魔術を志した理由は、
 争いを起こすためだったんですの?」
\endtext
\text
かつてのクラスメイトの考えがわからず、
グリエッタは困惑している。
\endtext
\text
リズベルに会うまでは、
心のどこかで別人かもしれないという期待が、
わずかではあるが残っていた。
\endtext
\text
しかしこうして実際に再会し、
その淡い期待は見事に裏切られた。
\endtext
\text
グリエッタは、かつての学友が魔王軍に
加担しているという事実を目の当たりにし、
ショックを隠しきれないでいる。
\endtext
\text("リズベル")
「あなたの当たり前の世界と、
 私の当たり前の世界は、違うんです」
\endtext
\text("グリエッタ")
「リズベル……さん?」
\endtext
\text
リズベルはグリエッタを見下ろしながら、
続けた。
\endtext
\text("リズベル")
「これは、虐げられている者たちが、
 自分の居場所を作るための戦い」
\endtext
\text("リズベル")
「私みたいなディアボリカや、
 魔物という総称でくくられた種族は……」
\endtext
\text("リズベル")
「世界のどこにいても
 悪魔だの敵だのと恐れられ、迫害を受ける」
\endtext
\text("リズベル")
「私たちの思想信条以前に、
 行いが正しいかどうか以前に、
 ただその種族だというだけで否定される」
\endtext
\text("リズベル")
「あなたは、それがいったいどういう事か、
 わかりますか?」
\endtext
\text("リズベル")
「――あなたはそんな風にして、自分を
 否定された事がありますか?」
\endtext
\text
リズベルはグリエッタにそう問うた。
\endtext
\text
しかし、人々から敬われる貴族として
生まれたグリエッタは、それに答えられない。
\endtext
\text("リズベル")
「そう……あるはずがない。
 あなたは人間、しかも貴族ですから」
\endtext
\text("リズベル")
「誰もがあなたを敬い、
 誰もあなたを否定しない」
\endtext
\text("リズベル")
「もちろん、あなたが尊敬されているのは、
 貴族だからという理由だけではないことを
 私は知っています」
\endtext
\text("リズベル")
「あなたは素晴らしい方です。
 才能があり、とてもお優しい。きっと、
 貴族でなくとも慕われたことでしょう」
\endtext
\text("リズベル")
「ですが、ディアボリカは違う。
 魔物は、違う」
\endtext
\text("リズベル")
「どんなに優秀でも、どんなに優しくとも、
 ただそうであるというだけで
 否定されてしまう」
\endtext
\text("グリエッタ")
「ち、違いますわっ!!」
\endtext
\text("グリエッタ")
「私は、
 あ……あなたの事を尊敬していますわっ!」
\endtext
\text("リズベル")
「……」
\endtext
\text
グリエッタの反論に、リズベルは口を閉ざす。
\endtext
\text("グリエッタ")
「勤勉で、努力を惜しまず、
 ひたすらに自分を磨きぬいたあなたを、
 私は……目標にしていました」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あ、あまりお話したことはありません
 でしたけど、それでも私は、
 あなたの事をずっと目で追っていましたわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あとにも先にも、そんな方はあなただけ。
 私に嫉妬という感情を教え込んだのも、
 あなた……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「私は、それほどにあなたを……
 認めていますわ」
\endtext
\text("リズベル")
「……あなたがそう思って下さっている事は、
 わかりました。ありがとうございます」
\endtext
\text("リズベル")
「ですが、世の人すべてが、
 あなたの様な方ではありません」
\endtext
\text("リズベル")
「悲しいことですが、先入観だけで
 判断してしまう人が大半です」
\endtext
\text("リズベル")
「だから私は、私たちは、
 自分たちの居場所を自分たちで
 作ることにしました」
\endtext
\text("リズベル")
「私たちの存在を、自主独立を、
 戦うことで世界に認めさせるのです」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あ、あなた……
 本気で言ってますの……?」
\endtext
\text
リズベルの途方もない望みを聞き、
グリエッタは眉をしかめる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「そんな理由で、
 争いを生み出しているんですの?」
\endtext
\text("リズベル")
「……そんな理由……ですか。
 所詮、持つものに持たざる者の
 気持ちはわからない……」
\endtext
\text("リズベル")
「争いなんて……
 どこにでも転がっているじゃないですか」
\endtext
\text("リズベル")
「高いところにいると、
 それが見えないだけです」
\endtext
\text("グリエッタ")
「私には見えてますわっ!
 ここに来る前、とある町が盗賊団に
 襲われていましたわっ!」
\endtext
\text("グリエッタ")
「聞けばあなたたち魔王軍が現れてから
 そういうケースが増えているそうですわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「魔王軍への対応に追われて、
 国内の治安にまで手が回らない……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「そういう状況を作り出してまで、
 あなたは戦いを続けるんですのっ!?」
\endtext
\text("リズベル")
「……はい。
 結局は、誰のエゴを押し通すかです。
 あなたか、私か。他の誰かか」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……御自身のエゴのために、
 誰かが犠牲になってもいいとおっしゃるの」
\endtext
\text("リズベル")
「なんとでもおっしゃってください」
\endtext
\text("リズベル")
「私は、優しくできる人の数が
 限られているんです」
\endtext
\text("リズベル")
「すべてを救いたいならば、
 ご自分でどうぞ」
\endtext
\text("リズベル")
「私はハドスを、そしてニルトを
 私たちの住みよい国に作り変えます」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……見損ないましたわ、リズベルさん」
\endtext
\text
涙を滲ませた目で、グリエッタは
リズベルを睨んだ。
\endtext
\text("リズベル")
「……それもどうぞ、ご勝手に」
\endtext
\text("カイム")
「どうやら、話は終わったようだな」
\endtext
\text
玉座に座り、黙って話を聞いていたカイムが
唐突に口を開いた。
\endtext
\text("リズベル")
「はい。
 あとはカイム様の好きになさってください」
\endtext
\text("カイム")
「クククッ、そうだな。
 ではそうさせてもらうとしよう」
\endtext
\text("グリエッタ")
「くっ……私を、どうする気ですの……」
\endtext
\text
そう口にしながらも、グリエッタは
すでに覚悟ができていた。
\endtext
\text
魔王軍に敗北し、捕まった時点で、
身体を弄られるだろう……と。
\endtext
\text
しかし次の瞬間カイムが放った言葉に、
グリエッタは目を見開く。
\endtext
\text("カイム")
「この女を地上に送り返して来い」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……え?」
\endtext
\text
命令を受けた魔物が、グリエッタへと近づく。
\endtext
\text("グリエッタ")
「お、お待ちになってっ!!
 どういう事ですのっ!?」
\endtext
\text("カイム")
「ん? なにがだ?」
\endtext
\text
カイムは肘をつき、面倒そうに片眉を跳ねる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「ま、魔王は捕えた女を犯し、
 その上で殺すと聞いていますわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「なのに、私を地上に送り返すとは……
 どういう事ですのっ!」
\endtext
\text("カイム")
「なんだ? 死にたいのか?
 自殺志願者なら勝手にどこかで死んでくれ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「違いますわっ! 目の前に女がいるのに
 手を付けないのはどういう事かと
 聞いているんですわっ!」
\endtext
\text("カイム")
「あぁ……そういう事か。
 一体どんな噂を耳にしたのかは知らんが、
 俺は女は殺さん主義だ」
\endtext
\text("カイム")
「そして女はもうすでにリズベルがいる。
 こいつで充分間に合っている」
\endtext
\text
カイムはリズベルの腰に手を回し、
引き寄せる。
\endtext
\text("リズベル")
「なっ……!?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「な、なんですって……!?」
\endtext
\text
グリエッタもまた、
噂と違うカイムの言動に驚き戸惑う。
\endtext
\text("カイム")
「だからおまえは帰っていいぞ。
 おい、さっさと連れていけ」
\endtext
\text("カイム")
「ついでにいい機会だ。
 自分のその目で、ハドスを見て回って来い」
\endtext
\text
グリエッタはそのまま、
魔物に連れて行かれてしまった。
\endtext
\text("リズベル")
「……間に合ってるって……
 何でそんな白々しい嘘をついたんですか?」
\endtext
\text
グリエッタのいなくなった玉座の間で、
リズベルが冷たくそう言い放つ。
\endtext
\text
そしてベシッとカイムの手を叩くと、
するりと離れた。
\endtext
\text("カイム")
「なに、ああいうプライドの高い女は、
 ただ犯すだけではなかなか堕ちん」
\endtext
\text("カイム")
「やり方というものがあるのだ。
 ああいう女専用の、特別なやり方がな」
\endtext
\text
カイムはそう言って、愉快そうに微笑む。
\endtext
\text("リズベル")
「ほんと、いやらしい笑みですね」
\endtext
\text("カイム")
「あいつはいい女だ。
 流石は、おまえが認めただけのことはある」
\endtext
\text("リズベル")
「……どうやら私の方は、
 見限られたようですけどね」
\endtext
\text("カイム")
「そうか?
 俺には随分と仲が良さそうに見えたがな」
\endtext
\text("リズベル")
「良くありません」
\endtext
\text("リズベル")
「というか、彼女もおっしゃってました
 が……私達はほとんど話をした事が
 ないんです」
\endtext
\text("カイム")
「では、これからすればいい。
 あいつはきっと、またここに来る」
\endtext
\text("リズベル")
「……どうでもいいです」
\endtext
\text
リズベルはそうつぶやくと、
玉座の間から出ていく。
\endtext
\text
カイムはその背中を見つめながら、
ニヤニヤと笑っていた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「……御丁寧に縄までほどいてくださって、
 感謝いたしますわ」
\endtext
\text
グリエッタは自分をここまで運んできた
魔物に対し、皮肉たっぷりにそう言った。
\endtext
\text
しかし魔物たちはそれを無視し、
迷宮内へと戻っていった。
\endtext
\text("グリエッタ")
「……魔物って……
 もっと粗野な存在ではないんですの……?」
\endtext
\text
グリエッタは今まで、魔物は暴力的で
理性のかけらもない存在だと思っていた。
\endtext
\text
しかし、今グリエッタをここまで運んできた
魔物たちは、その途中でグリエッタに悪さを
したりはしなかった。
\endtext
\text
ただ淡々と、黙々と、
カイムの命令を忠実にこなしていた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「世界を、見て回れ……ですって?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「見て回っていますわよ。
 私をなんだと思っていらっしゃるの」
\endtext
\text
カイムの言葉に、グリエッタは腹を立てる。
\endtext
\text
魔法学院を卒業し、魔術の研鑽を目的に
旅をしてきた。
\endtext
\text
色んな町で話を聞き、色々な村を救ってきた。
\endtext
\text
それでもなお、
見落としているものがあるというのだろうか。
\endtext
\text
と、グリエッタは苦々しく表情をゆがめる。
\endtext
\text("グリエッタ")
(ですが……確かに、
 私は魔物について、何も知らない。
 いえ、知ろうとしていなかった)
\endtext
\text("グリエッタ")
(ディアボリカについても、そうですわ。
 元々粗暴な方は好きではありませんから、
 無意識に見ないようにしていたのかも)
\endtext
\text("グリエッタ")
「こうなったら、見て差し上げますわ。
 リズベルさん……あなたのいうその理想が、
 いったいどんなものなのかを」
\endtext
\text
グリエッタはそう口にした後で、
ギリッと歯をきしませる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「それにしてもっ……腹が立ちますわっ!」
\endtext
\text
噂と違い、カイムはグリエッタを犯す事無く、
地上へと戻した。
\endtext
\text
自分に犯すほどの魅力がないと言わんばかり
のその仕打ちに、グリエッタは激怒する。
\endtext
\text("グリエッタ")
「私より……リズベルさんの方が
 いい女という事ですの?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「許しませんわっ、魔王カイムっ!
 次に会ったときは、
 必ず私がこの手で倒して見せますわっ!!」
\endtext
\text
グリエッタはプライドを色々な意味で
傷つけられ、復讐を誓うのだった。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,335 @@
\setgamedatatitle("グリエッタ_06")
\text
カイムに敗北しながらも、命はもとより
貞操すら奪われなかったグリエッタ。
\endtext
\text
彼女は今、ハドスのとある街を歩いている。
\endtext
\text("グリエッタ")
「……これが……ハドス?
 本当に戦時下の街なんですの?」
\endtext
\text
グリエッタはあちこちに視線を飛ばし、
活気あふれる街の様子に驚いている。
\endtext
\text
確かに多少の戦闘の傷跡は建物などに
残ってはいるものの、そこで生活している
人々の表情は明るい。
\endtext
\text
中でもグリエッタを驚かせたのは、
その種族の多様さだ。
\endtext
\text
元々ディアボリカの多い土地柄ではあるので
ある程度種族の比率がほかの地方よりも
違うだろうということは、予想していた。
\endtext
\text
しかしグリエッタの予想以上に、
ディアボリカが多い。
\endtext
\text
そして最もグリエッタを驚かせたのは、
魔物の存在だった。
\endtext
\text("衛兵")
「そこの女。止まれ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「えっ……私ですの?」
\endtext
\text
街角に立っていた衛兵のひとりが、
グリエッタに声をかけ、近づいてくる。
\endtext
\text
その衛兵というのは、見上げんばかりの
体躯の、オークであった。
\endtext
\text
オークはグリエッタを見下ろすと、
歯をむき出しにして笑う。
\endtext
\text("衛兵")
「ここでは見ない顔だな。旅人か?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「そ、そうですけど……
 それがどうかいたしまして?」
\endtext
\text
グリエッタはオークを睨み返す。
\endtext
\text
いつ襲いかかってこられても
対応できるように、
いくつかの魔法の準備も忘れない。
\endtext
\text
しかし、次にオークが発した言葉は
グリエッタの予想の範疇を起きく外れていた。
\endtext
\text("衛兵")
「そんなにキョロキョロと周りを見ていては
 余所もんだと思われるぞ」
\endtext
\text("衛兵")
「ここにはそういう奴を騙そうっていう
 悪い奴らも潜んでいる。
 充分に気を付けることだ」
\endtext
\text("衛兵")
「この街でわからないことがあれば
 俺たち衛兵に聞くか、宿屋に行け。
 宿屋の場所を書いた地図を渡しておこう」
\endtext
\text
そう言って、
オークの衛兵はグリエッタに地図を渡した。
\endtext
\text("グリエッタ")
「ご……ご忠告とご厚意、
 感謝いたしますわ」
\endtext
\text("衛兵")
「構わん、それが仕事だ。
 用件は以上だ、行くがいい」
\endtext
\text
衛兵はそういうとスタスタと元いた場所に
戻っていく。
\endtext
\text
そして再び、
通行人へと目を光らせるのだった。
\endtext
\text("グリエッタ")
「……魔物が、衛兵……?
 いえ……よく見れば街の人の中にも……」
\endtext
\text
ごく少数ではあるが、オークやゴブリン
といった魔物と称される種族のものまでが、
ごく普通に街を歩き買い物をしていたりする。
\endtext
\text
その光景を目の当たりにして、
グリエッタはわずかにめまいを覚えた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「し、信じられませんわ……。
 私の居たラムシでは、こんな光景……
 ありえない……」
\endtext
\text
人間と、ディアボリカ、そして魔物。
\endtext
\text
彼らが言葉を交わし合い、
ひとつの街を成り立たせている。
\endtext
\text("グリエッタ")
「私が他国で聞いた話では、
 魔王軍に征服された街では非道の限りが
 尽くされているはずですのに……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「男は殺され……女は、犯されて……」
\endtext
\text
しかし今、グリエッタの居る街では、
そんな残虐な行為が行われているとは
思えない。
\endtext
\text("グリエッタ")
「……少し、疲れましたわ……。
 今日は早めに宿をとりましょう……」
\endtext
\text
先ほど衛兵に渡された地図に目を落とす。
\endtext
\text
ここからすぐのところに、
宿がひとつあるようだった。
\endtext
\text
宿をとり、グリエッタは併設された酒場で
少し早い夕食をとっていた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「…………」
\endtext
\text
すると、隣のテーブルで酒を飲んでいる
男たちの会話が聞こえてくる。
\endtext
\text("男A")
「カイム様、どうやらまたひとつ街を
 陥落させたらしいぜ?」
\endtext
\text("男B")
「あぁ、破竹の勢いって奴だな」
\endtext
\text("男C")
「すげぇのはカイム様じゃなくて
 リズベル様だろ。あの方が実質魔王軍を
 束ねてるって話だぜ」
\endtext
\text("男A")
「あぁ、そうみたいだな。
 羨ましいよなぁ、カイム様」
\endtext
\text("男B")
「あんなに可愛らしい軍師様がいて、
 その上、女とやりまくりなんだろ?」
\endtext
\text("男C")
「いい女は捕えてエッチしまくって
 仲間に引き入れるらしいぜ。
 ほんと、羨ましい話だよ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……っ!?」
\endtext
\text
グリエッタの柳眉がしかめられる。
\endtext
\text("男B")
「今回落とした街にも
 すげぇ美人がいたらしいな」
\endtext
\text("男C")
「噂じゃその美人も、もうカイム様に
 調教されてメロメロ状態らしいぜ」
\endtext
\text("男A")
「ほんと、カイム様って女好きだよな。
 それでいて女に恨まれねぇんだから、
 ほんと得な性格してるぜ」
\endtext
\text("グリエッタ")
(……やはり、魔王カイムが
 女好きというのは、本当ですのね……)
\endtext
\text("グリエッタ")
(いったい、どういう事ですの?
 リズベルさんがいるから、女に困ってない
 のではなかったんですの?)
\endtext
\text("グリエッタ")
(それなのに……それなのに、
 どうして私はっ!)
\endtext
\text("グリエッタ")
「屈辱ですわっ!!!」
\endtext
\text
ダンッと、テーブルにグラスを叩きつける。
\endtext
\text
酒場の全員が驚いた顔をして
グリエッタを見る。
\endtext
\text
しかしグリエッタはそんなことには
お構いなしに、脇に置いていた杖を手にして
立ち上がった。
\endtext
\text("グリエッタ")
「女として、私はリズベルさんより
 下だという事ですの?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「それどころか、魔王軍に下った
 ほかの女よりも、魅力がないと?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……許せませんわ」
\endtext
\text
グリエッタは代金をテーブルに置いた後、
席を離れる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「この私をコケにしたこと、
 必ず後悔させてあげますわ」
\endtext
\text
すわった眼をしたグリエッタに、
道を譲る酒場の男たち。
\endtext
\text
グリエッタはその晩のうちに宿を引き払い、
再び迷宮へと向かうのだった。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,429 @@
\setgamedatatitle("グリエッタ_07")
\text("リズベル")
「…………」
\endtext
\text
リズベルが、グリエッタを見下ろしている。
\endtext
\text("グリエッタ")
「リズベル……さん……」
\endtext
\text
グリエッタは反対に、リズベルを見上げる。
\endtext
\text
敗北し捕虜となったグリエッタには縄が
打たれ、自分では起き上がることもできない。
\endtext
\text("リズベル")
「なぜまたこちらに?
 用件は、先日お済ませになったはずですが」
\endtext
\text
そんなグリエッタに、
リズベルは短くため息をつく。
\endtext
\text("グリエッタ")
「分かりきったことを聞かないでくださる?
 用があるから、ここに来たのですわ」
\endtext
\text("リズベル")
「ではお聞きしますが……
 本日はいったいどのようなご用件で?」
\endtext
\text("リズベル")
「言っておきますが、私とあなたは敵同士。
 情けをかける理由も、義務もありません」
\endtext
\text("リズベル")
「くだらない理由で来られたのでしたら、
 私はあなたを殺さなくてはなりません」
\endtext
\text("カイム")
「クククッ、
 心にもないことを言うな、リズベル」
\endtext
\text
カイムが玉座の間にやってきて、
リズベルたちの会話に割り込んだ。
\endtext
\text
そしてドカッと、玉座に腰掛ける。
\endtext
\text("カイム")
「よく来たな、グリエッタ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「くっ……魔王、カイム……」
\endtext
\text
冷たい床へと転がされたグリエッタは、
玉座に座ったカイムを睨む。
\endtext
\text("リズベル")
「カイム様は何をしに
 ここに来られたのですか」
\endtext
\text("カイム")
「決まっているだろう、
 侵入者の顔をあらためにだ」
\endtext
\text("カイム")
「それでグリエッタ、
 おまえは何をしにここに来たのだ?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……ハドスの街を、
 見て回りましたわ……」
\endtext
\text("カイム")
「ほう? 俺の命令に従うとは、
 それは感心なことだ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「従ったわけではありませんわっ!
 ただ活動する拠点を探そうと……」
\endtext
\text("カイム")
「それで? どうだった?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……正直、驚きましたわ。
 人間とディアボリカ、そして魔物が……
 普通に一緒に暮らしてる街なんて……」
\endtext
\text("カイム")
「そうだろうそうだろう。
 これも皆、リズベルの手腕のなせる業だ」
\endtext
\text("カイム")
「こいつはすごいぞ。
 なんでもひとりでこなしてしまう」
\endtext
\text("カイム")
「おかげで俺はずいぶんと楽をさせて
 もらっているがな」
\endtext
\text
カイムはそういうと、またもこれ見よがしに
リズベルの腰を引き寄せる。
\endtext
\text("リズベル")
「きゃっ……カイム様っ!」
\endtext
\text("グリエッタ")
「ぐっ……」
\endtext
\text
驚き赤面するリズベルと、
それを見て歯ぎしりをするグリエッタ。
\endtext
\text
両者は、
見事なまでに対極的な位置関係にあった。
\endtext
\text("リズベル")
「グ、グリエッタさん。
 あなたの見たそれこそが、私が魔王軍に、
 ひいては世界に望んでいることです」
\endtext
\text
カイムに尻を撫でられながら、
リズベルがそう言った。
\endtext
\text("リズベル")
「あんっ、ちょっとやめてくださいっ!
 グリエッタさんが見てる前で……」
\endtext
\text("カイム")
「ふむ、では見ていなければいいのだな」
\endtext
\text("カイム")
「おいグリエッタ、
 用件はこれで済んだだろう?
 気を付けて帰れよ」
\endtext
\text
カイムはそういうと、部下に命じてまたもや
グリエッタを地上に送り返そうとする。
\endtext
\text("グリエッタ")
「お、お待ちなさいっ!!
 なんでそうなるんですのっ!」
\endtext
\text("カイム")
「なにがだ?
 俺は今からリズベルを抱くのに忙しい」
\endtext
\text("カイム")
「これ以上俺に言いたいことが
 あるなら手紙で済ませてくれ」
\endtext
\text
カイムはシッシッと、
まるで犬を追い払うかのような仕草をする。
\endtext
\text
それを見たグリエッタは、
顔を真っ赤にして激昂する。
\endtext
\text("グリエッタ")
「この私にっ、そんな失礼な態度を
 とった男はあなたが初めてですわっ!!」
\endtext
\text("カイム")
「つまり、世の中は広いということだ。
 勉強になってよかったな」
\endtext
\text
カイムはもはやグリエッタに目もくれず、
リズベルの身体をまさぐり始めている。
\endtext
\text("リズベル")
「やっ、ちょっと……
 だめです、こんなところで……」
\endtext
\text("カイム")
「では寝室に行くか。
 今日もかわいがってやるぞ、リズベル」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あっ、あなたはっ!!!」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あなたはリズベルさんだけでなく、
 捕えた女にも手を出しているという話を
 聞きましたわっ!!」
\endtext
\text("グリエッタ")
「なのに何故私には
 手を出さないんですのっ!」
\endtext
\text("グリエッタ")
「その女たちよりも私は
 魅力がないってことですのっ!?」
\endtext
\text
グリエッタの叫びに、
カイムは目を瞬かせる。
\endtext
\text
そしてしばらくして、頷いた。
\endtext
\text("カイム")
「まぁ、平たく言えばそういう事だ。
 ほら、もういいぞ。さっさと帰れ」
\endtext
\text
カイムは魔物に命じ、
グリエッタを地上へと送り返した。
\endtext
\text("リズベル")
「……少し、かわいそうなのでは……」
\endtext
\text("カイム")
「なんだ、あいつのことを殺すとか
 言っていたくせに、ずいぶんと同情的だな」
\endtext
\text
グリエッタが連れて行かれ、玉座の間には
カイムとリズベルだけが残された。
\endtext
\text("リズベル")
「そ、それは……」
\endtext
\text("カイム")
「心配せずとも、
 この程度であいつの心は折れはせん」
\endtext
\text("カイム")
「むしろ今まで以上に
 俺に敵意を向けてくるだろうな」
\endtext
\text("リズベル")
「そう仕向けておいて、
 最終的には犯すわけですよね。
 本当に、趣味が悪いです」
\endtext
\text("カイム")
「おまえとて、あいつが欲しかろう?」
\endtext
\text("リズベル")
「……魔術師としての腕は、一流ですからね。
 彼女の力は、魔王軍にとって有益です」
\endtext
\text("カイム")
「違う。クククッ、そうではない」
\endtext
\text
カイムはリズベルの尻を撫でながら
ニヤニヤと笑う。
\endtext
\text("リズベル")
「……私には、カイム様が
 なにをおっしゃりたいのか理解できません」
\endtext
\text("カイム")
「そうか、まぁそれならそれで構わん。
 さて、それでは寝室に行くぞ」
\endtext
\text("リズベル")
「はい? 先ほどのはグリエッタさんを
 焚きつけるための冗談なのでは」
\endtext
\text("カイム")
「最初はそのつもりだったが
 おまえの尻を撫でていると
 後ろから突いてやりたくなった」
\endtext
\text
カイムはリズベルを抱き上げると、
玉座の間を後にし、寝室へと向かった。
\endtext
\text("リズベル")
「きゃあっ! い、いやですっ!
 私はまだ仕事が……」
\endtext
\text
リズベルは抵抗するが、
カイムに逆らえるはずもなく、
そのまま寝室へと運ばれてしまう。
\endtext
\text
その一方で、
地上へと送り返されたグリエッタは……。
\endtext
\text("グリエッタ")
「……くぅぅぅうううっ!!」
\endtext
\text
拘束を解かれて入口に投げ捨てられた
グリエッタは、瞳に涙を浮かべて
地団太を踏んでいた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「どうしてですのっ!
 どうして私だけがっ!!」
\endtext
\text("グリエッタ")
「私に魅力がないなんて、
 そんな事……絶対ありえませんのにぃっ!」
\endtext
\text
グリエッタは空に向かって叫ぶ。
\endtext
\text("グリエッタ")
「はぁ、はぁ……ぜったい、絶対……。
 許しませんわ……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「このまま引き下がってなど、
 やるものですか……」
\endtext
\text
グリエッタは街に向かって歩き始める。
\endtext
\text("グリエッタ")
「こうなったら必ず、
 あの魔王を振り向かせてやりますわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「この私の魅力を存分に思い知らせて、
 そして、そして……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「私を抱きたいと、
 言わせてあげますの……フフッ、フフフ」
\endtext
\text
悔し涙を流しながら、
グリエッタは不敵に笑った。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,636 @@
\setgamedatatitle("グリエッタ_08")
\text
2度にわたってカイムに屈辱を味わわされた
グリエッタは、ハドスのとある街に
流れ着いていた。
\endtext
\text
魔王軍の勢力圏内ということで
警戒していたグリエッタだったが、
それも最初の数日だけだった。
\endtext
\text("グリエッタ")
(……平和、過ぎますわ……)
\endtext
\text
気を張っているのがバカらしくなるほどに、
街は平穏そのものだった。
\endtext
\text
殺人や強盗はもとより、
スリや置き引きなどの被害にあう事もなく、
日々が平穏に過ぎていく。
\endtext
\text
日を追うごとに、
グリエッタは魔物が街を闊歩している
異常な光景に慣れつつあった。
\endtext
\text("グリエッタ")
「こんなの、おかしいですわ……。
 聞いていた話と、全然違う……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あの街だけかと思ったら、
 この街にまで魔物が……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「そしてそれを見ても、
 皆がみな、平然としているなんて……」
\endtext
\text
魔物は人を襲い無法を働く、忌むべき存在で
ある……グリエッタの中のそんな常識が、
次第に揺らぎつつあった。
\endtext
\text("老人")
「ふぉっふぉ、
 今日はやけに元気がないのぅ、娘さんや」
\endtext
\text
顔をしかめて歩くグリエッタに、
露店を開いている老人が声をかけた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「……そうかしら? いえ、そうね……。
 なんだかハドスにいると、
 自分の頭がおかしくなっていくようですわ」
\endtext
\text
グリエッタは足を止め、大きく息をつく。
\endtext
\text("グリエッタ")
「今日も同じものを頂けるかしら?」
\endtext
\text("老人")
「おぉ、よいぞ。
 少し待っとれ。今見繕ってやるでな」
\endtext
\text
グリエッタは毎日決まった時間に、
この老人から果物を買っていた。
\endtext
\text
近くの菜園でとれるというその果実は、
グリエッタの国にはないもので、
彼女はとても気に入っていた。
\endtext
\text("老人")
「ほい、ひとつおまけしといたぞい」
\endtext
\text("グリエッタ")
「ありがとう」
\endtext
\text
老人から果物を受け取り、
グリエッタはそれをひとつかじる。
\endtext
\text
口の中に広がるさわやかな味が、
グリエッタの疲れ切った身体と心を癒す。
\endtext
\text("老人")
「それで、なにをお悩みかね。
 おぬしほどのべっぴんが恋に悩むなんて
 ことはないじゃろう?」
\endtext
\text
好々爺の笑みを浮かべる老人に、
グリエッタはどうしたものかと思案する。
\endtext
\text
しかし、自分一人で考えても埒があかないと
判断し、思い切ってグリエッタは老人に
訊ねることにした。
\endtext
\text("グリエッタ")
「お気を悪くなさらないで
 ほしいのですけど……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「この街は魔王軍に
 占拠されているのでしょう?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「なのになぜ、あなたはそうやって
 笑っていられるのかしら?」
\endtext
\text("老人")
「ふむ、いかにもその通り。
 この街は魔王軍に占拠されておる」
\endtext
\text("老人")
「ディアボリカや魔物までが、
 それ以降街によく出入りするようになった」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あなたはそれでいいんですの?」
\endtext
\text("老人")
「ふぉっふぉ。
 では、逆に問おう。
 それで何か悪いことがあるのかね?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……え」
\endtext
\text
老人の言葉に、グリエッタは言葉を失った。
\endtext
\text("老人")
「その身なりからして、
 おぬしは貴族じゃろう?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「え、えぇ……」
\endtext
\text("老人")
「ほっほ。心配せずともその貴族が
 ひとりこんな街に居ることの理由を
 いちいち訊ねたりはせんよ」
\endtext
\text("老人")
「わしら平民にとっては、誰が上に立つか
 なんてことはどうでもいいことなんじゃが」
\endtext
\text("老人")
「魔王とやらがこの街を治めるように
 なってからは、色んな連中が街に出入り
 するようになった」
\endtext
\text("老人")
「わしはのぅ、街が賑やかになって
 良かったと思っておるよ。
 治安もむしろ、前より良くなったしのぅ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「は……はぁ……で、ですが、
 怖くは、ないんですの?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「魔王軍に関する噂は、
 あなたもご存じのはずですわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「いつ魔物が本性を現して
 襲い掛かってくるか……」
\endtext
\text("老人")
「確かにわしもこういう商売をしておるでな、
 魔王軍の悪いうわさ話をたまーに耳にする」
\endtext
\text("老人")
「娘さんが聞いた噂とは、
 いったいどんなものかね?」
\endtext
\text
老人に尋ねられ、グリエッタは記憶をたどる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「私が聞いたのは、
 魔王軍が虐殺をおこなっているとか、
 女性に乱暴しているとか……」
\endtext
\text("老人")
「では、娘さんはこの街で虐殺が行われた
 ように見えるかね?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……い、いえ……」
\endtext
\text
戦いの痕跡はあるものの、
行きかう人々はみな活気にあふれている。
\endtext
\text
とても、そのような惨劇が繰り広げられた
後とは思えない。
\endtext
\text("老人")
「その通り。そんなのは根も葉もない
 噂にすぎん」
\endtext
\text("老人")
「大方魔王軍の進撃を快く思わん連中が
 広めたのじゃろう」
\endtext
\text("グリエッタ")
「で、では……
 女性に乱暴をしているというのも……」
\endtext
\text("老人")
「ああ、それも嘘じゃよ。
 魔王本人は無類の女好きらしいが……」
\endtext
\text("老人")
「少なくとも、軍の連中が無法を働いたと
 いう話は聞いたことがないのう」
\endtext
\text("老人")
「リズベル、とかいう娘がおったが、あれが
 魔物どもをしっかりとまとめておるよう
 じゃな。大したもんじゃよ」
\endtext
\text
老人はカラカラと笑い、
グリエッタを困惑させる。
\endtext
\text("グリエッタ")
(……どういう、事ですの……)
\endtext
\text("老人")
「ま、今目に見えるものを、そこにあるもの
 として認めなされ」
\endtext
\text("老人")
「無理に認めまいとするほどに、苦しくなる。
 そしてそれは、往々にして意味のないこと
 じゃ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「そう……ですわね。
 なかなか難しいですが、
 そう思えるよう努力いたしますわ」
\endtext
\text
グリエッタは老人にニコリと微笑んだ。
\endtext
\text("老人")
「ふむ。やはり美人は笑顔が一番じゃ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「ふふっ、それではまた来ますわ。
 話を聞いてくださってありがとう」
\endtext
\text
グリエッタは老人に手を振り、
その場を後にした。
\endtext
\text("グリエッタ")
(リズベルさん。
 あなたが良き統治者であることは
 認めましょう)
\endtext
\text
ニコニコと笑顔を振りまきながら、
心の中で、何度もそう自問する。
\endtext
\text("グリエッタ")
(でも、あの男は……あの男に受けた屈辱
 だけは……!)
\endtext
\text("グリエッタ")
「魔王カイム……。
 やっぱり絶対、許せませんわ……」
\endtext
\text
グリエッタは果物の入った紙袋を抱きながら、
ポツリとそうつぶやいた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「こ、こうかしら……?」
\endtext
\text
グリエッタは宿屋に帰ると、
備え付けの姿見の前でポーズをとった。
\endtext
\text
腰を後ろに突き出すように引き、
自らの胸を両手で持ち上げ、
視線を上に持っていく。
\endtext
\text
鏡の中の自分と目があい、
グリエッタは赤面する。
\endtext
\text("グリエッタ")
「た、確かにこの格好は……
 自分で言うのもなんですけど、
 なんというか、卑猥……ですわね」
\endtext
\text("グリエッタ")
「ほ、ほかにはどんなポーズがあるのかしら」
\endtext
\text
グリエッタは緊急で買いそろえた恋愛や
性行為に関する、グリエッタ曰く指南書……
単なるいかがわしい本をめくる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「え、
 こ……こんな格好もしちゃうんですの?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「でもさすがにこれは……
 はしたなくはないかしら……」
\endtext
\text
今までは低俗と切り捨て、見ることの
なかった本をグリエッタは読み漁る。
\endtext
\text("グリエッタ")
「こ、こんな格好したら……
 し、下着が見えてしまうんじゃ……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「え、見せるんですの?
 それで殿方は喜ぶ……?
 ほ、ほんとですの、これ……」
\endtext
\text
グリエッタの美貌は、
魔法学院では有名だった。
\endtext
\text
言い寄ってくる男たちは数知れず、
その度にグリエッタは断ってきた。
\endtext
\text
しかし小柄で胸もなく、無愛想なリズベルも
密かに男子に人気だということを知った時は、
焦りを覚えた。
\endtext
\text
頭脳も魔法も一流のリズベルに、
女性としても負けてなるものかと、
己を磨いた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「でもそれだけでは、
 不十分だったなんて……」
\endtext
\text
グリエッタが買った本には、
恋愛の手引きのようなものが書かれていた。
\endtext
\text
元々がいかがわしく卑猥な本であるため、
セックスありきのこじつけめいた恋愛の解説。
\endtext
\text
しかし恋愛に関して疎いグリエッタは、
それをそのまま、信じてしまう。
\endtext
\text("グリエッタ")
「さ、酒場で1秒以上異性と目が合ったら、
 その男性はこちらに気がある?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「そ、そういう時は、足を見せて
 反応を窺うとより確実でしょう?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「い、いまどきの女性って、
 しょ、初対面の殿方に……
 そ、そんなことをしちゃいますの?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「と、いうことは……リズベルさんも……
 あ、あんなおとなしそうな顔をして……。
 下着とか、見せちゃったりしてますの?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「そ、そういえばリズベルさん、
 魔王にお尻を触られても
 嫌がっていなかったですわ……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「と、というよりっ!!
 よく考えたらあの方、
 スカートすらはいてませんでしたわっ!!」
\endtext
\text("グリエッタ")
「な、なんて恋愛上級者ですの……。
 私も下着とか見せたり、お尻をいつでも
 触れる服にした方がいいのかしら……」
\endtext
\text
グリエッタはゴクリと唾をのみ、
カイムに尻を触られる自分を想像する。
\endtext
\text
すると、瞬時に耳まで赤くなってしまった。
\endtext
\text("グリエッタ")
「む、無理っ、無理ですわっ!!
 そ、そんな破廉恥なこと、
 私には想像できませんわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「で、でもこのままでは……女として、
 私はリズベルさんに負けていることに……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「リズベルさんだけではありませんわ、
 他の女にも、
 この私が劣っているということに……」
\endtext
\text
グリエッタはギリッと歯を食いしばる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「そ、そんなの……認めませんわ。
 私だって、きちんと恋愛の基本を
 マスターすれば、他の女になんて……」
\endtext
\text
そう言って本を読み、間違った恋愛観を
順調に育んでいくグリエッタ。
\endtext
\text
実に半日以上をかけて、買い漁った
ほとんどの本を読破してしまうのだった。
\endtext
\text("グリエッタ")
「あら、これは……?」
\endtext
\text
日も傾きかけたころ、
本の中の一文を口に出してつぶやく。
\endtext
\text("グリエッタ")
「エッチの相性がいい男性は、
 もしかしたらあなたの運命の相手かも
 しれません」
\endtext
\text
そして軽く噴き出した。
\endtext
\text("グリエッタ")
「ぷっ……流石にこれはありえませんわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「既に幾冊もの恋愛指南書を読んで
 知識をモノにした私から言わせれば、
 こんなものは眉唾ですわ」
\endtext
\text
ポイッと本をベッドに放り投げると、
グリエッタは自信に満ちた笑みを浮かべた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「さてこれで、私も恋愛マスターですわ。
 あとはこの知識を生かして
 実践あるのみですわね」
\endtext
\text
グリエッタは再び姿見の前に立ち、
覚えた卑猥なポーズをとる。
\endtext
\text("グリエッタ")
「こ、これであの魔王カイムも、
 私の虜になること間違いなし……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「ふふっ、リズベルさんの驚く顔が
 目に浮かびますわ♪」
\endtext
\text
自慢の胸を両手で持ち上げながら、
グリエッタは赤面し続ける。
\endtext
\text("グリエッタ")
「な、何を恥ずかしがっているんですの
 グリエッタ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「こ、こんなものは慣れですわ、慣れ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「リズベルさんにできて私にできないこと
 なんて、何ひとつないということを、
 証明して見せますわ」
\endtext
\text
グリエッタはその日遅くまで、
鏡に向かってポーズをとり続ける。
\endtext
\text
既に自分の目的が当初から大幅に変わって
しまっている事に、
グリエッタが気づく様子は……ない。
\endtext

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View file

@ -0,0 +1,828 @@
\setgamedatatitle("グリエッタ_10")
\text("グリエッタ")
「お、およしになって……
 もう、これ以上入りませんわっ!!」
\endtext
\text
鉄の格子で区切られた、牢屋の中。
\endtext
\text
グリエッタの声が、石の壁に反響する。
\endtext
\text("オークの看守")
「ぐへへっ、何言ってやがる。
 まだまだ入るだろ?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「そ、そんなっ……
 もうほんとに……いっぱい……」
\endtext
\text
グリエッタが牢屋に囚われ、
既に短くない時間が過ぎている。
\endtext
\text
その間グリエッタは、このオークの看守に
よる徹底的なもてなしを受けていた。
\endtext
\text("オークの看守")
「まぁそんな遠慮するなよ。
 たっぷりとその口に食わせてやるぜ、
 この……」
\endtext
\text("オークの看守")
「シュカの国、ナンタイから取り寄せた
 極上のスワロ牛のリブロースステーキをな」
\endtext
\text
そう言って、オークの看守は
焼きたてのステーキの乗った皿を
テーブルの上に置いた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「も、もう無理ですわーーーーーーっ!!
 本当におなかいっぱいですのっ!
 どう言えば分ってくれるんですのっ!?」
\endtext
\text
オークの看守はこうして1日に3回、
定期的にグリエッタに食事を出していた。
\endtext
\text("オークの看守")
「ひひっ、今日はそれだけじゃねぇぜ。
 食料備蓄庫から特上のワインを持ってきた」
\endtext
\text("オークの看守")
「やっぱり肉には酒が一番合うからなぁ、
 ぐへへっ」
\endtext
\text
警備はつくものの、牢屋からの出入りは
基本的に自由であり、鍵すらかかっていない。
\endtext
\text
グリエッタが望めば湯あみもでき、
まさに至れり尽くせりといった状況であった。
\endtext
\text("グリエッタ")
「ほ、本当に……
 丁重におもてなしされていますわ……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「こ、こうして私を懐柔しようと
 なさっておられるのかしら……」
\endtext
\text
捕虜という立場でありながら、
カイムの命令によってグリエッタは
賓客として扱われている。
\endtext
\text
そのことに疑問を抱きながらも、
漂ってくる肉の香りに
グリエッタの胃は重くなる。
\endtext
\text("オークの看守")
「どうした、食べないのか?
 ひょっとして今日は肉よりも
 魚の方がよかったか?」
\endtext
\text("オークの看守")
「ならば今からシェフに作り直させて……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「い、いいえっ!! 頂きますわっ!!
 作っていただいたものを粗末にするなんて、
 そんなこと許されませんものっ!!」
\endtext
\text
グリエッタはそう言ってナイフとフォークを
持ち、肉を切り分けて口に運ぶ。
\endtext
\text("グリエッタ")
「くぅっ……お肉を噛んだ瞬間、
 肉汁がジュワァッとお口の中に
 広がっていきますわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「流石はシュカの国はナンタイの
 有名なスワロ牛ですわっ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「いえ、素材の質もさることながら、
 これを作った料理人の腕も
 とても素晴らしいですわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「味付けはシンプルな塩と胡椒でありながら、
 スワロ牛独特の臭みを、焼き加減を
 調整することで見事に消していますわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
(あぁ、おいしいっ!!
 でもっ、このままでは私の体重が。
 そういった意味では物凄くピンチですわ)
\endtext
\text("オークの看守")
「ぐへへっ、そう言ってもらえたら
 食事を作っている俺たちとしても嬉しいぜ」
\endtext
\text("オークの看守")
「それじゃあ食べたら皿は
 そこに置いておいてくれ」
\endtext
\text("オークの看守")
「またくるぜ、ひひひっ……」
\endtext
\text
そんなセリフを置いて、
オークの看守は牢から出ていった。
\endtext
\text("グリエッタ")
「あ、あぁ……
 また、また食べてしまいましたわ……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「ここのお料理、おいしすぎますわ……。
 私のお屋敷の料理人と腕は互角、
 いえ……それ以上かもしれませんわ……」
\endtext
\text
グリエッタは結局料理を完食し、
がっくりと肩を落とした。
\endtext
\text("グリエッタ")
「こ、このままでは……
 とってもまずいことになりますわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「また今日も迷宮内を3周ほど走って、
 食べた分を消費しませんと……」
\endtext
\text("カイム")
「なにをひとりでブツブツ言っておるのだ?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「きゃあっ!?」
\endtext
\text
グリエッタは突然の声に驚き、
椅子から飛び上がった。
\endtext
\text
開けっ放しになっている扉の方に視線を
向けると、そこにはカイムが立っていた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「カ、カイムッ……
 いつからそこにいらしたんですのっ!」
\endtext
\text("カイム")
「おまえが肉の評論をし始めたあたりだな。
 ここでの生活を気に入ってくれている
 ようで何よりだ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「しょ……食事の回数が多い点以外は、
 とても快適ですわ」
\endtext
\text
グリエッタは居住まいを正し、カイムを睨む。
\endtext
\text
しかし目を合わせようとして、
出来ない自分に気付く。
\endtext
\text("グリエッタ")
(あ、うぅっ……
 顔がまともに、見られませんわ……)
\endtext
\text
先日犯されたときに、グリエッタは
カイムの事を男として意識してしまっていた。
\endtext
\text
貴族である自分よりもはるかに力を持った男。
\endtext
\text
自分の初めてをささげた相手。
\endtext
\text
状況がどうであれ、カイムはグリエッタに
とって、特別な存在であった。
\endtext
\text
場所が薄暗い牢でなければ、
グリエッタの頬が薄く上気しているのが
分かったかもしれない。
\endtext
\text("グリエッタ")
「あ、あなた、私を太らせて
 食べようと考えていらっしゃるの?」
\endtext
\text("カイム")
「まさか。まぁ……別の意味で食べようとは
 思っているがな、クックックッ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「うっ……うぅっ……」
\endtext
\text
カイムはこうして数日に一度は、
グリエッタのもとに通っている。
\endtext
\text
その度にこうしてグリエッタをからかい、
その反応を楽しんでいる。
\endtext
\text("カイム")
「それで例の件だが、
 そろそろ気は変わったか?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……あなたのもとで働く気なんて、
 これっぽっちもありませんわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「魔術師の力が欲しいのでしたら、
 ほかを当たってくださらないかしら」
\endtext
\text
そして、カイムはこのように捕虜である
グリエッタを魔王軍に誘ってもいた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「私はリズベルさんを正しい道に
 連れ戻すために来たのですから」
\endtext
\text("グリエッタ")
「その私が魔王軍に
 加わるだなんて、そんな事ありえませんわ」
\endtext
\text
しかしグリエッタはそのことごとくを、
跳ねつける。
\endtext
\text
相手が魔王軍……世の中の平穏を乱す存在
であるから、というのももちろんある。
\endtext
\text
しかしそれ以上に、グリエッタは
カイムという存在がわからなかった。
\endtext
\text
一人旅の中で、グリエッタは多くの人と
接してきた。
\endtext
\text
その経験から、彼女は顔を見れば相手が何を
考えているのか、どういう人間なのか大体
見当がつくようになっていた。
\endtext
\text
しかし……ことカイムに関しては、
それがわからなかった。
\endtext
\text
この男は、底が知れない。
\endtext
\text
そんな相手は、初めてだった。
\endtext
\text("カイム")
「クックックッ、まだあいつのことを
 あきらめていなかったのか」
\endtext
\text("カイム")
「とうに愛想を尽かしたものと
 思っていたが……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……確かに……
 彼女の考えは私にはわかりませんわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「ですがやっぱり……
 このままにしては置けませんわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「だってリズベルさんは、私の……」
\endtext
\text("カイム")
「……ふむ、そうか」
\endtext
\text
カイムは俯きつぶやくグリエッタを見ながら、
短くそう言った。
\endtext
\text
そして頷くと、踵を返す。
\endtext
\text("カイム")
「ではまた来る。この次は色よい返事が
 聞けるものと期待しているぞ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「何度来ても、同じですわ」
\endtext
\text
グリエッタはカイムの背中にそう言った。
\endtext
\text
足音が消えてから、
グリエッタはもう一度つぶやく。
\endtext
\text("グリエッタ")
「そう、同じ……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「私自身が、
 答えを見いだせない限りは……」
\endtext
\text
グリエッタはそう言って、ため息をついた。
\endtext
\text
……………………
\endtext
\text
…………
\endtext
\text
その日の夜。
\endtext
\text
誰もが寝静まる時間に、
グリエッタの元へ近づく人影があった。
\endtext
\text("グリエッタ")
「……今日はやけに、来客が多いですわね」
\endtext
\text
ベッドから身体を起こしたグリエッタは、
牢の中に入ってきた人物に向かって
そう言った。
\endtext
\text("リズベル")
「……カイム様から、たまには顔を見せに
 行って来いと言われまして」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あらそうですの。
 別に待ってなどいませんでしたけど」
\endtext
\text("リズベル")
「私のことを……
 まだご心配くださっているとか」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……あの方から聞きましたの?
 悪いと思っているなら、魔王軍から
 さっさと抜けてくださらないかしら」
\endtext
\text("リズベル")
「いえ、悪いとは微塵も。
 ですから私が魔王軍を抜けることは、
 ありえません」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……それを言いに、ここへ?」
\endtext
\text("リズベル")
「……いいえ。
 これから話すのは、私のただの独り言です」
\endtext
\text
リズベルはそう前置きして、話し始める。
\endtext
\text
彼女の、過去を。
\endtext
\text("リズベル")
「ディアボリカとして生まれ育った
 私の傍らには常に迫害と差別がありました」
\endtext
\text("リズベル")
「人間達に村が襲われ、両親が殺されました。
 ただ、ディアボリカであるというだけで」
\endtext
\text("グリエッタ")
「…………」
\endtext
\text("リズベル")
「私も、その時両親と一緒に弄り殺される
 はずでしたが、幸いなことに私は
 命を救っていただきました」
\endtext
\text("リズベル")
「自らを『魔王』と名乗る、
 ディアボリカに……」
\endtext
\text
リズベルの視線は、
グリエッタを見ているようで、見ていない。
\endtext
\text
グリエッタの瞳の中に、
当時の光景を映し、それを見ているのだ。
\endtext
\text("リズベル")
「このニルトには、ただその種族に生まれた
 というだけで、迫害されている人たちが
 大勢いるんです」
\endtext
\text("リズベル")
「いえ、ニルトだけじゃありません。
 あなたの故郷であるラムシでも、
 大なり小なりそれはあるはず」
\endtext
\text("リズベル")
「私は、そんな種族の違いを乗り越えて、
 みんなが共存できる国を作りたい」
\endtext
\text("リズベル")
「そう思って私は今、
 ここに立っているんです」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……あなたの生い立ちを……
 初めて耳にしましたわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あなたって、学生時代ほとんど、
 話をしませんでしたし……」
\endtext
\text("リズベル")
「誰彼かまわず話して回る内容じゃ
 ありませんからね」
\endtext
\text("グリエッタ")
「それにしたってあなたは……
 秘密が多すぎですわ」
\endtext
\text
リズベルは短く息をつくと、
語るべきことは語ったと言わんばかりに
そのまま牢から出ていこうとする。
\endtext
\text("グリエッタ")
「お待ちになって。
 クソ真面目なあなたが仰るのですから、
 さっきの話は本当なのでしょう」
\endtext
\text("グリエッタ")
「同じ人間として、
 あなたと両親に、謝罪申し上げますわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「で、ですがあなたの目指すものと、
 あの魔王が目指しているものが同一である
 と、本当に言い切れるのかしら?」
\endtext
\text
リズベルはぴたりと足を止め、振り返る。
\endtext
\text("リズベル")
「独り言に聞き耳を立てるなんて、
 グリエッタさんも悪趣味ですね」
\endtext
\text("グリエッタ")
「ひ、人が犯されているところを
 嬉しそうに見ていたあなた程では
 ありませんわ」
\endtext
\text("リズベル")
「すみません。あの高飛車なグリエッタさん
 が顔を真っ赤にして鳴いているのを見ると、
 つい楽しくて見入ってしまいました」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……今気づきましたけど、あなた、
 私にケンカを売ってますの?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「というか、あなたってもっと大人しい印象
 でしたけど、意外とずばずばものを
 言うんですのね」
\endtext
\text("リズベル")
「そのくらい神経が図太くないと
 軍を束ねることなんてできませんよ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「……ものすごく説得力がありますけど、
 先ほどの私の問いに関する答えは
 いただけないのかしら?」
\endtext
\text
グリエッタは薄い笑みを浮かべていた
リズベルに答えを迫る。
\endtext
\text
すると、
スウッとリズベルの顔から笑顔が消えた。
\endtext
\text("リズベル")
「……カイム様は、いい女を手に入れて、
 好き勝手に抱く事しか興味がありません」
\endtext
\text("リズベル")
「ただ……あの方もかつて人間たちに
 肉親や国を奪われた経験を持つ方です」
\endtext
\text("リズベル")
「私には決して話してはくれませんが、
 きっと……秘めた何かはあるのだと、
 そう思っています」
\endtext
\text("グリエッタ")
「…………」
\endtext
\text
リズベルの言葉を、しばし噛みしめるかの
ようにグリエッタは目を閉じ、沈黙した。
\endtext
\text
しかししばらくして、目を開く。
\endtext
\text
そして何かを吹っ切ったような表情で、
口を開いた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「あなたたちが支配している街の様子は、
 きちんと見てきましたわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「たしかに、あなたの目指す夢は、
 実現しつつあるように思える。
 ですが……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「あなたたち、いえ……
 あなたのその夢の実現は、世界全体を敵に
 回しかねない」
\endtext
\text("グリエッタ")
「その事を、
 あなたは分かってらっしゃるの?」
\endtext
\text("リズベル")
「…………」
\endtext
\text
グリエッタの問いに、リズベルは答えない。
\endtext
\text("グリエッタ")
「きっとこれからも、
 多くの国と戦うことになりますわ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「そして結果、多くの血が流れることになる。
 大切な存在を、失ってしまうかもしれない。
 自分の、命すら……」
\endtext
\text("グリエッタ")
「それでも、
 あなたはその夢を叶えようとなさるの?」
\endtext
\text("リズベル")
「……私の両親を殺した人間が、
 言っていました」
\endtext
\text("リズベル")
「彼曰く、『この世界には、
 お前たちのような悪魔の居場所は無い』
 のだそうです」
\endtext
\text
リズベルはクスッと笑った。
\endtext
\text
そして徐々に、その笑みは深くなる。
\endtext
\text("リズベル")
「ふふ、あなたは世界を敵に回しても
 いいのか、とおっしゃいますが……」
\endtext
\text("リズベル")
「元々、
 私たちにとって世界は敵なんですよ」
\endtext
\text("リズベル")
「だからその中で自分たちの居場所を作ろう
 とすれば、その世界と戦うよりほかない」
\endtext
\text
リズベルのその笑みは、
笑みでありながら、物悲しさを湛えていた。
\endtext
\text
しかし同時に、どこか誇らしげでもあった。
\endtext
\text("リズベル")
「その世界の敵の中には、
 あなたも入っているのですか、
 グリエッタさん?」
\endtext
\text("グリエッタ")
「…………」
\endtext
\text
同じ場所で同じ時を過ごした仲間であった
はずのリズベル。
\endtext
\text
しかしもはや、自分と彼女とは、
違う場所に立っているのだとグリエッタは
痛感する。
\endtext
\text
手を伸ばしても届かない場所に、
今のリズベルは立っている。
\endtext
\text
時の流れを感じ、
グリエッタは胸が締め付けられた。
\endtext
\text("グリエッタ")
「私は、
 あなたと戦いたくありませんわ」
\endtext
\text
グリエッタはポツリとそう漏らす。
\endtext
\text
しかしすでに、その場所にリズベルはいない。
\endtext
\text
シンと静まり返った牢の中には、
冷たい闇だけが広がっていた。
\endtext

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@ -0,0 +1,50 @@
\setgamedatatitle("グリエッタ_99")
\text("グリエッタ")
「お待たせしましたわ、カイム様!」
\endtext
\text
グリエッタはカイムの部屋に入ると、
カイムに頭を下げた。
\endtext
\text("カイム")
「ずいぶん遅かったな。
 待ちくたびれたぞ」
\endtext
\text("グリエッタ")
「申し訳ありません。
 リズベルさんと、ちょっと色々と
 ありまして……」
\endtext
\text
と、グリエッタは申し訳なさそうな表情を
浮かべて見せる。
\endtext
\text
が、それも一瞬。
今度は蠱惑的な笑みを浮かべながら、
カイムに歩み寄る。
\endtext
\text("グリエッタ")
「そのお詫びに……今夜はたっぷり、
 奉仕させていただきますわ♪」
\endtext
\text
そう言って、グリエッタは
カイムに抱きつきくちづけを交わす。
\endtext
\text
こうして、二人の夜は更けていくのだった。
\endtext
\dlg("  グリエッタの攻撃力が1%上昇しました。 (最大20%)")
\dlg("グリエッタの攻撃力はこれ以上上昇できません。")

View file

@ -0,0 +1,629 @@
\setgamedatatitle("サファイア_01")
\text
ルザリオ市街にある、豪奢な屋敷。
\endtext
\text
その正門から、
ひとりの少女が共も連れず、出てきた。
\endtext
\text
その身なりからして、
貴族の娘というわけでもない。
\endtext
\text
しかし顔立ちは愛らしく、
すらりと伸びた足は通りすがる人々の
目を引く。
\endtext
\text
彼女は視線を感じ、自覚しながら、
それを悠然と受け止め、
スカートをヒラヒラとなびかせて歩く。
\endtext
\text("")
「で、フィオ。結局誰だったの、あれ?」
\endtext
\text
サファイアは通りを曲がり、
市場のようなところに出たところで、尋ねた。
\endtext
\text
彼女が手にしている、
ぬいぐるみに向かって。
\endtext
\text("フィオ")
「なんだ、サファイア。
 誰かも知らないで殺っちまったのか?」
\endtext
\text
驚くべきことにそのぬいぐるみは
言葉を発するばかりか、返答をした。
\endtext
\text
白と黒の身体。
\endtext
\text
奇妙な仮面をかぶり、その頭から生えた
ふたつの突起は、耳だろうか。
\endtext
\text
片方が食いちぎられたかのように
欠けてはいるもののウサギに見えなくはない。
\endtext
\text("サファイア")
「ん~。だってどうでもよかったんだもん。
 ただ殺せばお金くれるから、
 いつものように殺したけど」
\endtext
\text("フィオ")
「ケケッ、いつものように、な。
 ずっぼしハメてから、事が終わった後で
 ザックリ」
\endtext
\text("フィオ")
「まったく、お前ほど男を油断させる術に
 長けた暗殺者はいねぇだろうよ」
\endtext
\text("フィオ")
「で、あれか? 急に気になったのは
 そいつのアレがよっぽどよかったからか?」
\endtext
\text("サファイア")
「ん~、まぁそれもあるけど。
 なんか気になること言ってなかったっけ?
 依頼人のあいつ」
\endtext
\text
サファイアは露店でリンゴをひとつ買い、
それをかじりながら再び歩く。
\endtext
\text("フィオ")
「お前がつい今しがた殺した貴族は、
 あのルドールの腹心だった男だよ」
\endtext
\text("サファイア")
「あ、そうそう。ルドールっていえば
 この国の偉い人でしょ?
 そんな大物の側近を殺して大丈夫なの?」
\endtext
\text("フィオ")
「ルドールはついこの間、
 魔王軍と戦って死んだぜ」
\endtext
\text("フィオ")
「だからつまり、あれだな」
\endtext
\text("フィオ")
「依頼主であるヴェクサシオンは
 ルドールの部下から自分らに関する
 情報が漏れることを恐れたわけだ」
\endtext
\text("サファイア")
「それって口封じってこと?」
\endtext
\text("フィオ")
「その通りだ。もががっ……おいやめろ。
 もういらないからって食いかけのリンゴを
 俺に食わせるな……って、うまいなこれ」
\endtext
\text
ボリボリ、ゴリゴリと
ぬいぐるみがリンゴをかじる。
\endtext
\text("サファイア")
「ふーん。ま、なんでもいいや。
 お金も手に入ったことだし、
 お洋服買いに行きましょ?」
\endtext
\text("フィオ")
「ほんと、お前は欲望に忠実な奴だよ。
 理由はどうあれ結局お前は、
 ヤレて殺せりゃいいんだからな」
\endtext
\text
フィオはリンゴの芯だけを器用に吐き出すと、
皮肉めいた口調でそう言った。
\endtext
\text
しかし当のサファイアは聞いていない。
\endtext
\text("サファイア")
「ルザリオの服って
 いったいどんなのがあるのかな。
 楽しみっ♪」
\endtext
\text
サファイアが意気揚々と服屋を探して
歩いていた、その時だった。
\endtext
\text
商人の男たちの会話が、
たまたまサファイアの耳に入ってきた。
\endtext
\text("商人A")
「聞いたか? 魔王軍の話」
\endtext
\text("商人B")
「あぁ、聞いたよ。魔王軍を束ねる
 カイムって奴は相当好色な奴らしいぜ」
\endtext
\text("商人B")
「噂じゃこの国の女の守備隊員は
 まとめて手籠めにされたらしい」
\endtext
\text("商人A")
「俺の話はそれじゃないんだけど、
 なんだよそりゃ気になるな、聞かせろよ」
\endtext
\text("商人B")
「ちょっと前に立ち寄った街で仕入れた
 情報なんだけどな」
\endtext
\text("商人B")
「カイムって奴は可愛い女と見りゃ見境なく
 捕らえて犯して、凌辱の限りを尽くして
 自分のものにしちまうらしい」
\endtext
\text("商人B")
「実際、あいつの周りには飛び切り可愛い
 女がごろごろいるみたいだぜ」
\endtext
\text("商人B")
「しかもそいつら全員、
 カイムにぞっこんだそうだ」
\endtext
\text("商人A")
「おいおいおいおい、お前事情通すぎるだろ。
 なんか興奮してきたぞ」
\endtext
\text("商人A")
「それじゃなにか?
 まさかこの国の女王のティーリアも……」
\endtext
\text("商人B")
「もうドロッドロに犯されまくったらしいぜ。
 そして今じゃ、夜は嬉々として自分から
 股を開いているとかいないとか」
\endtext
\text("商人A")
「いいなぁ、俺も同じ男として、
 一度でいいからそういうことしてみてぇな」
\endtext
\text("サファイア")
「……へぇ」
\endtext
\text
商人達の立ち話を盗み聞きしたサファイアは、
短くそうつぶやいた。
\endtext
\text("フィオ")
「今の話の中に、
 そんなに感心する部分があったか?
 ただの頭がおかしい色情狂の話じゃねぇか」
\endtext
\text("サファイア")
「フィオは、魔王軍の……
 そのカイムって男の事、知ってる?」
\endtext
\text("フィオ")
「知ってるぜ。なんでも無類の女好きで、
 手に入れた女はひとり残らず犯しぬき、
 自分の子供を孕ませちまうんだと」
\endtext
\text("フィオ")
「さっきの商人が言ってたことも、
 あながち間違いじゃねぇかもよ」
\endtext
\text("フィオ")
「今や魔王軍のカイムっていえば、
 世界各国、街のあちこちで名前を耳にする
 有名人だからな」
\endtext
\text("サファイア")
「ふぅん、そうなんだ……カイム、ね」
\endtext
\text("フィオ")
「なんだ、興味がわいたのか?
 お前にしちゃ、珍しいな」
\endtext
\text("サファイア")
「べっつに? それより買い物買い物♪
 今日は服だけじゃなくて髪飾りも
 買いたいんだ」
\endtext
\text("フィオ")
「やれやれ、
 お前はほんとに買い物が好きだな」
\endtext
\text("フィオ")
「あれもこれも買って買って買い尽くして、
 そんで綺麗になって……それからどうする
 つもりだ?」
\endtext
\text
フィオは呆れたようにそう言った。
\endtext
\text
するとサファイアは
きょとんとした顔で答える。
\endtext
\text("サファイア")
「綺麗になるっていけないこと?
 綺麗になればみんなが優しくしてくれるし、
 仕事もしやすいじゃない」
\endtext
\text("サファイア")
「仕事がしやすくなればお金も手に入るし、
 お金を使えばお店の人も幸せになれるよ」
\endtext
\text("サファイア")
「少しの人を殺すだけで大勢の人が幸せに
 なれるなら、それっていいことじゃない?」
\endtext
\text("フィオ")
「ギャハハハハッ! お前らしい考えだな。
 でも確かにそりゃそうだ、ハハッ!!」
\endtext
\text
魔王軍の占領下にあるにもかかわらず
活気のある街の中を、
ひとりと1匹が、歩いている。
\endtext
\text
まるで世間話でもするかのように、
背筋が寒くなるようなことを口にしながら。
\endtext
\text("カイム")
「おいリズベル、暇か?」
\endtext
\text
カイムはノックもせずに執務室の扉を開け、
中に入った。
\endtext
\text
執務室の中にはカイムの予想通り
目当てのリズベルがおり、
書類に囲まれている。
\endtext
\text("リズベル")
「……暇に見えますか?」
\endtext
\text("カイム")
「いや、見えんな」
\endtext
\text("リズベル")
「よかったです。腹の立つセリフの1つでも
 その口から飛び出そうものなら、
 全力で殴りに行っていたかもしれません」
\endtext
\text
リズベルはすさまじい速度で
書類にペンを走らせている。
\endtext
\text
その傍らでは、雑用係のゴブリン達が
所狭しと駆け回っている。
\endtext
\text
そのうちの1匹が、
カイムの足に当たって転んでしまう。
\endtext
\text
視線が低いので、
カイムの存在に気付かなかったのだろう。
\endtext
\text("ゴブリンA")
「あうっ、
 あ、す、すみませんっ、すみませんっ!!」
\endtext
\text
バラバラッと書類が、床に散らばってしまう。
\endtext
\text("ゴブリンA")
「は、はうぅっ!?
 カ、カイム様っ!? わ、私……
 なんてとんでもない無礼を……」
\endtext
\text("ゴブリンA")
「も、申し訳ございませんでしたっ!!
 こ、この上はこのお腹を切って、
 詫びとさせて……」
\endtext
\text
チャキッと小さな短剣を抜いて、
それを自らの腹につきたてようとする。
\endtext
\text
それをあわててカイムがとめた。
\endtext
\text("カイム")
「待て待て待て待て。おいリズベル。
 お前はこのゴブリンにどういう教育を
 施しているのだ」
\endtext
\text("リズベル")
「私はなにも。
 ただその子はちょっと責任感が強すぎて
 失敗すると暴走しちゃうだけです」
\endtext
\text("カイム")
「ぶつかったくらいで死なれては困るんだが。
 おい落ち着け。
 書類も拾ってやるからもう泣くな」
\endtext
\text
カイムは散らばった書類を
1枚1枚拾い始める。
\endtext
\text
錯乱していたゴブリンは、それを見て……。
\endtext
\text("ゴブリンA")
「ま、魔王様に私の尻拭いを
 させてしまうなど、末代までの恥っ!!」
\endtext
\text
やはり再度錯乱し始める。
\endtext
\text("ゴブリンA")
「この上は、やはりわが身を絶命たらしめ、
 この忌まわしき家系を断絶……」
\endtext
\text("カイム")
「だからやめろと言っている。
 命を粗末にするな。
 いいか、これは命令だぞ」
\endtext
\text("ゴブリンA")
「は、はうぅっ! で、ですがこのままでは、
 私はご先祖様に顔向けが……」
\endtext
\text("カイム")
「なんてめんどくさいやつだ。
 失敗したと思ったら働いてそれを挽回しろ。
 いいな、わかったか?」
\endtext
\text
カイムはゴブリンの頭をポンッと叩いた。
\endtext
\text("リズベル")
「引きこもりだったカイム様がおっしゃると、
 使い古された言葉にも説得力がありますね」
\endtext
\text("カイム")
「黙れ」
\endtext
\text("ゴブリンA")
「うっ、うっ……カイム様が、
 こんなにも私に優しく……」
\endtext
\text("ゴブリンB")
「よかったな」
\endtext
\text("ゴブリンC")
「また一緒に頑張ろうぜ?」
\endtext
\text
仕事仲間のゴブリン達が、
泣き崩れるゴブリンの肩や背中を励ますよう
に叩いている。
\endtext
\text("カイム")
「うーむ。働き者なのはいいが、
 巻き込まれるとこの上なく疲れる奴だな」
\endtext
\text("リズベル")
「あぁ、そうそう。そういえばカイム様の
 お耳に入れておきたい情報が先ほど
 上がってきてました」
\endtext
\text
リズベルは机の上の書類を1枚、
カイムに差し出した。
\endtext
\text("カイム")
「ん? なんだこれは……」
\endtext
\text("リズベル")
「なんでも最近シュカでは謎の暗殺者が
 暗躍しているのだとか」
\endtext
\text("カイム")
「ふん。
 暗殺者が表だって動くはずがなかろう」
\endtext
\text
カイムは興味なさげに
その報告書を突き返そうとする。
\endtext
\text("リズベル")
「その上その暗殺者は、美少女だとか」
\endtext
\text("カイム")
「それは一大事だな」
\endtext
\text
突き返そうとした報告書に
目を通し始めるカイム。
\endtext
\text("カイム")
「持ち前の美貌とテクニックで
 男を骨抜きにし、事後に暗殺……だと?」
\endtext
\text("カイム")
「たしか俺のコレクションの中にも
 美人暗殺者返り討ち凌辱モノがあったな」
\endtext
\text
カイムは珍しく思案顔でブツブツとつぶやく。
\endtext
\text("カイム")
「ともすれば、そのシチュエーションの
 再現となるのではないか?」
\endtext
\text("カイム")
「おい、その暗殺者に
 俺を襲わせるにはどうすればいい?」
\endtext
\text("リズベル")
「その暗殺者にご自分で依頼なさっては
 どうですか。殺してくれって」
\endtext
\text
カイムの反応は、
ある程度予想の範疇だったのだろう。
\endtext
\text
リズベルは冷たく一蹴した。
\endtext
\text("リズベル")
「まぁ、それはともかくとしてです。
 そんな暗殺者が迷宮に侵入したら、
 一番危険なのは間違いなくカイム様です」
\endtext
\text("カイム")
「あぁ、そうだろうな」
\endtext
\text("リズベル")
「自覚がおありなら、知らない美少女に
 ホイホイついて行ったりしないで下さいね」
\endtext
\text("リズベル")
「そんな間抜けな死に方をしたら、
 お葬式なんて出してあげませんから」
\endtext
\text("リズベル")
「わかりましたね?」
\endtext
\text("カイム")
「う、うむ……分かった」
\endtext
\text
リズベルの迫力に押され、
カイムは強引に頷かされるのだった。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,541 @@
\setgamedatatitle("サファイア_02")
\text
とある町の宿屋。
\endtext
\text
その一室で、
サファイアは男たちに囲まれている。
\endtext
\text("サファイア")
「ふーん、それで?」
\endtext
\text
サファイアは部屋の中央で、
男たちを流し目で見つめている。
\endtext
\text("暗殺者")
「お前には魔王軍のリーダー、
 カイムを暗殺してもらいたい」
\endtext
\text("サファイア")
「わぁお♪ カイムって言ったらボクだって
 知ってるよ?」
\endtext
\text("サファイア")
「ハドスを統一して、敵対していた
 ルザリオまで落とした英雄でしょ?」
\endtext
\text
サファイアはフィオからの受け売りの情報を
口にして、驚いたそぶりを見せた。
\endtext
\text("暗殺者")
「知っているなら話が早い。
 奴は無類の女好きという情報が入っている。
 この任務はお前にうってつけだ」
\endtext
\text("サファイア")
「でもわかんないなぁ。
 なんでヴェクサシオンが魔王軍を
 攻撃するわけ?」
\endtext
\text("暗殺者")
「それについて、お前が知る必要はない。
 お前は依頼通り殺しを遂行し、
 そして我々はそれに対して報酬を約束する」
\endtext
\text("暗殺者")
「それは今までも、これからも変わらない」
\endtext
\text("暗殺者")
「これが前金だ。
 残り半分は暗殺成功後に支払う」
\endtext
\text
暗殺者は懐から、ずっしりと重たい
金貨袋を出し、テーブルに置いた。
\endtext
\text
市井の民が一生かかっても手にすることは
おろか、目にすることもできないほどの大金。
\endtext
\text("サファイア")
「いいよ、わかった。
 その3倍で引き受けるよ。
 あと部下を何人か貸してもらうよ」
\endtext
\text("暗殺者")
「……わかった。ではただちに行動に移れ。
 人員については、必要な時に連絡しろ」
\endtext
\text
暗殺者の男はそういうと、
仲間をつれて部屋を出ていった。
\endtext
\text("サファイア")
「……」
\endtext
\text("フィオ")
「前回の暗殺からまだそう日が経っていない
 ってのに、ずいぶんあっさり引き受けたな」
\endtext
\text
ずっと黙っていたフィオが、
不思議そうにそう尋ねた。
\endtext
\text("サファイア")
「ん~。そうだね。お金もまだまだあるし、
 断ってもよかったんだけど……」
\endtext
\text
サファイアはそこまで口にして、
その桃色のみずみずしい唇を
キュッと釣り上げ、笑う。
\endtext
\text("サファイア")
「一国の女王を自分のものにしちゃうような
 無類の女好きがさ? ボクを見たとき
 なんて思うか、興味ない?」
\endtext
\text("フィオ")
「俺はお前じゃねぇからな。
 そんなことはシラネェ」
\endtext
\text("サファイア")
「そんな男にさぁ、世界一可愛いなんて
 言わせることができたら、
 それって素敵だとは思わない?」
\endtext
\text("フィオ")
「暗殺を引き受ける理由がそれか。
 ヒヒッ、お前も大概、狂ってるねぇ」
\endtext
\text("サファイア")
「ふふっ、悪魔のキミに言われたくないよ」
\endtext
\text
サファイアはそういうと、テーブルの上の
金貨袋をフィオの口の中にねじ込み、
スタスタと部屋を後にした。
\endtext
\text("サファイア")
「それにしても……」
\endtext
\text
依頼を受けて数日後のこと。
\endtext
\text
現在魔王軍が駐屯しているルザリオの街を、
サファイアはフィオとともに歩いている。
\endtext
\text("サファイア")
「ほんとに活気があるよね。
 知らない人に占領下の街なんて言っても、
 たぶん誰も信じないと思うよ」
\endtext
\text("フィオ")
「そうだな。大体敗戦国の街は略奪が
 行われるのが戦場の習いだが、どうやら
 魔王軍のトップが禁じているらしい」
\endtext
\text("サファイア")
「トップって、つまりカイムがってこと?」
\endtext
\text("フィオ")
「ま、そういうことだろうな。
 さっきちらっと見えたが、
 商隊もずいぶん行き来してるみたいだ」
\endtext
\text("フィオ")
「市場での取り引きも活発になって、
 生活しやすくなったって声が多いな」
\endtext
\text
フィオは片耳をピクピクと動かし、
街を行きかう人々の声を拾い上げている。
\endtext
\text("サファイア")
「ふーん。でも魔王軍の大半は
 魔物とかディアボリカなんでしょ?」
\endtext
\text("サファイア")
「そんな軍が居座ってて、
 街の人たちは何とも思わないのかな?」
\endtext
\text("フィオ")
「ま、ディアボリカや魔物に対する差別は
 ここでもあるみたいだけどな。
 でもそういう声はごく少数みたいだぜ?」
\endtext
\text("フィオ")
「まぁ、魔王軍が駐屯してんだし、
 表立って言えないってだけかも
 しれないけどな。ヒヒッ」
\endtext
\text("フィオ")
「おっと、そろそろ目的の場所だぜ?
 手筈はちゃんと覚えてるか?」
\endtext
\text
フィオの言葉に、
サファイアが頬を膨らませ、抗議する。
\endtext
\text("サファイア")
「ボクが考えた作戦だよ?
 間違えるはずがないじゃない」
\endtext
\text("フィオ")
「それならいいけどな。
 今回は相手が相手だからな。
 気を引き締めていけよ」
\endtext
\text("サファイア")
「はいはい、わかってるって。
 ていうかそろそろターゲットがこの道通る
 から、少しの間黙っててくれない?」
\endtext
\text
サファイアはポンッと
フィオの頭を手のひらで叩く。
\endtext
\text
今回は大物相手ということで、
単独ではなく、ヴェクサシオンから
数人の手下を借りての暗殺計画となる。
\endtext
\text("サファイア")
(数日かけて手に入れた情報によれば、
 カイムはこの時間、この先の酒場に
 顔を出すはずなんだよね)
\endtext
\text("サファイア")
(ということは、この道で待っていれば
 必ず接触できる訳だけど……)
\endtext
\text("サファイア")
「あ、きたきた」
\endtext
\text
遠目から、人ごみの中でも
それとわかる人物がこちらに歩いてくる。
\endtext
\text
カイムの赤毛と漆黒の角は、
フィオから真っ先に聞いた特徴だった。
\endtext
\text("サファイア")
(間違いない。カイムだ)
\endtext
\text
サファイアは本人であることを確認すると、
周りに控えていた手下の男たちに
目くばせをする。
\endtext
\text
その男たちは労働者風の身なりをしていて、
顔に傷があったり、入れ墨をしていたりと、
いかにもゴロツキといった感じだった。
\endtext
\text
彼らはサファイアがヴェクサシオンに
特別に注文を付け、用意させた男たちだ。
\endtext
\text("サファイア")
(それじゃ、頼むよ)
\endtext
\text
カイムが目の前を通り過ぎようとした時、
サファイアは男たちに合図をした。
\endtext
\text
するとその直後、
男の一人がサファイアを突き飛ばした。
\endtext
\text("サファイア")
「きゃあっ!」
\endtext
\text("ゴロツキA")
「いってぇなぁ、てめぇっ!!
 どこに目をつけて歩いてやがるっ!!」
\endtext
\text("サファイア")
「あ、う……ご、ごめんなさ……」
\endtext
\text("ゴロツキB")
「おいどうした? なんだこのチビは?」
\endtext
\text("ゴロツキA")
「おう、こいつが俺の身体に
 ぶつかりやがってよ。あぁ、いてぇいてぇ」
\endtext
\text
ガラの悪い男たちは、
立ち上がったサファイアを睨む。
\endtext
\text("サファイア")
「え、あの……
 私そんなに、強くぶつかってなんて……」
\endtext
\text("ゴロツキA")
「うるせぇっ!!
 てめぇ、ここらじゃ見ねぇ顔だな?
 どこから来た?」
\endtext
\text("サファイア")
「わ、私は……その、この前の戦争で
 村がなくなって……この街にお仕事を
 探しに……」
\endtext
\text("ゴロツキB")
「なんだ、難民か?
 じゃあ金は持ってなさそうだな」
\endtext
\text("ゴロツキA")
「金がないんなら、慰謝料は別の形で
 払ってもらうとするか。へへッ……」
\endtext
\text
ゴロツキたちはサファイアを挟む形で
立ちふさがり、下卑た笑いを浮かべている。
\endtext
\text
そしてサファイアに向かって手を伸ばした。
\endtext
\text
その時。
\endtext
\text("カイム")
「そこまでだ。その女の顔は知らずとも、
 俺の顔は知っていよう?」
\endtext
\text("サファイア")
(食いついたっ!)
\endtext
\text("ゴロツキA")
「あぁ? なんだてめぇは?
 ディアボリカがいったい……」
\endtext
\text("ゴロツキB")
「お、おい待てっ!! 待て待て待てっ!!」
\endtext
\text
カイムを睨もうとした相棒を手で制し、
男は後ずさりする。
\endtext
\text("ゴロツキB")
「こ、これはこれは……
 魔王軍のカイム様じゃありませんか」
\endtext
\text("ゴロツキA")
「カ、カイムッ!?
 え、何でこんなところに……
 そんな話聞いてねぇぞ」
\endtext
\text
ゴロツキたちは引きつった笑みを浮かべ、
歩み寄ってくるカイムに対し、
ジリジリと距離をとる。
\endtext
\text("カイム")
「俺の統治する街で、勝手な狼藉は許さん。
 死にたくなければ、即刻立ち去るんだな」
\endtext
\text("ゴロツキB")
「ひぃっ!」
\endtext
\text("ゴロツキA")
「し、失礼しましたっ!!」
\endtext
\text
男たちは転がるように走り去り、
あっという間に見えなくなった。
\endtext
\text("カイム")
「ふん、ゴミどもめ。この街も一度
 徹底した掃除をせねばならんな」
\endtext
\text("サファイア")
「あ、あの……その、えっと……。
 た、助けていただいて、
 ありがとうございました……」
\endtext
\text("カイム")
「別に礼を言われたいがために
 助けたわけではない」
\endtext
\text("カイム")
「そんなことよりおまえ、難民なのか?」
\endtext
\text
カイムがサファイアの身体を、
足元から頭まで、ちらりと盗み見る。
\endtext
\text("サファイア")
(ふふ、気になってる気になってる)
\endtext
\text("サファイア")
「は、はい。エズオーンの近くの村に
 住んでいたのですが、
 戦争で焼かれてしまって……」
\endtext
\text("サファイア")
「そ、それでルザリオに行けばお仕事が
 何か見つかるかもしれないと思って
 きたんですが……」
\endtext
\text("カイム")
「ふむ、そうか。よし」
\endtext
\text
カイムは一度大きく頷くと、
サファイアに向かって手招きをした。
\endtext
\text("カイム")
「仕事がないならついてこい。
 特別に俺が仕事を紹介してやる」
\endtext
\text
そして元来た方へと歩きはじめる。
\endtext
\text("サファイア")
(さすが女好き。ここでこんないい女を
 手放したりできないよねぇ)
\endtext
\text("サファイア")
「え、あ……で、でも……」
\endtext
\text("カイム")
「別に取って喰いはしない。
 それとも、戦争を引き起こした
 軍の世話にはなりたくないか?」
\endtext
\text("サファイア")
(取って喰う気満々なくせに♪)
\endtext
\text("サファイア")
(ま、悪いやつじゃないみたいだけど、
 いまのところ、下心丸見えの馬鹿な男に
 しか見えないなぁ)
\endtext
\text("サファイア")
「あ、いえ……そういうわけでは……」
\endtext
\text("カイム")
「ならばついてこい」
\endtext
\text("サファイア")
「は、はい……。
 よ、よろしくお願いいたします」
\endtext
\text
サファイアは心の中でカイムを評しながら、
後についていくのだった。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,673 @@
\setgamedatatitle("サファイア_03")
\text
サファイアが魔王軍に保護され、
数日が経過した。
\endtext
\text
サファイアは下働きとして雇われ、
カイムの身の回りの世話をしていた。
\endtext
\text
今日も今日とて、
カイムが脱ぎ捨てた服を集め、
洗濯かごに入れていく。
\endtext
\text("サファイア")
「まさか、このボクが洗濯なんてする日が
 こようとはね」
\endtext
\text
若干の溜息交じりに、サファイアがぼやいた。
\endtext
\text
今この場に、カイムはいない。
\endtext
\text
たった今ティーリアのもとに行くと言い残し、
出て行き、サファイアがそれを見送った。
\endtext
\text("フィオ")
「俺はおまえが掃除洗濯、
 料理までできることの方が驚きだぜ」
\endtext
\text("サファイア")
「まぁ、昔取った杵柄って奴だね。
 娼館にいたころは礼儀作法から始まって、
 何から何まで徹底的に教え込まれたからね」
\endtext
\text("サファイア")
「その時は、それに何の意味があるのか
 わからずに覚えてたけど……」
\endtext
\text("サファイア")
「そのおかげで、貴族の相手をする時は
 助かってるし、まったくこの世の中は
 なにが幸いするかわからないよね」
\endtext
\text("フィオ")
「でも肝心のお手付きはまだだな。
 お前、もしかして女として見られてねぇん
 じゃねぇか?」
\endtext
\text("サファイア")
「うっ……うるさいな。
 きっと先約があったんでしょ?」
\endtext
\text("サファイア")
「今日だって前々から元女王のところに
 行くって約束してたみたいだし」
\endtext
\text("サファイア")
「それにね、あの目は絶対ボクの事
 狙ってる目だったよ」
\endtext
\text
サファイアは
カイムと初めて会った時のことを思い出す。
\endtext
\text("サファイア")
(そうだよ。あいつはあの時、ボクの身体を
 舐めるように見てたんだから)
\endtext
\text("フィオ")
「でもまぁ、お手付きがないんじゃ、
 いつもの手は使えねぇな」
\endtext
\text("フィオ")
「やっぱ、あの手を使うのか?」
\endtext
\text("サファイア")
「……まぁ、そのためにあいつらに
 人を集めさせたわけだからね」
\endtext
\text
サファイアは服を拾い集めた後、
ベッドのシーツを取り換える。
\endtext
\text("サファイア")
「昨日も、ここに誰か女の人がいたんだ」
\endtext
\text
シーツには、所々染みがついている。
\endtext
\text
激しい情交を思わせるその跡をみて、
しかしサファイアは眉一つ動かさない。
\endtext
\text
これがリズベルであれば、
顔を真っ赤にして動揺しただろう。
\endtext
\text("サファイア")
「それにしても、毎晩毎晩女を
 とっかえひっかえ、よくやるよ」
\endtext
\text("サファイア")
「あれじゃただの色狂いでしょ。
 ほんっと、馬鹿じゃないのって感じ」
\endtext
\text("フィオ")
「なんだ、今をときめく話題の人に
 相手してもらえないからってキレてんのか」
\endtext
\text("サファイア")
「そういうわけじゃないよ。
 これでも一応、占領後の街とか見て
 カイムを少しは評価してたんだよね」
\endtext
\text("サファイア")
「略奪とかないし、女の人は売られたり
 しないし。貧しい人には食料が配給されて、
 生活は楽になってるっていうし」
\endtext
\text("サファイア")
「でも実際は……あれってカイムの参謀の
 リズベルって女が指示してやらせてること
 でしょ?」
\endtext
\text("フィオ")
「まぁ、そうみたいだな」
\endtext
\text("サファイア")
「噂のカイムは毎日毎日女のところに
 引きこもって、遊んでるだけじゃないか」
\endtext
\text("サファイア")
「もう幻滅。まぁ……所詮英雄なんて
 言われる人の現実は、
 そういうものなのかもしれないけどね」
\endtext
\text
シーツを取り換えると、
サファイアはひとつ大きく息をついた。
\endtext
\text("サファイア")
「というわけで、今夜、決行する」
\endtext
\text("フィオ")
「ほんとに殺すのか?」
\endtext
\text("サファイア")
「もう興味も失せたからね。
 観察が終わったらあとはいつも通り、
 殺すだけだよ」
\endtext
\text
明日の天気の話をする時のような、
無感動なその表情。
\endtext
\text
サファイアは洗濯かごを持ち、部屋を出た。
\endtext
\text
……………………
\endtext
\text
…………
\endtext
\text
その日の夜。
\endtext
\text
サファイアは警備の目をかいくぐり、
迷宮内に暗殺者を呼び込んだ。
\endtext
\text
無類の堅牢性を誇る迷宮も、
内通者の手引きがあれば、いとも簡単に
中枢部まで侵入を許してしまう。
\endtext
\text("サファイア")
(中の様子を確かめる。
 キミたちは部屋の外で待機)
\endtext
\text
サファイアは暗殺者同士で使われるハンド
サインを用いて仲間にそう指示をする。
\endtext
\text
音もなく解錠し、
扉を開けて部屋の中に入るサファイア。
\endtext
\text("カイム")
「……すぅ、すぅ……」
\endtext
\text
そこには魔王カイムがいて、
ベッドの上で大の字になっている。
\endtext
\text("サファイア")
(珍しく、今日はひとりなんだね。
 女がいたら一緒に殺さなきゃ
 いけなかったから、楽で助かる)
\endtext
\text
サファイアは猫のように、
足音を消してベッドに近づいた。
\endtext
\text
そして、見下ろす。
\endtext
\text("サファイア")
(……よく寝てる。きっとこんなところまで
 敵が来たことって、ないんだろうね。
 そして来るとも、思ってない)
\endtext
\text("サファイア")
(それにしても、間抜けな寝顔。
 これなら手下を使うまでもないか)
\endtext
\text
サファイアは腰に差した短剣に
手を伸ばそうとした。
\endtext
\text
その時。
\endtext
\text("カイム")
「……ん?」
\endtext
\text
カイムが、目を覚ました。
\endtext
\text("サファイア")
(ようやく起きたか。でも、もう遅いよ)
\endtext
\text("カイム")
「お前は……サファイアか?
 どうしてお前がここに?」
\endtext
\text("サファイア")
「それはね」
\endtext
\text
サファイアが短剣を抜こうとした。
\endtext
\text
しかしそれより早く、カイムが動いた。
\endtext
\text("カイム")
「誰だ貴様らっ!!」
\endtext
\text("サファイア")
「へ?」
\endtext
\text
カイムはガバッと起き上がり、
サファイアを抱き寄せた。
\endtext
\text
そして傍らにかけてあった剣を抜き放つと、
扉の前に立つ複数の人影に切っ先を向けた。
\endtext
\text("カイム")
「サファイア、おまえは隠れていろっ!」
\endtext
\text("サファイア")
「きゃっ!」
\endtext
\text
サファイアをベッドの方へと突き飛ばすと、
彼女を守るように、両手を広げた。
\endtext
\text
そんなカイムに、暗殺者は襲いかかる。
\endtext
\text("暗殺者A")
「はぁっ!」
\endtext
\text("カイム")
「くっ!」
\endtext
\text
カイムは手にした剣で、短剣をはじく。
\endtext
\text("暗殺者B")
「手数で押せ。奴は剣の扱いは
 不慣れなはずだ」
\endtext
\text("カイム")
「ぬぅっ、くそっ……魔法を使う余裕が……」
\endtext
\text
カイムは繰り出される手練れの刃を、
剣と体術で弾き、かわす。
\endtext
\text
しかし多勢に無勢。
\endtext
\text
致命傷は免れてはいるものの、
時間が経つごとにその身体に切り傷が
生まれていく。
\endtext
\text
カイムの特殊能力である『魔力独占』は、
一対一でこそ力を発揮する。
\endtext
\text
そのため、複数人数を同時に相手取る
この状況では発動することが難しいのだ。
\endtext
\text("カイム")
「はぁ、はぁ……その装束……
 ヴェクサシオン暗殺者か?
 よくここまで侵入してこれたな」
\endtext
\text
カイムは息を切らしながら、
暗殺者の正体を見破る。
\endtext
\text("カイム")
「だが、俺の首は……まだ誰にもやれん。
 やらなくてはならないことが、ガハッ……
 まだまだ、残って……いるからな……」
\endtext
\text("カイム")
「い、いいか、サファイア。
 絶対にそこから出てくるなよ」
\endtext
\text("カイム")
「大丈夫だ。おまえのことは、
 絶対に……俺が守って、やる……」
\endtext
\text("サファイア")
「……」
\endtext
\text
血を失いすぎたのか、
震える腕でカイムは剣を握りなおす。
\endtext
\text
その守ろうとしている者が、自分の命を
狙っているなどとは、寸分も疑っていない。
\endtext
\text("カイム")
「ぐっ、ぁぁぁあああっ!!
 どうしたっ!
 その程度ではこの俺は倒せんぞっ!!」
\endtext
\text("暗殺者B")
「……こいつ、強いぞ」
\endtext
\text("暗殺者A")
「腐っても総大将なだけはあるということか」
\endtext
\text
剣劇が響き始めてから、1分が経過した。
\endtext
\text
扉の向こう側から、
複数の足音と声が聞こえてきた。
\endtext
\text("カイム")
「クククッ、残念、時間切れだな。
 今すぐ逃げないと、
 ここに俺の手下どもが押し寄せてくるぞ」
\endtext
\text("暗殺者B")
「……まずいな」
\endtext
\text("暗殺者A")
「何をしている。
 早く殺せ!」
\endtext
\text
暗殺者の一人が、そう叫んだ。
\endtext
\text
カイムには、それが隣にいる
仲間の暗殺者への檄に聞こえただろう。
\endtext
\text
しかし……暗殺者は、もうひとりいる。
\endtext
\text
カイムの、背後に。
\endtext
\text("サファイア")
「分かってるよ。言われなくても」
\endtext
\text
サファイアは立ち上がり、
カイムの背後に一足飛びに近づいた。
\endtext
\text
必殺の間合い。
\endtext
\text
いかに手練れであろうとも、
次の刃は防げない。
\endtext
\text
剣術が未熟なカイムに、
それが避けられようはずがない。
\endtext
\text("カイム")
「な、に?」
\endtext
\text
カイムが振り返った。
\endtext
\text
一瞬だけ、
サファイアとカイムの、目と目が合った。
\endtext
\text("サファイア")
「まぁ、そういうことなんだよね」
\endtext
\text
サファイアはつまらなそうに言うと同時に、
振り返ったカイムの腹を刺した。
\endtext
\text
鋭利な短剣は、無防備なカイムの腹に
突き刺さり、血をにじませた。
\endtext
\text("カイム")
「んぐっ、あっ……」
\endtext
\text("サファイア")
「それじゃ、さよなら……英雄さん」
\endtext
\text
ガクッと膝をついたカイム。
\endtext
\text
手からは力が失われ、剣が床に落ちた。
\endtext
\text
サファイアは血だまりの中に倒れこんだ
カイムを一度だけ振り返り見たが、
すぐに部屋から仲間とともに逃げ出した。
\endtext
\text
その十数秒後。
\endtext
\text("リズベル")
「カイム様っ!?」
\endtext
\text
入れ替わりで、
兵を伴ったリズベルが寝室に飛び込んできた。
\endtext
\text("カイム")
「お、おお……リズベル、か……」
\endtext
\text("リズベル")
「動かないでくださいっ!!
 お、お腹に……短剣? どうしてこんなっ、
 だ、誰がこんなことっ!!」
\endtext
\text("カイム")
「こ、この俺としたことが……
 して、やられた」
\endtext
\text("カイム")
「まさかサファイアが、
 暗殺者の一味だったとは……」
\endtext
\text("リズベル")
「サファイアっ!? カイム様が
 連れてこられた、あの子ですか?」
\endtext
\text("カイム")
「ど、どうやら……中から、
 暗殺者の手引きを、したようだな……
 はは、綺麗な花には棘があるというが……」
\endtext
\text("リズベル")
「傷が深すぎる……でも……急所は、
 逸れてる?
 こ、これなら何とか……」
\endtext
\text("リズベル")
「すみませんっ! 今すぐティーリアさんを
 呼んでくださいっ!!」
\endtext
\text
リズベルは部下にそう命じ、
自らは魔法を唱え、止血をしていく。
\endtext
\text("リズベル")
「ティーリアさんと私ですぐに治療すれば、
 まだ……可能性が」
\endtext
\text("カイム")
「そういえばおまえには、いつもの棘が
 ないな」
\endtext
\text("リズベル")
「……今すぐこの場で、
 見殺しにしてもいいんですよ」
\endtext
\text("リズベル")
「というか少し黙っててくださいっ!!
 カイム様、今死にそうなんですよっ!?
 わかってるんですかっ!?」
\endtext
\text("カイム")
「フフッ、棘は、あったな。
 か、可愛いやつ……め……」
\endtext
\text
カイムはそう言って笑うと、
ガクリと後ろにこうべを垂れた。
\endtext
\text("リズベル")
「死んでは……いないですね。
 そうそう、そうやって黙っててください」
\endtext
\text("リズベル")
「まったく、もうっ……。
 いつもいつも、心配ばっかりさせてっ!」
\endtext
\text
その後、カイムはリズベルとティーリアの
献身的な治療を受け、
何とか一命を取り留めた。
\endtext
\text
この日を境に、迷宮内部は一層の警備強化が
施されることになった。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,428 @@
\setgamedatatitle("サファイア_04")
\text
とある町の宿屋。
\endtext
\text
その一室のベッドに、
サファイアは腰かけている。
\endtext
\text
そしてつまらなそうな顔で、
窓の外を眺めている。
\endtext
\text
しかし、室内にはサファイアだけでなく
複数の男がおり、扉を塞いでいる。
\endtext
\text("暗殺者")
「先ほど、本部からの使者が到着した」
\endtext
\text
複数の男の内の一人が、口を開いた。
\endtext
\text("サファイア")
「あっ、そう」
\endtext
\text
サファイアは興味なさそうにつぶやく。
\endtext
\text("暗殺者")
「……確認したところ、
 やはりカイムは生きていた」
\endtext
\text("暗殺者")
「なぜお前はあの時、
 確実にとどめを刺さなかった?」
\endtext
\text("暗殺者")
「……お前になら容易いことのはずだ」
\endtext
\text("サファイア")
「……」
\endtext
\text
男の質問に、しかしサファイアは答えない。
\endtext
\text
答えたくないのか、それとも、
サファイア自身答えを持っていないのか。
\endtext
\text
その表情からは、判別がつかない。
\endtext
\text("暗殺者")
「ふん、まぁいい。お前は暗殺に失敗した。
 どういう理由があろうとも、それは事実」
\endtext
\text("暗殺者")
「お前には、相応の罰が下される」
\endtext
\text("サファイア")
「罰って、どんな?」
\endtext
\text("暗殺者")
「……ククッ、さしものお前でも、
 罰と聞いては無視はできんか」
\endtext
\text
暗殺者の男は、氷のように冷め切っていた
顔をわずかに笑みの形にゆがめた。
\endtext
\text("暗殺者")
「この暗殺にかかった費用、
 そして失った人員。どれも組織にとっては
 莫大な損失だ」
\endtext
\text("暗殺者")
「おそらく、お前は売られるだろうな。
 どこかの高級娼館で、
 男の相手をすることになるだろう」
\endtext
\text("サファイア")
「損失の穴埋めってことね。
 でも、ボクがそんなの聞かされて、
 はいそうですか、って言うとおもう?」
\endtext
\text("暗殺者")
「その場合は、逃げ出せないように
 手足の腱を切る」
\endtext
\text("暗殺者")
「必要であればその目もつぶして、
 その首に鎖を巻いてもいい」
\endtext
\text("暗殺者")
「これまで……裏切り者や失敗した者たちに
 そうしてきたように、な」
\endtext
\text
男の目からは、一寸の迷いも感じられない。
\endtext
\text
この男がそうすると言ったなら、
それは必ず実行されるのだろう。
\endtext
\text
ここにはサファイアひとりしかいない。
\endtext
\text
いや、どこに行っても、サファイアはひとり。
\endtext
\text
この場で抵抗したとしても、
ものの数秒で取り押さえられてしまうだろう。
\endtext
\text("サファイア")
「ふーん。でも困るなぁ。
 ボク、以前娼館にいたんだけど、
 あそこの空気、好きじゃないんだよね」
\endtext
\text("暗殺者")
「お前の好みは問題ではない」
\endtext
\text("サファイア")
「ねぇ、お願いだからもう1回だけ、
 ボクにチャンスをくれない?」
\endtext
\text
サファイアは立ち上がると、手を広げ
丸腰であることをその場にいる男たち全員に
アピールする。
\endtext
\text("サファイア")
「もちろん、ただでとは言わないよ。
 ボクの身体、一晩好きにさせてあげる」
\endtext
\text("サファイア")
「ボクのことが怖かったら、
 縛ってもいいよ?
 ボク、そういうプレイも好きだからさ」
\endtext
\text("暗殺者")
「……」
\endtext
\text
男たちが、サファイアの身体を舐めるような
じっとりとした目で見つめる。
\endtext
\text("サファイア")
「殴ったり切ったり以外なら、
 ボクなんだってするよ?
 そういう調教、受けてきてるから♪」
\endtext
\text
サファイアが男たちに一歩近づく。
\endtext
\text("暗殺者")
「待て、止まれ」
\endtext
\text("サファイア")
「あん、なぁに?
 ボクもう、その気になってるんだけど?」
\endtext
\text
しなを作り、男を見上げるサファイア。
\endtext
\text
今まで貴族相手に身体を開いていただけ
あって、その色香は、本物だった。
\endtext
\text
現に、すでにこの場にいる男たちの
ほとんどが、その股間を膨らませている。
\endtext
\text("暗殺者")
「……」
\endtext
\text("サファイア")
「ねぇ、早くしようよ。キミたちだって、
 したくてしたくてたまらないんでしょ?」
\endtext
\text("サファイア")
「ボクなら、そこらの娼婦を抱くより
 気持ちいいこと、してあげられるよ?」
\endtext
\text
サファイアはスカートをつまみ、
白い足を露わにする。
\endtext
\text
ゆっくりゆっくりとスカートを持ち上げ、
視線が集中したところで、パッと手を放した。
\endtext
\text("サファイア")
「ボクを抱きたかったら、
 もう一度チャンスをちょうだい」
\endtext
\text("サファイア")
「くれないっていうなら、
 この場で舌をかんで死ぬ。
 娼館に戻るなんて、まっぴらだからね」
\endtext
\text("サファイア")
「さあ、どうするの?」
\endtext
\text("暗殺者")
「その場で服を脱いで、股を開け。
 そして自分で穴を広げて、
 中に何も隠していないことを証明しろ」
\endtext
\text("サファイア")
「もう……用心深いんだから♪
 でも……いいよ? キミがそうしろって
 いうなら、そうしてあげる♪」
\endtext
\text
サファイアはそう言って頷くと、
男に命令されるがままに服を脱いだ。
\endtext
\text
……………………
\endtext
\text
…………
\endtext
\text
そして……あくる日。
\endtext
\text
サファイアはひとり、
迷宮の入り口に立っている。
\endtext
\text("サファイア")
「はぁ……結局、一睡もできなかったよ」
\endtext
\text("フィオ")
「……」
\endtext
\text("サファイア")
「……なに、フィオ。
 キミっていつもおしゃべりなくせに、
 本当に言いたいことって隠す癖があるよね」
\endtext
\text("フィオ")
「どうして殺さなかったんだ?」
\endtext
\text("サファイア")
「どっちを?
 カイム? それともあいつらのこと?」
\endtext
\text("フィオ")
「カイムのことだ」
\endtext
\text("サファイア")
「……わかんない」
\endtext
\text
風になびく髪を撫でつけながら、
サファイアはため息をつく。
\endtext
\text("サファイア")
「ただの馬鹿だと思ってたけど、あの時
 あいつは本気でボクを守ろうとしてた」
\endtext
\text("サファイア")
「たぶん……だから混乱してたんだと思う。
 今までそんなやつ、
 ボクの周りにいなかったから」
\endtext
\text("フィオ")
「そうか。
 それで、今からそいつを殺しに行くわけか」
\endtext
\text("サファイア")
「うん。いまはもう、迷ってないから。
 あいつを殺して、
 ボクはいつも通りの生活に、戻るんだ」
\endtext
\text("フィオ")
「このまま逃げるって手もあるんだぜ?」
\endtext
\text
フィオの冗談なのか本気なのかわからない
言葉。
\endtext
\text
サファイアは迷った末に冗談と判断し、笑う。
\endtext
\text("サファイア")
「冗談言わないでよ。
 あいつらからは、逃げられない。
 そんなことフィオだって知ってるでしょ?」
\endtext
\text("サファイア")
「それに、暗殺者になるって決めたのは、
 ボク自身だから」
\endtext
\text("サファイア")
「ボクは頭が悪くてめんどくさがり屋だけど、
 自分で決めたことからは、逃げたくない」
\endtext
\text("サファイア")
「ボクは望んで暗殺者になった。
 殺すことに快感すら、感じてる人間なんだ」
\endtext
\text
サファイアはそう言うと、
フィオの口に手を突っ込む。
\endtext
\text("フィオ")
「ぐえ」
\endtext
\text
そして子供の身の丈ほどはあろうかという、
長大な鋏を取り出した。
\endtext
\text("サファイア")
「そう、ボクは暗殺者だ」
\endtext
\text("サファイア")
「一度そう決めたら、
 ボクは死ぬまで暗殺者であり続けるし、
 そうでなくちゃいけないとも思う」
\endtext
\text("フィオ")
「でも、お前は負けるぜ?
 何となく、そんな気がする。
 お前……殺されるぜ?」
\endtext
\text("サファイア")
「そうなったら……新しい契約者を探しなよ。
 ディーモン・フィオゴムラット」
\endtext
\text
朝日が迷宮の入口を照らし出す。
\endtext
\text
その光に背を押されるようにして、
サファイアは迷宮内部へと、足を踏み入れた。
\endtext

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@ -0,0 +1,50 @@
\setgamedatatitle("サファイア_99")
\text("カイム")
「ちょうどいいところにいたな、
 探していたんだ」
\endtext
\text
カイムに声を掛けられて、サファイアが
振り向いた。
\endtext
\text("サファイア")
「あ、カイム♪
 どうしたの、仕事の話とか…かな?」
\endtext
\text
そう言って首を傾げるサファイア。
\endtext
\text("カイム")
「そんなはずがなかろう。
 お前のことを抱きたくなったのでな、
 ずっと探していたのだ」
\endtext
\text
ニヤリと笑いながら、カイムはサファイアの
腰に手を回し抱き寄せる。
\endtext
\text
すると、サファイアもカイムに身を任せ
ながら微笑む。
\endtext
\text("サファイア")
「ふふ、本当にカイムって好きだよね。
 ……まぁもちろん、ボクも嫌いじゃない
 けど♪」
\endtext
\text
そして、二人は寝室へと向かうのだった。
\endtext
\dlg("  サファイアの攻撃力が1%上昇しました。 (最大20%)")
\dlg("サファイアの攻撃力はこれ以上上昇できません。")

View file

@ -0,0 +1,382 @@
\setgamedatatitle("ジェシカ_01")
\text
ザクザクと、
雪を踏みしめながら歩く女性がひとり。
\endtext
\text
決して治安がいいとは言えないキロスの地で
女性一人が旅をするのは、自殺行為に等しい。
\endtext
\text
しかし彼女が胸に提げた金色に輝く首飾り、
聖印が、それを可能たらしめている。
\endtext
\text("")
「キロスに入ったはいいけど、
 本当に雪ばかりね」
\endtext
\text
聖印の形からラスファ教の聖職者、しかも
それなりに高い位に就いていると判断できる
この女性。
\endtext
\text
風に揺れる美しい黒髪を鬱陶しげに払い、
ため息をついた。
\endtext
\text("")
「デンフロスクまでは
 1週間といったところかしら」
\endtext
\text
黒髪の女性は荷物から地図を取り出し、
なまめかしく朱色に濡れた唇でつぶやく。
\endtext
\text
そんななんでもない仕草が一枚の宗教絵に
思えるほど、彼女の美貌、まとう空気は
異彩を放っている。
\endtext
\text("")
「途中のカザトリアで宿をとって
 休憩する必要があるか……」
\endtext
\text("")
「それにしても、魔物の数が本当に多く
 なってるわね。ここに来るまで、何匹の
 魔物を倒してきたかわからないくらい」
\endtext
\text
その口調、表情からは、恐れは感じられない。
\endtext
\text
むしろ喜色に満ちているようにすら思える。
\endtext
\text("")
「ひ、ひぃぃぃいいいっ!?」
\endtext
\text
突如、彼女の前方から男の悲鳴が
聞こえてきた。
\endtext
\text
地図をしまい、目を向けると、男が肩口を
手で押さえながらこちらへと走ってくるのが
見える。
\endtext
\text("傷ついた男")
「し、司祭様でいらっしゃいますかっ!?
 ど、どどどうか御助けをっ!!」
\endtext
\text
男は女性の足元に倒れこみ、
胸元から聖印を取り出した。
\endtext
\text("傷ついた男")
「わ、私はウィンガ教の信徒ですっ!!
 商売の途中で商品が暴れて……」
\endtext
\text
男がすべてを説明し終える前に、その商品が
この場へと姿を現す。
\endtext
\text("ディアボリカの男たち")
「逃げても無駄だっ!!
 絶対にぶっ殺してやるっ!!」
\endtext
\text
断ち切られたらしい鎖を引きずりながら、
一人、二人、三人、手に手に武器を持って
集まってくる。
\endtext
\text("")
「いかにも私は司祭だが、
 貴様は奴隷商人か?」
\endtext
\text
ジェシカは傷ついた男を見下ろすと、
そう尋ねた。
\endtext
\text("傷ついた男")
「は、はひっ! シュカから奴隷を運んで、
 キロスに売りさばくのが私の仕事で……」
\endtext
\text("")
「なるほどな、それで途中で反乱にあったと、
 そういうわけか」
\endtext
\text
司祭の女性は荷物をまさぐりながら、
得心顔でうなづく。
\endtext
\text
取り出したのは、アーバレストと言われる
大きな弩だった。
\endtext
\text
それに矢を番えながら、
今度は周囲を取り囲んだディアボリカの
男たちを見据える。
\endtext
\text("ジェシカ")
「私はラスファ教司祭にして執行者。
 ジェシカ=プルエネである」
\endtext
\text("ディアボリカの男たち")
「ラ、ラスファの……し、執行者っ!?」
\endtext
\text
その名を聞いただけで、
男たちの顔に戦慄が走る。
\endtext
\text
執行者とは、教義の体現者である。
\endtext
\text
教会から大きな権限を与えられている彼らは、
自らの判断でラスファの教義に反する存在を
罰することが許されている。
\endtext
\text
その権限や力はこの大陸全土に及び、領主や
貴族ですら恐れるといわれている。
\endtext
\text("ジェシカ")
「貴様らは主であるこの男に危害を加え、
 殺害し、逃亡を図ろうとしている。
 それに相違ないか?」
\endtext
\text("ディアボリカの男たち")
「そ、それはっ……でもその男が俺たちを
 まともに扱わないからだっ!!」
\endtext
\text("ディアボリカの男たち")
「そうだそうだっ! シュカからここまで、
 満足に食事ももらってないんだぞっ!!」
\endtext
\text("傷ついた男")
「ワシの奴隷をワシがどう扱おうが
 ワシの勝手だろうっ!!」
\endtext
\text("ジェシカ")
「その通りだ。奴隷は個人の所有物。
 持ち主がどう扱おうと、
 それは持ち主の自由だ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「武器を捨て、互いの鎖を首に巻け」
\endtext
\text
ジェシカはそういって、アーバレストを
男たちに向ける。
\endtext
\text("ディアボリカの男たち")
「なっ……そ、そんな薄汚いやつの肩を
 持つなんて、それでも司祭かっ!!」
\endtext
\text
それだけで、取り囲む男たちが後ずさる。
\endtext
\text("傷ついた男")
「ははっ、ふははははっ!
 さぁ、おとなしく鎖につながれっ!!
 執行者様に逆らう気かっ!!」
\endtext
\text("ディアボリカの男たち")
「くっ……」
\endtext
\text("ジェシカ")
「ラスファの教義、貴様らも知っていよう?」
\endtext
\text("ディアボリカの男たち")
「せ、世界の……純化……」
\endtext
\text("ジェシカ")
「その通りだ。この世に安定と
 平穏をもたらさんがため、混沌を忌み、
 憎み、排斥せん」
\endtext
\text("ジェシカ")
「貴様らは奴隷。鎖につながれてこその奴隷。
 その摂理を乱す者には……
 等しく死んでもらうことになる」
\endtext
\text
アーバレストに番えられた矢。
\endtext
\text
そこには嘘偽りない
純粋な殺意が込められている。
\endtext
\text
それを感じ取った男たちは、
手にした武器を落とした。
\endtext
\text("傷ついた男")
「ひひひっ、よ~し、それでいいっ!!
 貴様らは奴隷なんだっ!
 ワシが売り払うまで大人しくしていろっ!」
\endtext
\text
奴隷商人は喜色満面に立ち上がると、
ジェシカに何度も頭を下げた。
\endtext
\text("傷ついた男")
「どうもありがとうございます司祭様っ!
 これは少ないですが……」
\endtext
\text
そして懐から小粒の金を取り出すと、
それをジェシカに握らせようとした。
\endtext
\text
……が。
\endtext
\text
ジェシカが手にした弩が、
今度は奴隷商人に向けられた。
\endtext
\text("傷ついた男")
「あひっ!?」
\endtext
\text
そして引き金が引かれた。
\endtext
\text
頭部に矢を受けた奴隷商人は、
訳がわからないといった表情を浮かべたまま、
絶命した。
\endtext
\text("ディアボリカの男たち")
「ひっ!?」
\endtext
\text
死んだ主を見て、男たちは息をのむ。
\endtext
\text("ジェシカ")
「混沌を御せぬものに
 ウィンガの信徒たる資格はない」
\endtext
\text
彼女が信奉するラスファ教。
\endtext
\text
それはここキロス地方で信仰されている
ウィンガ教のもとになった宗教である。
\endtext
\text
ゆえにラスファから派生した
ウィンガの教義も、そう差異はない。
\endtext
\text
混沌に属するものの滅殺。
\endtext
\text
安定と平穏の維持こそが
ラスファとウィンガの法である。
\endtext
\text("ジェシカ")
「貴様らは逃亡を企てた奴隷として、
 この先のカザトリアの町の支配者に
 引き渡す」
\endtext
\text("ジェシカ")
「さぁ、鎖を巻いたなら前を歩け。
 生きて朝日を浴びたいのなら、
 逃げようなどと考えないことだ」
\endtext
\text
ジャラジャラと、
重い鎖の音を響かせて歩く奴隷たち。
\endtext
\text
その鎖の一端をつかみ、
ジェシカは祈りを唱える。
\endtext
\text
今日より明日が、平穏でありますように。
\endtext
\text
明日よりいつかが、安らかでありますように。
\endtext
\text
鎖という名の法と、
武器という名の畏怖をその手にしながら。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,616 @@
\setgamedatatitle("ジェシカ_02")
\text
カザトリアに入ったジェシカは、
宿を探して歩いている。
\endtext
\text("ジェシカ")
(……すでに魔王軍がこの街を占拠していた
 とはね。道理で道中、魔物の数が多いはず
 だわ)
\endtext
\text
ジェシカは、この街に足を踏み入れた時の
ことを思い出す。
\endtext
\text
特に身元を改められるわけでもなく、
門番は奴隷を連れたジェシカを受け入れた。
\endtext
\text
衛兵の詰め所に行き、訳を話して奴隷を
引き渡したのが、2時間前だ。
\endtext
\text
それから情報収集を兼ねて
街のあちこちを歩いているが、
街は平穏そのものだ。
\endtext
\text
瓦礫が崩れていたりと、所々戦いの跡は
残っているものの、
戦争のあと特有の悲壮感がまるでない。
\endtext
\text
商人は元気に声を上げて呼び込みをし、
町娘は買い物袋を提げて歩いている。
\endtext
\text
驚いたのは、
その中に子供が混じっていることだ。
\endtext
\text
巡回している魔物を怖がりもせず、
駆け回って遊んでいる。
\endtext
\text("ジェシカ")
(この街が魔王軍によって占拠されて、
 1週間以上は経っているらしいが……)
\endtext
\text
それでも、この明るさは異常だ。
\endtext
\text
住人いわく、魔王軍は飢えていた住人に
食料を配給し、守備隊を創設し、
治安を回復させたのだという。
\endtext
\text("ジェシカ")
「軍の物資を住民に分け与える……か。
 なるほどね。人心をつかむには、
 最も手っ取り早くていい方法だわ」
\endtext
\text
ジェシカは魔王軍の手腕に感心しながら、
宿を求めて中央広場近くの酒場に入った。
\endtext
\text
店内は人でごった返し、
中には魔物の姿もちらほらと見受けられる。
\endtext
\text
人と魔物が一つのテーブルに付き、
酒を飲みかわしている光景は
ついぞ見たことがない。
\endtext
\text
ラスファの司祭、執行者としては
大変好ましくない状況だ。
\endtext
\text
魔物は混沌の象徴だ。
\endtext
\text
理性なく暴力を振るい、人々の安寧を妨げる。
\endtext
\text
魔物に対する嫌悪感が、
ゾワリと背筋を這い伝う。
\endtext
\text
しかし……ジェシカはそれらを視界から外し、
カウンターへと歩いていく。
\endtext
\text("ジェシカ")
(なんなのよ、ここは……)
\endtext
\text
ジェシカは涼しい顔を浮かべながらも、
内心では困惑していた。
\endtext
\text
魔物が人と酒を酌み交わしている。
\endtext
\text
人語を解すものもいて、
会話をしている者すらいる。
\endtext
\text
ここには、混沌はない。
\endtext
\text
あるはずのものがない。
\endtext
\text
胸に提げた聖印を掲げる大義名分が、
どこにもない。
\endtext
\text("ジェシカ")
「ミルクをいただけるかしら」
\endtext
\text("バーテンダー")
「あ? ここは酒場だぞ?
 こんなところにミルクなんか……」
\endtext
\text
グラスを拭いていた男が、
ジロリとジェシカを睨みつけた。
\endtext
\text
しかし彼女が胸から提げた聖印を見て、
顔色を変え、出かかっていた言葉も
飲み込んだ。
\endtext
\text("ジェシカ")
「ないのなら別にいいわ。
 代わりに宿を手配してちょうだい」
\endtext
\text("バーテンダー")
「は、はい。あの、ミルクはないんですが、
 水ならありますので、これをどうぞ……」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あらありがとう」
\endtext
\text("バーテンダー")
「こ、こちらが部屋のカギになります。
 御代は出られる時で結構ですので……」
\endtext
\text
男からカギを受け取ると、ジェシカは
グラスに注がれた水をコクンと一口飲んだ。
\endtext
\text
雪の舞う地域とはいえ、
1日中歩き通した身体は、乾ききっていた。
\endtext
\text
冷たい水が、身体に染み渡る。
\endtext
\text("")
「ラスファの司祭とは珍しいな」
\endtext
\text("ジェシカ")
「?」
\endtext
\text
突然後ろから声をかけられたかと思うと、
次の瞬間には、その声の主は
ジェシカの隣に座っていた。
\endtext
\text("カイム")
「マスター、いつものやつ頼む」
\endtext
\text("バーテンダー")
「は、はい。かしこまりました」
\endtext
\text("カイム")
「こっちにはウィンガの連中しか
 いないと思っていたが」
\endtext
\text("ジェシカ")
「よく私がラスファの司祭だって
 わかったわね」
\endtext
\text("カイム")
「さっき街で偶然見かけてな。
 追いかけてきた」
\endtext
\text("ジェシカ")
「ふぅん、そう。ウィンガも元をたどれば
 ラスファに行きつくのよ」
\endtext
\text
ジェシカは水をお替りし、
今度は少しずつ飲み始める。
\endtext
\text("カイム")
「そりゃ初耳だ。宗教には疎いもんでな。
 それで、ラスファの司祭が
 こんなところに何の用だ?」
\endtext
\text
みたところ、この男もディアボリカのようだ。
\endtext
\text
ラスファはその教義の関係で、
混沌を好む性質のあるディアボリカからは
敵視されることが多い。
\endtext
\text
この酒場にいるディアボリカの男たちからも、
先ほどから険しい視線を向けられている。
\endtext
\text("ジェシカ")
「ひょっとして私、襲われちゃうのかしら」
\endtext
\text
クスリと笑みを浮かべながら、
ジェシカが比較的大きな声でそう言った。
\endtext
\text
するとそれを聞いたディアボリカの男たち
数名が、ビクッと身体をこわばらせた。
\endtext
\text("カイム")
「ここでそんなことはしない」
\endtext
\text("カイム")
「まあ、確かにそういうのも嫌いじゃない
 が……おまえに話しかけたのは、合法的に
 おまえを抱くためだ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あなた、
 頭のネジが緩んでるって言われない?」
\endtext
\text("カイム")
「全くないな。そんなことを思われて
 いるのだとしたら、誠に遺憾だ」
\endtext
\text
軽薄な、どこにでもいる男。
\endtext
\text
ジェシカのカイムに対する印象は、
それだった。
\endtext
\text("ジェシカ")
「そういえば、私が何の用事でここに来たか、
 言ってなかったわね」
\endtext
\text
だからさっさと話を終えようと、
とっておきの言葉を口にする。
\endtext
\text("ジェシカ")
「この先のデンフロスクの街にある
 ウィンガの教会の連中がね、ラスファに
 泣きついてきたのよ。助けてくれって」
\endtext
\text("ジェシカ")
「それで、執行者である私が
 派遣されてきたってわけ」
\endtext
\text("バーテンダー")
「しっ……執行者……」
\endtext
\text
聞き耳を立てていたのだろう、バーテンダー
が手にしたグラスを落としそうになる。
\endtext
\text
執行者と聞けば、たいていの者は
そういう反応をする。
\endtext
\text
それで軽薄なナンパ野郎なら、
100%の確率ですごすごと逃げていく。
\endtext
\text("カイム")
「ほう、ということは……目的は
 魔王軍の討伐といったところか」
\endtext
\text
しかし、目の前のディアボリカの男は
顔色一つ変えない。
\endtext
\text("カイム")
「執行者のことは知ってるが、いくらおまえ
 の腕が立つと言っても、魔王軍を相手取る
 には分が悪いんじゃないか?」
\endtext
\text("カイム")
「魔王軍をそこいらの軍と同列に見ないほう
 がいい、と警告しておこう」
\endtext
\text
見た目からは判断がつかなかったが、
どうやらただの軽薄な優男ではないらしい。
\endtext
\text
ジェシカは目の前で笑う男の認識を改めた。
\endtext
\text("ジェシカ")
「私はジェシカ。ラスファ教司祭にして、
 執行者」
\endtext
\text("カイム")
「ジェシカか、いい名前だ。
 俺はカイム。魔王軍の頂点で勃つ男だ」
\endtext
\text
カイムが手を差し出し、
ジェシカもそれに応じる。
\endtext
\text
話が本当なら敵と味方同士だが、
不思議と嫌な感じはない。
\endtext
\text
むしろすがすがしくて、
気持ちのいい男だと思った。
\endtext
\text("ジェシカ")
「それで、その魔王軍のリーダーである
 カイム様がこんな酒場で何をしてるの?」
\endtext
\text("カイム")
「迷宮暮らしもなかなか退屈でな。
 いい女を求めて街に繰り出したところ、
 こうして見事目的を達成したというわけだ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あらそう、それはよかったわね。
 でもあなたが本当に魔王だとしたら、
 私とあなたは敵同士よ?」
\endtext
\text("ジェシカ")
「いい仲になりたくても、
 到底無理ってものじゃないかしら?」
\endtext
\text("カイム")
「心配ご無用。俺はいい女は殺さんからな。
 とらえて凌辱の限りを尽くし、
 最終的には俺のモノにしてみせるさ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「……そう簡単に行くかしらね。
 言っておくけど、私、強いわよ?」
\endtext
\text("カイム")
「そういう女を跪かせて、
 屈服させるのがいいのだ」
\endtext
\text("カイム")
「だから強くていい女はいつだって大歓迎だ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「ふふっ、やっぱりあなたの頭、おかしいわ。
 ネジがごっそり抜け落ちちゃってるみたい」
\endtext
\text("ジェシカ")
「でも、頭がおかしいのは私も一緒」
\endtext
\text("ジェシカ")
「今だって私ね、
 この場にいるディアボリカと魔物どもを
 殺したくって、うずうずしてるの」
\endtext
\text
ザワッと、酒場の空気が一変する。
\endtext
\text
ジェシカの身体から放たれる殺気が、
酒場を一瞬のうちに満たしていく。
\endtext
\text
ジェシカは微笑みを浮かべながらも、
その瞳は剣呑な輝きを放っている。
\endtext
\text("ジェシカ")
「もちろん、あなたのことも、
 殺したくってたまらないわ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「でも残念ながら、殺すことができないの。
 あなたが私に襲いかかってくれれば、
 心置きなく浄化できるんだけど」
\endtext
\text("カイム")
「…………」
\endtext
\text
ジェシカの凄味のある言葉、そして表情に、
カイムは鳥肌を立てていた。
\endtext
\text
しかし次の瞬間、カイムの口元が緩む。
\endtext
\text("カイム")
「クククッ……はーっはっはっはっ!!」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あら、
 冗談を言ってるつもりはないんだけど」
\endtext
\text("カイム")
「あぁ、すまんすまん。わかっている。
 おまえの殺気は本物だ。やろうと思えば、
 確かに俺以外の奴らは殺せるだろう」
\endtext
\text("カイム")
「笑ったのは、うれしかったからだ。
 おまえは間違いなくいい女だ。
 絶対に欲しい……必ず手に入れてやろう」
\endtext
\text("ジェシカ")
「私に勝てたら、ね。
 そのときは改めて考えてあげるわ」
\endtext
\text
ジェシカが笑ったとき、
酒場に一人の少女が現れた。
\endtext
\text
その少女はカイムを見つけるや否や、
人込みをかき分け……いや、勝手に開いた
人の道を通ってやってくる。
\endtext
\text("リズベル")
「見つけましたよカイム様!
 また軍議を抜け出して、こんなところで
 油を売って……」
\endtext
\text("リズベル")
「これで何度目だと思ってるんですか。
 いい加減にしてください」
\endtext
\text("カイム")
「言い訳はしない。
 見つかったからには、素直に帰ろう」
\endtext
\text("リズベル")
「もう、少しは悪びれてくださいよ~!」
\endtext
\text
少女はカイムの手を引き、酒場を出ていこう
とする。
\endtext
\text("カイム")
「ではな、ジェシカ。
 また会おう」
\endtext
\text("カイム")
「なぁ、笑ってもらえなかったんだが、
 頂点で勃つって、分かりにくいか?」
\endtext
\text("リズベル")
「分かりたくないです、そんなの」
\endtext
\text
バタンッと扉が閉まり、静寂が酒場に満ちる。
\endtext
\text
少女に対する酒場の連中の反応。
\endtext
\text
その少女が見せたカイムへの反応。
\endtext
\text
それらから判断するに……冗談だと思って
いたあの男の言葉は、本物ということになる。
\endtext
\text("ジェシカ")
「へぇ、あれが魔王カイム……か」
\endtext
\text
ジェシカは魔物たちを虐殺し、
カイムを追い詰め、命を奪う光景を
思い浮かべる。
\endtext
\text
グラスに半分ほど残った水を一気にあおり、
喉を鳴らして飲み干す。
\endtext
\text("ジェシカ")
「思っていたより、楽しめそうね」
\endtext
\text
聖職者とは思えない妖艶な微笑みを浮かべ、
ジェシカは唇を舐めたのだった。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,214 @@
\setgamedatatitle("ジェシカ_03")
\text
デンフロスクに到着したジェシカは、
教会へと向かった。
\endtext
\text
聖印を掲げ、ラスファの執行者であると
告げると、彼女は礼拝堂へと通された。
\endtext
\text("ウィンガ教司祭")
「これはこれは、
 遠いところを、よくおいでくださいました」
\endtext
\text
そこで待っていたのは、
ウィンガ教の司祭たちだった。
\endtext
\text("ジェシカ")
「いえ、これも神徒としての務めですから」
\endtext
\text
ジェシカは挨拶もそこそこに、
司祭たちを足元から頭まで、
値踏みするように見つめた。
\endtext
\text("ジェシカ")
「ここに来るまでの道すがら、
 ろくに食べるものもなく飢えた民たちを
 多く見かけました」
\endtext
\text("ジェシカ")
「……その点、あなた方はずいぶんと
 よい食事をとっておられるご様子」
\endtext
\text
ジェシカの言葉を皮肉ととり、
司祭たちはあわてた様子を見せる。
\endtext
\text("ウィンガ教司祭")
「そ、それは……」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あぁ、いえ。別に非難をしているわけでは
 ないのですよ?」
\endtext
\text
慌てふためく様子を充分に見た後で、
ジェシカは微笑みながら言葉を足した。
\endtext
\text("ジェシカ")
「我々は神の御言葉、御意志を民に伝える
 選ばれし大切な存在」
\endtext
\text("ジェシカ")
「そんな我々が民草とともに苦しんでいては、
 彼らに満足に神の御心を伝えることも
 できません」
\endtext
\text("ジェシカ")
「ですから、むしろ安心しているのですよ。
 ご健康でいらっしゃる司祭殿を見ることが
 できて」
\endtext
\text("ウィンガ教司祭")
「そ、そうでしたか。
 ご心配いただき、感謝いたします」
\endtext
\text("ジェシカ")
「ところで、ここに来るまでの間、魔王軍に
 占拠された町や村々を多く見かけました」
\endtext
\text("ジェシカ")
「現在の戦況は、いかがですか?」
\endtext
\text("ウィンガ教司祭")
「は、はい、それなのですが……」
\endtext
\text
司祭は地図を持ってこさせ、
それを広げて説明を始める。
\endtext
\text
その説明によれば、魔王軍はカザトリアを
拠点にし、今にもこのデンフロスクに
迫らんとしているらしい。
\endtext
\text("ウィンガ教司祭")
「我々キロス軍は雪上での戦いには慣れて
 いるものの、迷宮内での戦いにはいささか
 不慣れと言わざるを得ません」
\endtext
\text("ウィンガ教司祭")
「敵は地の利を生かし、わがキロス軍を
 苦しめております」
\endtext
\text("ウィンガ教司祭")
「そこで魔物退治の専門家でいらっしゃる
 ラスファの執行者、ジェシカ司祭に
 お越しいただいたというわけです」
\endtext
\text("ジェシカ")
「なるほど、状況はわかりました。
 追従させる兵の人選は私が行っても?」
\endtext
\text("ウィンガ教司祭")
「それはもう。我々キロス教会が可能な限り
 バックアップさせていただきます」
\endtext
\text("ウィンガ教司祭")
「必要なものがあれば、いつでも
 おっしゃっていただければと存じます」
\endtext
\text("ジェシカ")
「では寝所と食料、あとはこの地域一帯での
 独立行動の許可をいただけますかしら」
\endtext
\text("ウィンガ教司祭")
「は、それにつきましてはラスファ教団より
 事前に要請がありましたので、すでに
 許可証を発行させていただいております」
\endtext
\text("ジェシカ")
「お仕事が早くて助かりますわ。
 それでは私はこれで」
\endtext
\text
ジェシカは許可証を受け取ると、踵を返す。
\endtext
\text("ウィンガ教司祭")
「あの、食事の用意をさせていただいて
 おりますが……」
\endtext
\text("ジェシカ")
「ありがとうございます。ですが今日の
 うちに兵の人選を終わらせておきたいので。
 これにて失礼いたしますわ」
\endtext
\text("ウィンガ教司祭")
「おお、なんとも頼もしい……」
\endtext
\text("ジェシカ")
「戦は私にお任せを。あなた方は
 これまで通り、街を治めてくださいませ」
\endtext
\text
ジェシカは司祭たちにそう言葉をかけ、
教会を後にした。
\endtext
\text
教会を出たところで、
ジェシカはフウッとため息をつく。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あんな安っぽい言葉で納得するなんて、
 ウィンガの連中もたかが知れてるわね」
\endtext
\text("ジェシカ")
「……まぁ、せいぜい今のうちに肥え太って
 おくことね」
\endtext
\text("ジェシカ")
「この戦いが終わったら、審問にかけて
 牢獄にぶち込んであげるから」
\endtext
\text
そういって、
ジェシカは兵の詰め所へと歩いていく。
\endtext
\text
一度はやんでいた雪が、
また激しくなり始めている。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,74 @@
\setgamedatatitle("ジェシカ_04")
\text
吹雪の中、ジェシカは大きく口をあけた
迷宮の入り口に立った。
\endtext
\text
奥からは、血と鉄さび、そして魔物の体臭が
入り混じった悪臭が漂ってくる。
\endtext
\text
背後に控える兵たちは、
一様に緊張した面持ちで突撃開始の合図を
待っている。
\endtext
\text("ジェシカ")
「こんなに強烈で汚らわしいにおい……
 本当に久しぶりだわ」
\endtext
\text
スウッと、
胸いっぱいに迷宮奥からの悪臭を吸い込む。
\endtext
\text
魔物たちへの嫌悪感、憎しみ、殺意。
\endtext
\text
それらが彼女の身体から、
心から、恐怖という感情を消し去っていく。
\endtext
\text("ジェシカ")
「ふふっ、待ってなさい、魔王カイム。
 最高にみじめで無残な殺し方を
 してあげるわ……ふふっ」
\endtext
\text
獲物のアーバレストに矢を装填する。
\endtext
\text("ジェシカ")
「総員、抜剣」
\endtext
\text("兵士たち")
「うぉぉぉぉおおおおおっ!!」
\endtext
\text
ジェシカがそう命じると、
雄たけびとともに兵たちが剣を引き抜いた。
\endtext
\text("ジェシカ")
「それじゃあ、討伐開始。焦らなくていいわ。
 ゆっくりゆっくり、じわじわと魔物たちを
 なぶり殺してあげましょう」
\endtext
\text
ジェシカが兵たちを伴い、
迷宮へと足を踏み入れる。
\endtext
\text
雪の激しい、朝方のことである。
\endtext

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View file

@ -0,0 +1,681 @@
\setgamedatatitle("ジェシカ_14")
\text
薄暗く、湿った空気が漂う牢獄。
\endtext
\text
鎖で拘束したジェシカを、
ゴブリンの群れに襲わせて、早1週間。
\endtext
\text
経過を確認しようと、
カイムは案内のゴブリンに連れられて
牢獄へとやってきた。
\endtext
\text
鉄格子の前で、足を止める。
\endtext
\text("カイム")
「ほう? これは……」
\endtext
\text
中の様子を見て、
カイムは口元に笑みを浮かべた。
\endtext
\text("ジェシカ")
「んひぁぁぁああっ! だめっ、イクっ!
 イックゥゥゥゥゥウウウウウッ!!」
\endtext
\text
嬌声を上げ、痙攣をするジェシカ。
\endtext
\text
1週間ぶりに見た彼女は、
ひどく薄汚れていた。
\endtext
\text
それもそのはず、ジェシカはこの1週間、
休む間もなく犯され続けているのだから。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あーーーーっ! もうだめっ!
 お尻っ、はいらなっ……ひっ、あぁっ!!」
\endtext
\text("カイム")
「よく見れば相手はゴブリンじゃないな」
\endtext
\text("ゴブリン")
「へいっ、俺らゴブリンはあらかた
 ヤリ終えてへばってたので、
 オークの旦那方に応援を頼みやした」
\endtext
\text("カイム")
「クククッ、なるほどな。
 1週間ぶっ通しで犯しても、
 それでもまだ折れんか」
\endtext
\text("ゴブリン")
「へい。さすがは噂に聞く執行者。
 俺らもびっくりしてまさぁ」
\endtext
\text
牢番のゴブリンはジェシカを見ながら、
何度も頷いた。
\endtext
\text
ジェシカに対して恨みを持っていた
ゴブリンたち。
\endtext
\text
しかし彼女の精神力の強さを目の当たりに
して、一部彼女のことを認める空気が
形成されつつある。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あ……が……」
\endtext
\text
射精が終わり、肉棒が引き抜かれた。
\endtext
\text
睡眠も満足にとってないのだろう、
虚ろな目をしたまま、ビクビクと震えている。
\endtext
\text("ジェシカ")
「わ、わら……ひは……。
 ど、奴隷……なんか、じゃ……な、ひ」
\endtext
\text
そして小さな声で、そうつぶやく。
\endtext
\text
それは相手に訴えるというよりは、
自分自身に対して言い聞かせているように
見える。
\endtext
\text("カイム")
「よく耐えるな、ジェシカよ」
\endtext
\text
カイムがそう声をかけると、
ゆっくりとジェシカが視線を向けてくる。
\endtext
\text
すると消えかかっていた瞳の奥の炎が、
再度燃え上がる。
\endtext
\text("ジェシカ")
「カ、カイムッ……殺して……やるっ!!
 私は、負けないっ!! 絶対に耐えて……
 耐えて、見せ……」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あっ、あーーーーーーーーーっ!!
 あーーーーーーーーっ! あーーーーっ!」
\endtext
\text
言葉は途中で、意味のない大絶叫へと変わる。
\endtext
\text
別のオークがジェシカの肛門に
肉棒を突きこんだからだ。
\endtext
\text
ゴブリン同様、オークにとって、
今のジェシカはただの肉穴に過ぎない。
\endtext
\text
その肉穴が何をしていようと、
関係がない。
\endtext
\text
会話の途中だろうが、お構いなしに穴を使う。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あっ、あっ、ひっ……あぐぅっ!!
 お尻っ、あぁっ、広がるっ、お尻がっ……」
\endtext
\text("カイム")
「オークと交代して、何日が経つ?」
\endtext
\text("ゴブリン")
「へ、へい……えぇっと、
 2日ですから、今日で3日目になりやす」
\endtext
\text("ゴブリン")
「マ●コのほうはオークの旦那には
 緩かったみたいで、最初からずっと
 ケツ穴ばっか使ってるようでさぁ」
\endtext
\text("カイム")
「クククッ、なるほど、3日か。
 それだけケツ穴を掘られれば、
 広がっても不思議ではないな」
\endtext
\text("カイム")
「いや、事実もう拳が入るぐらいには
 拡げられてるんじゃないのか?」
\endtext
\text("ジェシカ")
「そ、そんなっ……ひどっ、いっ!!
 だ、誰のせいでっ……あぁっ!!!」
\endtext
\text
オークは荒々しく腰を振る。
\endtext
\text
肉棒をしごく為だけにジェシカの肛門を使う。
\endtext
\text("ジェシカ")
「んひぃぃぃあああっ!! だめ、あぁっ!
 もうこんなのっ……耐えられ、なっ……」
\endtext
\text
ジェシカはギリッと歯を食いしばり、
快感に耐えようとする。
\endtext
\text
しかし調教され尽くしている彼女の肛門は、
肉棒の抽送によって
抗いがたいほどの快感を得てしまう。
\endtext
\text("カイム")
「ふむ、もうそろそろ堕ちるか?」
\endtext
\text
ジェシカの口から弱音が漏れ始めたのを聞き、
カイムの心は躍った。
\endtext
\text
強い女性が心を折られる瞬間が
何より好きだと公言している魔王カイム。
\endtext
\text
ジェシカにもその時が訪れたのかと、
わくわくしながら見守る。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あぐっ、んっ、ぁぁぁあああっ!!
 はぁ、んっ、あはぁっ、あひぃっ!!」
\endtext
\text
しかしあと少しのところで、
ジェシカは踏みとどまっている。
\endtext
\text("ゴブリン")
「俺らもそう思って頑張ったんですがね、
 無理無理。あの執行者、どうやっても
 堕ちやせんぜ」
\endtext
\text("カイム")
「一体、あいつの何がそうさせているんだ」
\endtext
\text("ゴブリン")
「たぶんでやすが、意地じゃねぇですかね。
 おそらくあの執行者さんは、意地だけで
 この1週間を耐えてるんだと思いやす」
\endtext
\text("カイム")
「意地だと?」
\endtext
\text
カイムは驚くとともに、笑う。
\endtext
\text
ジェシカの場合、教団組織に恩義はあれど、
その実態に愛想を尽かしている面もあると
報告を受けている。
\endtext
\text("ジェシカ")
「ゆ、ゆるさ……なひ……。
 魔物は、絶対、私が……駆逐、して……」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あっ、あーーーーーーーーーーっ!!
 だめっ、深いぃっ!! そんな奥まで、
 お尻っ……突いたらっ……またっ!!」
\endtext
\text
ジェシカの精液まみれの身体が、
ビクンッとのけぞる。
\endtext
\text("ゴブリン")
「あ、あの執行者さん、イキやすぜ。
 マ●コよりケツ穴のほうが好きみたいで、
 すぐイクんでさ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「だ、だめぇっ!! もう中にはっ、
 中には出さないでっ!!」
\endtext
\text("ジェシカ")
「お腹の中がっ、精液で、いっぱ……」
\endtext
\text
オークはジェシカの言葉を無視し、
勢いをつけて肉棒で直腸をえぐる。
\endtext
\text
それがとどめとなり、ジェシカは
豊かな乳房を揺らし、絶頂させられる。
\endtext
\text("ジェシカ")
「んひっ、あーーーーーーーーーーーっ!!
 イグッ、イクッ、あひぁぁああっ!!」
\endtext
\text
直腸内はもとより、
その奥にまで精液が入り込んでいく。
\endtext
\text
すでに100を超える数の精液を
肛門で受け止めさせられ、
ジェシカは狂ったように悶える。
\endtext
\text("ジェシカ")
「らめっ、なっちゃ……らめっ!!
 気持ちよくっ、なったら……あーーーっ!」
\endtext
\text
嬌声も切羽詰ったものになり、
完全に余裕が失われている。
\endtext
\text
その場にカイムがいることも忘れ、
痴態を晒してしまっている。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あはぁっ! あはっ……だめなのにっ!
 お尻の穴っ、犯されてっ、私っ……」
\endtext
\text
肉穴奴隷として股を開き、肉棒をしごく事に
快感を味わい、喜びを感じ始めている。
\endtext
\text("ジェシカ")
「でもっ……私はっ、執行者……なのぉっ!
 魔物なんかにっ、好きにされて、
 喜ぶなんて、そんなの認めなっ、ひっ……」
\endtext
\text
しかし最後の最後で、
ジェシカの意地が邪魔をする。
\endtext
\text
素直に犯されることを良しとしない。
\endtext
\text("ジェシカ")
「殺してやるぅぅぅうううっ!!
 魔王もっ、魔物もっ、その味方も全員っ!
 全員私が殺してやるからぁぁああっ!」
\endtext
\text
残った理性……いや矜持で、
ジェシカは憎しみを保ち、それをばらまく。
\endtext
\text("カイム")
「クククッ、素晴らしい。
 素晴らしいぞジェシカ」
\endtext
\text("カイム")
「それでこそ心の折り甲斐がある。
 それでこそ、我が肉奴隷にする甲斐がある
 というものだ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「んぎっ、ひぃぃああっ!!
 らめっ、やめてぇぇええっ!!」
\endtext
\text("ジェシカ")
「せめてお尻は、やめてっ……!
 オマ●コっ、オマ●コにしてぇっ!!」
\endtext
\text
抜かずの再抽送を受け、
ジェシカは涎を垂らしながら叫んだ。
\endtext
\text
しかしオークは鼻息荒く、彼女の肛門に
異常な執着を見せ、犯し続けた。
\endtext
\text
ジェシカが放つ殺気に反応して、
興奮しているのだ。
\endtext
\text("カイム")
「おまえが意地だけで抵抗し続けるなら、
 俺は凌辱のみでその心を折ってやろう」
\endtext
\text("ゴブリン")
「うへぇ……執行者さん、頑張るなぁ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あがっ、あひぃぃいいっ!
 お尻がっ、お尻がもうっ、あぁっ!!
 馬鹿になるぅぅううっ!!」
\endtext
\text
オークの肉棒が、
グチュリと粘膜をこじ開けて入り込む。
\endtext
\text
すでにジェシカの肛門はオークのそれですら
根元まで飲み込むほどに拡張されている。
\endtext
\text
それでもまだ膣穴よりは
締まりがいいというゴブリン。
\endtext
\text
膣穴がどれほど拡張されてしまっているかは、
その言葉からうかがい知れる。
\endtext
\text("カイム")
「クククッ、もはや人間のチ●ポでは
 満足に快感を得られん身体になったか」
\endtext
\text("カイム")
「いや、もともとそうなのだったな。
 昔に戻れてよかったな、ジェシカ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「ゆるさっ、なっ……あひぃっ!!
 わ、私をこんなっ、身体にしてっ……
 絶対……ゆるさなっ……んぁぁああっ!」
\endtext
\text
エラの張った亀頭が、
ゴリゴリと直腸粘膜を引っ掻き回す。
\endtext
\text
ジェシカの膣穴からは愛液だか精液だか
わからない汁が絶え間なくあふれ続けている。
\endtext
\text("カイム")
「だが安心しろ。
 俺のモノは人間のそれよりはるかに
 優れている」
\endtext
\text("カイム")
「どんなにおまえの穴が拡がろうとも、
 俺はおまえを気持ちよくしてやれるぞ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「そ、そんなことっ……誰も聞いてな、
 ひっ……」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あぁっ、あっ、あーーーーっ!!
 あぐっ、またっ……また来るっ!
 来ちゃうっ!!」
\endtext
\text
ジェシカの身体が小刻みに震え、
徐々に痙攣が大きくなっていく。
\endtext
\text
アクメを必死に我慢しようとしている様子が
よくわかる。
\endtext
\text("カイム")
「クックックッ、
 本当におまえはケツ穴が好きなのだな」
\endtext
\text("カイム")
「我慢することはないぞ。
 おまえはもう執行者ではないのだ」
\endtext
\text("カイム")
「ただの肉穴奴隷なのだから、
 気持ちよくなることを拒まなくとも良い」
\endtext
\text("ジェシカ")
「んひぃっ! いっ、いやっ!!
 そんなのっ、ぜったいいやぁぁああっ!!」
\endtext
\text
ジェシカは必死に抗い続ける。
\endtext
\text
大きく肩で息をして、涎を垂らし、
鼻水を垂らしていることにすら気づかない。
\endtext
\text
しかし我慢に我慢を重ねたところで、
オークは肛門をえぐり続ける。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あっんぁぁぁあああっ!!
 らめっ……はひぃっ!? もうらめっ!
 いやらっ、見ないでっ……見ないでぇっ!」
\endtext
\text
拘束され、股を開かされているジェシカに、
オークの肉棒から逃げるすべなどない。
\endtext
\text
強引に、無遠慮に肛門をほじくりまわされ、
我慢の果てに絶頂させられる。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あーーーーっ!! だめ、もうだめぇっ!
 イクッ、イクイクイクぅぅううっ!!
 お尻でイクッ、イグぅぅううっ!!!」
\endtext
\text("ジェシカ")
「んあっ、あぷっ……んっ、んはぁっ!!
 らめっ、かけないでっ、ンブッ!!」
\endtext
\text
オークは肉棒を肛門から引き抜き、
ジェシカの身体めがけて射精する。
\endtext
\text
ゴブリンのそれとは比べ物にならないほどの
量の精液が、バシャバシャとジェシカに
降り注ぐ。
\endtext
\text("ジェシカ")
「はふっ、んっ……すごいっ、においっ……
 あぁ、だめっ……頭が、変になるっ!」
\endtext
\text
身体だけでなく、顔にまで精液がかけられる。
\endtext
\text
立ちのぼる精臭をまともに吸い込まされて、
ジェシカの頭は陶然としてしまう。
\endtext
\text("ジェシカ")
「こ、このにおい……だめぇっ……。
 あふっ、んっ、あぁっ!! やめてっ、
 もうこのにおい、嗅がせないで……」
\endtext
\text
精液の臭いが、ジェシカの記憶を
より鮮明に掘り起こすのだろう。
\endtext
\text
ジェシカはその記憶を振り払おうと、
首を弱々しく横に振る。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あぐ、あ……は、はへぁ……」
\endtext
\text
1匹が射精すれば、次のオークがジェシカの
肉穴に肉棒をねじ込む。
\endtext
\text
何度も何度も、彼女が起きているときも
寝ているときも、関係なく繰り返される。
\endtext
\text("ジェシカ")
「ひゃめ……へ、んふぁ……。
 チ、チ●ポ……やめへ……精液、もう……」
\endtext
\text
堕ちそうで堕ちないジェシカ。
\endtext
\text("カイム")
「……」
\endtext
\text
カイムはそんな彼女を見ながら、
改めて自分のものにしたいと願う。
\endtext
\text
そのためには、もっと犯してやらなければ、
との考えに至る。
\endtext
\text("カイム")
「堕ちるまで続けろ。
 徹底的に犯しぬいて、肉穴奴隷としての
 自覚を呼び起こしてやれ」
\endtext
\text("ゴブリン")
「へい、了解でやす」
\endtext
\text("カイム")
「2度と這い上がろうなどと
 思わないようにな……クククッ……」
\endtext
\text
カイムはゴブリンやオークにそう命じて、
その場を立ち去った。
\endtext

View file

@ -0,0 +1,723 @@
\setgamedatatitle("ジェシカ_15")
\text
さらに1週間が過ぎたころ。
\endtext
\text
カイムはみたび牢屋へとやってきた。
\endtext
\text
グチュリ、ニチュリと水音がする中、
時折ジェシカのものと思しき嬌声が上がる。
\endtext
\text("カイム")
「おぉ、やってるな」
\endtext
\text
カイムは上機嫌で牢屋の奥をのぞき見た。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あがっ……はっ、
 ひっ、ぎひぃぃぃあああっ!!」
\endtext
\text
ジェシカの膣穴を、肉棒がえぐる。
\endtext
\text
目を見開き、涎を滴らせ、
ジェシカは狂ったように悶えている。
\endtext
\text("カイム")
「クククッ、
 相変わらず大人気だな、ジェシカ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「んひぃっ! あっ、がっ……だめっ、
 入らなっ、もうだめっ、裂けちゃ……」
\endtext
\text("ジェシカ")
「んぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!」
\endtext
\text
ジェシカの腕を優に上回る太さの肉棒が、
膣穴をこじ開けて出入りしている。
\endtext
\text
カイムはその様子を見て、
ピクッと眉を跳ね上げた。
\endtext
\text("カイム")
「おや? よくよく見れば相手は
 オークじゃなくてトロルではないか」
\endtext
\text("カイム")
「オークの種が尽きるまで犯されたか。
 クククッ、おまえももうそろそろ
 限界なのではないか?」
\endtext
\text
牢獄の中は、汗と精液の臭いで充満している。
\endtext
\text
そんな中で休む間も与えられず、
数週間もの間延々と犯され続けたジェシカ。
\endtext
\text("ジェシカ")
「う、あ……が、あはっ!!
 んふぁっ!? らめっ、出したららめっ!
 オマ●コらめっ……中出しらめぇっ!!」
\endtext
\text
ジェシカの身体がビクンッとのけぞる。
\endtext
\text
トロルはジェシカの身体に覆いかぶさると、
そのまま腰をブルリと震わせた。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あぐっ、あっ……あーーーーーーーーっ!」
\endtext
\text
もはや言葉にもならない嬌声を上げ、
ジェシカは絶頂する。
\endtext
\text
膣内にはトロルの肉棒から吐き出された
精液が、ドバドバと入り込んでいく。
\endtext
\text
しかし狭いジェシカの膣穴には行き場がなく、
すぐさま黄ばんだ粘液質な子種を吐き出す。
\endtext
\text("ジェシカ")
「んぎっ……ひっ、あーーーーーっ!
 あーっ、あーーーっ! あーーーーっ!」
\endtext
\text
ビクンビクンと痙攣しながら、
奇声を発するジェシカ。
\endtext
\text
瞳からは意思の色が消えかかっており、
籠絡は時間の問題と思われた。
\endtext
\text("ジェシカ")
「ら、め……わらひ、も、もう……。
 あひっ……こ、こんな……の……」
\endtext
\text
ジェシカの身体には無数の精液が
こびりついている。
\endtext
\text
延々と、魔物たちが命令通りジェシカを
犯し続けた何よりの証拠。
\endtext
\text
それを見て、カイムはほくそ笑む。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あ、あ……が、あはぁ……」
\endtext
\text("カイム")
「さしもの執行者様も、
 陥落寸前といった感じだな」
\endtext
\text("カイム")
「いや、たいていの女が1週間で堕ちる
 凌辱にこれだけ耐えたのだから、
 むしろよくやったというべきか」
\endtext
\text
牢獄の外に立ち、笑うカイム。
\endtext
\text
ジェシカはようやくそこで、
カイムの存在に気付く。
\endtext
\text
重たくなり、力が入らなくなった身体に
鞭打ち、カイムへと顔を向けた。
\endtext
\text
そして切れ切れの声でつぶやく。
\endtext
\text("ジェシカ")
「も、もう……や、やめ……て……」
\endtext
\text
その言葉を受けて、
カイムはにんまりと笑った。
\endtext
\text("カイム")
「ならば俺のものとなるか?」
\endtext
\text
カイムの問いに、ジェシカは答えない。
\endtext
\text("ジェシカ")
「う、うぅっ……うぅっ……」
\endtext
\text
しかし拒みもしない。
\endtext
\text
逡巡し、答えあぐねている。
\endtext
\text
たっぷりと30秒ほど、
ジェシカは口を閉ざしていた。
\endtext
\text
だがやがて、意思の光を失った瞳で
カイムを見ると、弱々しく首を横に振った。
\endtext
\text("ジェシカ")
「わ、私は……もう、あのころとは、
 ち、違…う……」
\endtext
\text("カイム")
「ほう、まだ耐えるか。だが俺には分かる。
 もうおまえの心は限界だ」
\endtext
\text("カイム")
「さぁ、手折ってやろう。
 おまえのその、くだらないプライドをな」
\endtext
\text("ジェシカ")
「うぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!」
\endtext
\text
ジェシカの膣穴に、
ゴリュッと太い肉棒がねじ込まれる。
\endtext
\text
そして乱雑にトロルは腰を振る。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あひぃぃぃいいいっ! またオマ●コっ、
 あぁっ!! ダメって言ったのにっ、
 だめっ、だめってっ、あぁっ!!!」
\endtext
\text("カイム")
「おまえの意志など関係がない。
 俺は言ったはずだ。おまえが堕ちるまで、
 徹底的に犯しぬくと」
\endtext
\text
大股を広げさせられたジェシカの股間に、
容赦なくトロルが巨根を突き立てる。
\endtext
\text
ズポッ、ズルルッと出入りするたびに、
膣粘膜がめくれ、愛液が掻き出される。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あぁっ、ひっ、んひぁぁぁあああっ!
 らめっ、オマ●コがぁっ、もうオマ●コっ、
 めちゃくちゃに、ンヒィィイイッ!」
\endtext
\text
カリ首がゴリュッと膣粘膜をひっかくたびに、
ジェシカは喉が裂けんばかりに嬌声を上げる。
\endtext
\text("ジェシカ")
「やめ、てっ……もうやめてっ、やめてっ!
 やめてやめてやめてぇぇぇえええっ!!」
\endtext
\text("カイム")
「やめて欲しければ、俺を殺すんだな。
 だがお前には、絶対俺は殺せない」
\endtext
\text
カイムは牢の中に立ち入り、
ジェシカをすぐ傍で見下ろす。
\endtext
\text("カイム")
「なぜならば……
 おまえはそれを望んでいないからだ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「なっ……そ、んな、ことっ……」
\endtext
\text
ジェシカは否定の言葉を紡ごうとする。
\endtext
\text
しかしトロルの肉棒がもたらす快感が、
それを遮った。
\endtext
\text("ジェシカ")
「んぁぁああっ! アヒィッ!?
 し、子宮がっ、だめぇっ!! 押し潰され
 ……あっ、あぁぁぁあああっ!!」
\endtext
\text("カイム")
「おまえはマゾなのだ。
 囚われた10年間で、おまえの身体は
 調教されつくしてしまった」
\endtext
\text("カイム")
「一度覚えてしまった快楽は、
 決して忘れることはできない」
\endtext
\text("カイム")
「肉穴奴隷として再び鎖に繋がれ、
 犯しぬかれることをお前の心と身体は
 望んでいるのだ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「わ、私がっ……? そ、そんなことっ……
 あ、あるはずなっ……いっ、に、肉穴……
 奴隷なんて……」
\endtext
\text("ジェシカ")
「肉穴っ……あぁっ、肉穴っ……」
\endtext
\text
ジェシカの瞳の奥に、薄暗い焔が灯った。
\endtext
\text
それは、情欲の焔。
\endtext
\text
理性を溶かし、飲み込み、燃え広がる
危険な焔。
\endtext
\text("ジェシカ")
「だ、めっ……だめなの、それだけは……。
 私はもう……肉穴、なんかじゃ……
 あ、あぁっ……」
\endtext
\text
その焔は、
かつてジェシカの身体の内で燃え盛っていた。
\endtext
\text
しかし長い年月をかけて、禁欲的な生活をし、
なんとかしてその焔を消していた。
\endtext
\text
だがカイムによって、再びその心に、身体に、
火を灯されてしまった。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あっ、ひっ……だめっ、オマ●コっ、
 だめっ……ほんとに、だめっ……」
\endtext
\text
それまでのジェシカの嬌声とは違い、
微かにではあるが甘い響きが混じり始める。
\endtext
\text
理性を溶かし、それを舐めながら、
情欲の焔は大きくなっていく。
\endtext
\text("カイム")
「認めろ。自らの欲求を。
 おまえが何を欲しているのかを、
 自らの心に問うのだ」
\endtext
\text("ジェシカ")
「うっ、んうっ、あっ……あはぁっ!
 い、いや……もうっ、あはぁぁああっ!」
\endtext
\text
ゴブリンの輪姦から始まり、オーク、
そしてトロルへと払い下げられたジェシカ。
\endtext
\text
その身体は、精液で汚れていないところなど
どこにもない。
\endtext
\text
食事中も、眠っている時ですら、
犯され続けてきたジェシカ。
\endtext
\text
ジェシカの都合などお構いなしで、
魔物たちの好きな時に好きなだけ、
穴を使われる日々。
\endtext
\text("ジェシカ")
「わ、私……に、肉、穴……。
 ま、魔物の……性処理用の……に、肉穴」
\endtext
\text
現実を突きつけられ、
それから目をそらすことができないジェシカ。
\endtext
\text("ジェシカ")
「そ、そんなのっ……認め、なひっ……!
 私が肉穴だなんてっ、奴隷だなんてっ!」
\endtext
\text("ジェシカ")
「せ、精液を排泄するための便器だなんて、
 そ、そんなの……認め、られるはず、
 なっ……あ、あひぃぃいいっ!!」
\endtext
\text
ジェシカの子宮が、ゴチュッと
トロルの肉棒によってこねつぶされる。
\endtext
\text
抗いがたい快感がジェシカの全身に広がり、
ビクビクッと痙攣する。
\endtext
\text
それを見たカイムが、
鬼の首を取ったかのように笑う。
\endtext
\text("カイム")
「ではなぜそんなにも感じているのだ?
 モノのように扱われ、本来ならば激怒して
 快感など感じないのではないか?」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あぐぅっ! んひっ、あっ、あはぁっ!
 黙れっ……うるさいっ、うるひゃいぃっ!」
\endtext
\text
ろれつが回らなくなった口で、
精一杯カイムの言葉を否定する。
\endtext
\text("カイム")
「感じているということは、
 喜んでいるということだ」
\endtext
\text("カイム")
「ほら、またイクのだろう?
 トロルのチ●ポにかき回されて、
 涎を垂らしながらイクのだろう?」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あぎっ、んっ、あふっ……あふぅっ!
 ちがっ、い、いかなっ……ひっ!?
 わらひはっ、わらひはぁっ!!!」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あがっ……ちが、うっ……。
 奴隷じゃ、なひ……肉穴じゃ、なひ……」
\endtext
\text
ブツブツとうわごとのように
つぶやくジェシカ。
\endtext
\text
しかしその身体は、カイムの指摘通り
アクメを迎えつつある。
\endtext
\text("カイム")
「違わない、おまえは、マゾだ。
 自分の身体がモノのように扱われることに、
 幸せを感じる変態なのだ」
\endtext
\text("カイム")
「魔物を殺して、心が満たされたか?
 幸せを感じることができたか?」
\endtext
\text("ジェシカ")
「だ、だま……れ……。
 違う、私は……違う、違う……」
\endtext
\text
しかし、ジェシカはカイムの言葉を
否定しきれない。
\endtext
\text
心の天秤が、どんどんと均衡を欠いていく。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あぁっ、んっ……だめっ、あぁっ!!
 イッ、クッ……またっ、私っ、あひぃっ!」
\endtext
\text("カイム")
「つまりは、それが答えだ。
 さぁ、イクがいい。そして幸せになれ」
\endtext
\text
ジェシカの膣奥に、トロルの巨根が滑り込む。
\endtext
\text("ジェシカ")
「だめっ、あぁっ……イクっ!!
 無理やりオマ●コ犯されてっ、私っ!!
 イクッ、イクゥゥゥウウウッ!!!」
\endtext
\text
トロルが雄たけびを上げると同時に、
ビュルルルルッと音を立てて精液が迸った。
\endtext
\text("ジェシカ")
「あぎっ、ひぁぁぁぁあああっ!!
 出てるっ、オマ●コに精液……でてるっ!」
\endtext
\text("ジェシカ")
「妊娠、しちゃっ……あひぃっ!!
 トロルの赤ちゃんなんてっ、
 もう生みたくなっ……あふぁぁああっ!!」
\endtext
\text
ミッチリと奥までねじ込まれた肉棒の先は、
子宮口に密着している。
\endtext
\text
その状態で、トロルは次から次へと
無遠慮に精液を吐き出していく。
\endtext
\text("ジェシカ")
「に、妊娠、しちゃうっ!!
 い、いやなのにっ……いやなのにっ、
 あはぁっ!! なんでこんなっ……」
\endtext
\text("カイム")
「クックックッ、気持ちいいのだな?
 いいぞ、存分に感じるがいい」
\endtext
\text("カイム")
「今まで我慢し続けてきた分を、
 取り戻すくらいにな」
\endtext
\text("ジェシカ")
「あ、あぁっ……まだ出てっ……るっ!
 精液っ、オマ●コに流し込まれてっ……
 あぁ、私っ……感じて、るっ……」
\endtext
\text
ビクビクッ、ビクンッと、面白いほどに
ジェシカの身体は痙攣する。
\endtext
\text
膣穴は締まり、
トロルの肉棒から精液を絞り出していく。
\endtext
\text("ジェシカ")
「だめなのにっ……私は執行者で……
 魔物なんかにっ、好き勝手……
 あっ、あはぁぁああっ!!」
\endtext
\text
トロルが声を上げ、
ズブリュッと一際力強く膣穴を穿ち、
精液を流し込む。
\endtext
\text
ジェシカはその瞬間、己の無力さを悟った。
\endtext
\text
そしてその快感に、
心が砕かれる音を聞いた気がした。
\endtext
\text("ジェシカ")
「う、あ……は、あはぁ……」
\endtext
\text
肉棒が引き抜かれた膣穴から、
ドバドバと精液があふれ出す。
\endtext
\text
便器のように精液を浴びせられながら、
ジェシカは自分の立場を嫌というほど
思い知らされる。
\endtext
\text
そして自分の、心の内についても……。
\endtext
\text("ジェシカ")
「わ、私……」
\endtext
\text
どろりとした精液を浴びながら、
ジェシカは弱々しくつぶやいた。
\endtext
\text("ジェシカ")
(これを……望んで、いたの?
 魔物に……穴という穴を、犯しつくされて、
 好き放題、種付け、される毎日を……)
\endtext
\text("ジェシカ")
(こ、このままじゃ……
 本当に、奴隷に、されちゃうわ……)
\endtext
\text("ジェシカ")
(あの時みたいに、毎日毎日、オマ●コや
 お尻の穴をオチ●ポでかき回されちゃう)
\endtext
\text("ジェシカ")
「……ゴクッ」
\endtext
\text
ジェシカの喉が、ゴクッと音を立てた。
\endtext
\text("カイム")
「ん? おいジェシカ? 大丈夫か?」
\endtext
\text
カイムはしばらくジェシカを見下ろして
いたが、彼女がしゃべらなくなると、
心配そうに顔を覗き込んだ。
\endtext
\text("カイム")
「ふむ、気絶しただけか。
 さすがに無理をさせすぎたやも知れんな」
\endtext
\text
カイムは部下にジェシカの介抱を命じ、
自らは牢獄を後にする。
\endtext
\text("カイム")
「だがもうすぐだ。
 もうすぐジェシカは……俺のものに」
\endtext
\text("カイム")
「クククッ、ふははははっ!!
 その時が楽しみだ」
\endtext
\text
カツカツと靴音を響かせて、
カイムは闇の中へと姿を消した。
\endtext

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